ワールド・インフォメーション

 採取ツアーの三日目!

 今日は行き先が坑道とあって、女性陣が今ひとつ乗り気じゃない。


「岩って、食べられそうにないし……」

「岩じゃ、お洋服にもならないわ……」

「苔とか育てるのはちょっと違うかも……」


 それでもついてくるのは、私が妙なものを見つけるかも知れないし

 私が妙な道具を使うかも知れないから、なのだとか……信用有るのか無いのか。


 一番乗り気なのは、当然ロックさん。それにザビエルさんも興味津々。

 私も、油に関しては何かヒントが有るんじゃないかと思ってる。

 ……湖よりも、坑道の方が石油に近いもん。


「坑道は結構みんな来てるから、シトリンさんの鑑定がメインかな?」

「できれば、レア鉱物一杯の横穴でも見つけて欲しいぜ」

「そんなのあったら、もう誰かが見つけてるよ、きっと」

「わからないわよ? 行き慣れた場所だったのに、誰もゴムの木を見つけられなかったって、実績があるのだから」

「……期待半分くらいでお願いします」


【奇岩鉱山】は、港町の鉱山と違って四つの坑道がある。


「手前から、鉄、銀、水晶、の順でメインに掘れる。奥は何もないって評価だ」

「とりあえず、奥から見せてみる?」


 ということで、まず奥の坑道へ……うん、採掘マーク見えるよ。

 みんなの期待を背負って、まずツルハシ、カーン!


「コバルト……こっちはマンガン……チタン……タングステン……モリブデン……ベリリウム……希少金属の鉱山ですね」

「そっちか! ……それはそれで凄え発見だけど」

「うん、私も別の色の色ガラスが作れるから、嬉しいんだけど……」

「「惜しい! って言いたくなるな(よ)!」」


 新しいの見つける度に、ロックさんにも渡して知識を増やす。

 プラチナを見つけた時だけ、それまで無関心だったシフォンが食いついてきたのが笑えた。貴金属、好きそうだものね。

 ロックさんいわく、ほぼ全種類揃ってるそうです。

 奥まで突き当たる間に、私はコバルトとマンガンとチタンを多めに。シフォンは当然プラチナ……はいはい、デザインしてきたら、アクセを作るよ。


 水晶メインの坑道は、予想通りに宝石鉱山だ。

 シフォン、落ち着いてーっ! 朝の気乗りの無さはどこに言ったの!

 プラチナ、ダイヤとくれば、大好物だもんね。ダイヤの原石をあげて落ち着かせる。

 今日は宝石は必要ないし。


 続いては銀鉱山。

 あれ? ここは港町の鉱山と同じ?

 特に私にしか見えない採掘ポイントは無い。

 奥まで行っても、同じだ。


「希少金属だけでも、大発見と言やあ、大発見だけどなぁ……」


 首を捻りつつ、最後の鉄鉱山へ入る。

 どんな職種でも、鉄は大人気。採掘中の他の人にも協力をお願いして、採掘ポイントを探す。……ここも、同じなのか……。

 少しづつ、奥ヘ奥へ。

 あれ? 一番奥に一つだけ、私にだけ見えてる採掘ポイントが有る……。

 そう告げたら、みんなの期待が高まる。

 ゴムの件とか知ってて、私が採取ツアーしてるのも、みんな知ってるみたい。

 これで、ただの石みたいなオチだったら、嫌だなぁ……。

 お願い……カーン!


 途端に、地震が起きた!


 轟音と共に地面が激しく揺れて、細かな石の欠片が落ちてくる。

 みんな大慌てで出口に走った。

 そこに、エクレールさんの声が凛と響く。


「『雷炎』チームは逃げないで! エリアボスよ!」

「嘘っ! 何でセーフエリアの坑道でエリアボスが?」

「やっぱり、シトリンちゃんだぜ。期待通りに新しい坑道を見つけやがった!」


 土煙の中から立ち上がったのは、アイアンゴーレムだ。

 身長5メートル位の巨大な鉄の人形。


「最悪……あれって刃物じゃダメージ通さないわよね?」

「相性が悪いわ……」


 サーベル使いの二人が顔を見合わせる。

 だけども……。


「あの……スピアで良ければ使います?」

「槍か……得意じゃないけど、サーベルよりマシ?」

「今なら、無属性魔法ダメージ+1が付いてお得ですよ?」

「シトリン、準備良すぎ!」


 どうせひ弱だからと、いろんなダメージの魔法陣付けたスピアを準備してたのさ。

 予備も含めて、無属性三本持ってる。

 ゲームだから、装備する人でサイズは変わるもん。

 ちょうど三人分。

 アイアンゴーレムは強敵だけど、弱点をつく無属性ダメージ武器とロックさんのハンマーによる猛攻、ルフィーアさんの火力もあって、なんとか撃破することができた。

 さすがにレベルアップが凄い……軒並みレベル15! もうひ弱な妖精と言わせない。


「見てよ、あの壁の向こう……」


 ゴーレム型の穴の先……見知らぬ坑道と言うより広場が見える。

 岩壁に囲まれた、中央広場にも似た円形の……その中心に池がある。

 ロックさんが鼻をひくつかせる。


「大当たりだ……とうとう見つけたな、シトリンちゃんよ!」


 まさかまさか!

