ピクニック日和
「さすがに、もうお店を買えちゃうんじゃないかな?」
ワクワク顔でコーデリアさんが訊く。
魔剣製造の情報はさすがにお高くて、ロックさんと山分けの私でも、充分にお店を買えてしまう額がある。
こんな額で大丈夫かと思ったら、エクレールさん曰く
「非公開の秘匿情報として、個人的に売買するだろうね。魔剣の製造方法ともなれば、その倍額をふっかけてもおかしくないよ」
私が手にした情報は、なるべく公開した方が良いらしい。
『雷炎傭兵団』の囲い込みのように言われてしまうのも癪だし、周りからやっかまれてしまうのも嫌だ。
個人的に見つけたものは隠したりしても、今回のように公開で採取ツアーして見つけたものは、全情報を公開してしまうくらいで良いそうな。
「それでも、やっかむ人はやっかむんだから、気にしてもしょうがない」
なんて、ルフィーアさんのように達観できない小心者は、全情報を公開した挙げ句に、情報料の多額さに怯えてたりする。石油やミスリルの件もあった上だもん。
もうさっさとお店を買って、口座の残高を平和な金額にしちゃいたい。
「希望は1階がお店で、地下に工房。2階に住む感じだっけ?」
「住むお部屋は6畳程度の広さでいいです。あまり広いと落ち着かないんで……」
設計と建造を請け負ってくれるザビエルさんの質問に答えると、シフォンに笑われた。
「お店や、工房の広さに6畳間作って、他はどうするのよ!」
だだっ広いフロアに、ポツンと箱のような6畳間がある風景を想像して、自分でも笑ってしまう。
でも、他にどうしろと……。
「とりあえず、同じような部屋をいっぱい作っておいて、倉庫にしておけばいいでしょ?」
「後はフレーバーだけど、お風呂やトイレ、台所みたいなものも作っておくとかね」
ゲーム内だから不要といえば不要なんだけど、本来あるべき生活器具を供えておくのも、雰囲気作りに良いそうな。
こんな風に、みんなで集まれる場所も欲しいかな?
「でも、私はログイン時間が短いから、お店作ると忙しくなりすぎないかな?」
「そこは大丈夫よ……」
既にブティックを開いてるシフォンが、ニッコリと。
「お店を開くと、店員NPCを設定できるようになるの。レジや製品説明はお任せになるし、製品製造も、自分と同じ能力のお手伝い妖精を買えるから、指示すればオーケー。……シトリンは好きなことをしていられるわよ」
「本当? NPCも妖精にしてしまおう……」
「好きになさい。でも、店員の制服は私に作らせてね!」
やっぱり、そこは譲れないのか。
そんな横で、ルフィーアさんとコーデリアさんが、変な盛り上がり方してる。
「シトリンさんのお店なら、イメージカラーは白と緑よね」
「そうそう、白い建物に、緑の看板で……」
「お店のキャッチフレーズは、やっぱり……」
「「お値段以上、シトリン!」」
「ルフィーアさん、コーデリアさん。それ、違うお店!」
そんな馬鹿話をしながら、今日は一日延ばしの湖へ。
まだ樹脂材は見つかってないけど、大発見続きで、みんな今日はのんびりしたい気分。
湖ではあまり関係が無さそうなロックさんは、釣り竿片手に遊ぶ気満々だ。
到着した湖は、とても広くて水が澄んでる。
周りの木々も青々としていて、ぽかぽか陽気でピクニック日和。
湖に面した風車塔で水を汲んで、石造りの用水路でお城へ運ぶ……。
なんか昔見たアニメ映画のお城っぽいけど、偽札を作ってないよね?
まずはぐるりと湖畔を歩きながら、採取物を見ていきましょう。
「これ、【カタクリの花】だって」
「こんな身近にあったのね……コーデリアさん、栽培できる?」
「できると言うより、しますよ。希少な【片栗粉】の元。良い値が付きそうだもん」
せっせとシャベルで掘って、根っこごと採取。
あとで、農場に植えるのでしょう。いっぱい増えると良いな。
そんな感じで4つくらい新種を見つけて、湖一周終了。
「う~ん……樹脂材は、採取するんじゃなくて、何かから精製するのかなあ?」
「何でそう思う?」
「あとは湖の中だし、採取するのに手間がかかりすぎるもん」
「そもそも、有るかどうかもわからんだろ?」
「あってくれないと、動くもの作れないから、きっとある。もう実装されてる。ゴムより重要で、潤滑油と並んで必要だもん」
「そこまで、確信できるのも凄いな」
「でも、そのシトリンの確信通りに色々見つかってるんでしょ。信じるわよ、私」
「ありがとう。……でも、それを探すのは明日からでいいや。今日はもう疲れた」
ドッと笑いが起きる。
ここ数日、大発見が続いたもんね。
今日はもう、これでいいやって気分。
そのままテーブルならぬ、どこでも工房を出して、カウンターをテーブル代わりに休憩。
釣りをしたり、おやつを食べたり。
もう本当に、ピクニックだ。
タオルを重ねて作ったクッションに、ゴロンと横になって空を見る。
雲って本当に面白い。何であんな形になるんだろう?
こんな広い空を眺められるのも、私はゲームならではだなぁ……。
お店のオープンまでに、ハンドミキサーを完成したいな。
スチームアイロンとともに、お店の目玉になりそう。
有るとすごく便利になるって、女性陣が絶賛してたもん。
あと、冷水ポットと、湯沸かしポット。
コップはカモノハシと猫だけじゃくて、犬とかヴァージョン増やしたい。
私が思ってるより、カモノハシ好きはマイナーなの? 可愛いのに……。
あ。ギルドからの依頼品売る時用に、各ギルドのマークを作って貰おう。
アイロンみたいに、ギルド名の宣伝するの。
それから、輪ゴムとか、メガネとか……。
意外に、鏡も持ってる人が少ないのが謎。
ガラスが作れるなら、普通は作るよね? 魔法陣いらないんだし。
あぁ、地味に加熱プレートも評判が良い。
みんなそんなにゲーム内で、お料理してるのか……。
石油が有るなら、そのうち自動車も作れるかな?
でも、ガソリン機関より、魔法で走らせる方が楽な気もするよ?
必要なのは機械油なのに、なぜ石油そのもの?
えっと……。
「シトリンちゃん、そんな所で寝てないで、そろそろ帰るわよ」
ぼんやり頭の思考は、ペンネさんの声で中断する。
危ない危ない……ゲーム内で寝落ちなんて、笑うに笑えないよ。
さあ、町に帰りましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます