採取隊、山へ!
「はい、ロックさん。お約束のもの」
「おぉ助かるぜ。……エッジ、これを工房に早く持って帰ってやれ」
「うっす!」
ロックさんにプレゼントしたのは、冷水ポット。
昨日の採取旅行で使ったら、食いつきが凄かった……。
一日中焼けた鉄を相手にしてるもんね。冷たいお水は欲しかろう。
ここにだけは最優先でプレゼント。
他は早く作れるレベルの細工師さんを育てて、自力で頑張って。
魔法陣さえ刻めれば、そんなに難しいものじゃないです。
さて、今日は【豊穣の山】への採取ツアーです。
相変わらずの贅沢すぎるメンバー。
「シトリンさん、約束どおりにゴムの実の情報を情報サイトに流しましたから」
エクレールさんが冒険者タグを差し出して教えてくれる。
私も自分のタグを重ねて、お礼を言う。
わっ! 情報料だけでこんなにもらえるの?
冒険者タグは便利カードで、こんな風に大金のやり取りができちゃう。
現金が必要な時は、冒険者ギルドで下ろせるよ。
「シトリンが初めて知ったレベルの素材情報が、安いわけ無いでしょうに」
シフォンとも、いつの間にか呼び捨てで話してるなぁ。何だか自然に。
ザビエルさんが楽しそうに言う。
「昨夜から、FFO界隈はゴムの件で大騒ぎだよ。今日の成果も期待されてる」
「見つかると良いんですけどね」
と、いきなり音楽変わった!
この間のイベントで見たホブゴブリンだ!
「シトリン、ジェットストリームアタック、行くわよ!」
「はい、頑張る!」
サーベル片手に突進するシフォンの後ろについて、飛んでゆく。
シフォンの切っ先がホブゴブくんの胸を刺す。その死角から飛び出した私のスピアが、ホブゴブくんの眉間に突き刺さって、ぼっと火を放つ。
うん、大勝利……わ~いレベルが上った。
え~っと……昨日の休憩中に話していて、私の戦闘技能のレベルが最高で5レベルと言ったら……戦闘チームに組み込まれました。
強いからではなく、弱すぎるから……。
「引き籠もってないで、少しは出歩けるようになりなさい」
なんて、みんなに言われて、今後は戦闘パーティに混じって、レベル上げもするみたい。
しょうがないからスピアに炎の魔法陣付けて、鎧と盾に真鍮のプレートを貼って、そこに防御の魔法陣付けて来た。いのちだいじに。
バレないようにと、表は私大好きカモノハシのマークで、裏に魔法陣を刻んだのだけど、あまりにも怪しいのか、すぐバレちゃったよ……。
鍛冶屋のロックさんには渋い顔されたけど、実は木の盾や革鎧も、これで魔法陣強化できるの。
営業妨害になりかねないから、まだ秘密にしておくけど。
「叩くと、まだ色々裏技が出てきそう……」
なんてルフィーアさんにジト目で見られたけど……それは正しい。
貴金属関係は、まだ内緒にしてるもん。
負けられないイベント戦ならともかく、アイテムで強くなっても嬉しくないでしょ?
当分は、便利グッズ開発で頑張るよ。
やっぱり、王都の周りの敵は強いね。
【豊穣の山】に着く頃には、私の戦闘スキルは、軒並み8レベルになっていた。
「ザビエルさん、これ【ホワイトアッシュ】だって」
「それは使える木材ですね」
一気に斧で切り倒して、アイテム欄に収納……ダイナミック。
山はさすがに木材天国。
薬草も有るけど……薬調合の専門家がいないから、私が採ろう。
博物誌を取り出して、そこに記載されていないものを採取しておく。
「この人! と思ってた人を『オデッセイ』に取られちゃったんで、今は物色中です。腕だけでなく、性格もウチに馴染まないとダメですから」
エクレールさんが、気不味そうに頭を掻く。
そうして選んでいるから、私みたいな人見知りでも、仲良く出来てるんだろうな。
良い人が見つかるといいけど……。
でも、山は私的にはハズレっぽいなぁ。
動物や魔物、木材は多くても、石油の類は見当たらない感じ?
エリアボスを倒して、第二エリアに入ってますますそう思えた。
時々、霧の流れる静かな風景。
コーデリアさん大興奮の高山植物の群生地だ。
ちっちゃくて可愛らしいお花が咲いてるよ。採取して、栽培に挑戦するみたい。
この肌寒さも覚えておこう。
リアルと違って魔法の力を使うんだ。
温室ならぬ、寒室も作れるかも知れない。
「おっと……またボス戦ですね。第三エリアが有るのか」
飛んできたボスは、とんでもなく大きな鳥。
鷹? 鷲? 残念ながら、私には区別がつかない。
「どっちでもなくて、ロック鳥よ」
うん、引き籠もりには冷たい世の中だ。
前衛も、飛んでる相手には武器が届かない。ルフィーアさんの対空砲火。
火線を一本、二本と躱したけれど、本命のファイアボールに巻き込まれて墜落。
みんなで殴りに行く。
同じ名前のロックさんのハンマーが、鳥さんの右翼の骨を砕いた。
振り飛ばされない様に私もスピアで刺すけど、全然刺さってる気がしない。硬い!
「退いて、焼くから」
イベント戦の最後を締めたルフィーアさんの火魔法。
耐えられずに、鳥さんはこんがりと……。
ろくなダメージも出せないのに、経験値いっぱい。申し訳ない。
高い技能はレベル10に到達しちゃった。
第三エリアは火山地帯。
鼻をひくつかせたロックさんが私を見る。
探して欲しいものはわかりました。温泉卵ですね? ……冗談です。
『?』マークをつるはしで叩く。……硫黄ゲットです。
それをロックさんに渡すと、無事登録されたらしく採取を始める。
硫黄は私も持っておきたい。
そっか……ゆで卵の臭いの強いのが、火山の臭いなんだ。
テレビで良く言ってるけど、初めて実感した。
ついでに言うと、夏姫ちゃんが毛嫌いするゴキブリていうのも、私は見たことがない。
羨ましがるけど、私の病室にそんなの入って来たら、衛生担当の人は怒られるし、大騒動になっちゃうもん。
平和のためにも、私は見たことが無い方が良いのです。
ザビエルさんが岩の採取をしたいようなので、溶岩、玄武岩などを同じ様に。
ここに植物は生えていないし、食べられそうなものもない。
「火薬が作れるなら、銃もありだな……」
そんな物騒なことをロックさんが呟いた。
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