 私は全速力で飛んでゆく。

 その池に湧き出ているものは、どう見ても……。


「石油だ……」


 そして、周囲の岩壁に浮かぶたくさんの採掘ポイント。

 私はそれを一つ、叩いてみる。


「ロックさん、来て!」

「何だ? 何があった?」


 私がそれを手渡すと、ロックさんも絶句した。


[ミスリル] 魔力を持った特殊な銀の鉱石


「とんでもねえなァ、これは……」

「ね……びっくりだよ」


 みんなが集まってくる。

 でも、この岩の広場に入れるのは、ゴーレムを倒したパーティーだけみたいだ。


「石油にミスリルですか……アイアンゴーレムは強力でも、倒した価値はありますね」


 みんなで持てるだけ、石油とミスリルを集める。

 坑道に戻って、みんなに報告したときには大歓声が上がった。


「後はプラスチックだけか。この分なら、明日見つかりそうだな」

「うん……そうなんだけど……明日の湖、明後日に延期したいです」

「どうしたの? リアルで用事?」

「そうじゃなくて……ちょっと試したいことが有るの」


 ぼんやりしてる私に、みんなが訝る。

 まあ、そうだよね……私だって、まさかと思うようなことだから。


「シトリンさんあっての採取ツアーだから、構わないけど……」

「それとお願い。ロックさん、明日の午後二時から身体を開けておいて」

「ん? ……良いけど、何か作って欲しいのかい?」

「うん、サーベルを一つ。……それからそれが出来る頃に、エクレールさんにもいて欲しいです」

「試し切りかな? ワクワクするね。もちろんオーケーです」


☆★☆


 そう、ヒントはもう貰っていたのだ。

 このタイミングで、石油を得られたのは納得。

 でも、何でミスリル? そう思った時に、頭の中で何かが繋がった気がした。

 設計図は、細工師ギルドにも有るはずだよね。

 その設計図を手に、シトリン工房へ戻る。

 ミスリル鉱から、ミスリルのインゴッドを精製する。

 レベルアップの文字さえ、今は鬱陶しく思える。

 そのインゴッドを加工機にセットして、設計図もセットする。

 加工!

 もう懐かしいとさえ思える、【ゴブリン退治のハンマー】ができた。

 ただし、これは純ミスリル製のものだ。

 そして、私の持ってる最強の雷魔法陣……中級のを準備して刻む。

 魔法陣強化では初級までしかできないけど、これはいけるはず。

 出来上がった、ハンマーを持ってロックさんの工房へ向かう。


「このハンマーで、サーベルを打って下さい」

「純ミスリルのハンマーかよ……勝算はあるのか?」

「……あります。運営さんがヒントをくれていたと思うから。……あのイベントの鐘に魔力を与えていたのは、ハンマーの方。だとしたら、そのハンマーで剣を打つとどうなるのか?」

「このゲームのミスリルは『魔力を持った銀』という設定だったな」

「うん。……魔法陣を発動させる魔力はハンマーの材質に有る。発動した魔法を剣に封じ込めたなら……」

「後は任せろ! 腕がなるぜ!」


 既に用意された、赤く焼けた地金にロックさんがハンマーを打ち付ける。

 そのハンマーから、青白い稲妻が迸る。


「へへっ! 雷神にでもなった気分だ!」


 あとは一心不乱に剣を打つ。

 火花ならぬ稲妻が散る鍛冶など、初めて見るのだろう。

 ロックさんのギルドのメンバーが唖然として見つめている。

 エクレールさんの剣なら、サイズも重さも理解しているのか、作業によどみがない。

 研ぎ終えた刀身のギラギラした輝きを見て、ロックさんはニヤリと笑った。

 ミスリルのハンマーは、ただの銀のハンマーになってしまった。


「……出来たぜ、シトリンちゃん。とりあえず仮りの鍔と握りをつけた」

「じゃあ、行きましょうか。エクレールさんが待ってます」

「待たせる価値は十分にあるさ……」


 エクレールさんも、静かに待っていた。

 まだ、仮の身繕いをしたサーベルを受け取り、うっとりと眺める。


「シトリンさんとロックが揃って持ってくる剣となれば、やはりそうなのですか?」

「やるだけのことはやった。後は、託されたエクレールが実際に試すだけだ」


 セーフハウスの裏庭、剣術練習場に移動する。

 竹と藁で作られたダミーに向かって、エクレールはその剣を一閃した。


<ワールド・インフォメーション

 ロックとシトリンが初めて魔剣製作に成功しました。

 ロックには『魔剣を鍛えし者』の称号が

 シトリンには『魔剣を見極めし者』の称号が与えられます。>

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