採取旅行のツアーはいかが?

「そんなに覗き込んでると、油の中に落ちちまうぜ……」


 オイル缶の中をじっと覗き込んでる私に、ロックさんが呆れてる。

 今日は悩み多き妖精さんなのですよ。

 ここは鍛冶ギルド『叩き上げ』の作業場だ。


「ロックさんの所で使ってる油って、これだけ?」

「ああ、油は錆止めぐらいしか使わないからな……何か探してるのか?」

「うん……潤滑油。グリスとか、どこかで使ってないかな?」


 訊いてみるとロックさんは片眉を釣り上げて、首を傾げた。


「……そう言われてみりゃあ、ゲームの中じゃ見ないな? リアルなら当たり前にあるが」

「でしょう? この世界に摩擦力は有るよね?」

「ああ、紐を結べるんだって、摩擦力だからな……お前さんのスキルだと、大問題か」

「うん……物を回すにも、滑らすにも全部必要。まさか石油採掘をさせて、精製しろなんて運営さんも言わないよね?」

「そんな大規模なもの、出来る前にサービス終了だろうなぁ」

「でしょ? ……だから、石油とゴムと、プラスチックの代わりはどこかで採取できると思うの。そんな話、聞いたこと無い?」

「さすがに……ねえなぁ」

「そっか……一番攻略組に近い鍛冶屋さんが知らないなら、まだ見つかってないのか」

「錆止めだって、今は種を絞って採る油だからな。時間が経つと腐っちまう。……そう考えると、もうどこか行ける範囲に有ってもおかしくねえな……」

「久しぶりに採取に出てみようかな?」

「引き籠もり妖精が言い出すようじゃ、よほど切羽詰まってるな」


 大笑いされちゃったよ……。

 コロコロ軸受の試作をしてみたのだけど、やっぱり潤滑油が無いとキツイって解った。

 鑑定スキルはかなり高い私だから、行ってみるとなにか見つかるかも知れない。

 一人じゃ無理だから、連れて行って貰おう。


「行くにしても明日からでしょ? いいよ、一緒に行こ」


 すんなりオーケーしてくれたのはルフィーアさん。

 猫コップのご利益は絶大です。

 私のログイン&アウト時間は承知してくれてるので、その時間に適当なメンバーを集めておいてくれるって。ありがたい。


「森、山、坑道、湖と、それぞれ一日ルートで探してみよう。モノがわかれば、鑑定役替えてでも採取に向かえるから」


 そう言って別れたのは昨日のこと。

 なのに、今日……このメンバーは何?


 エクレールさん、ルフィーアさんの『雷炎』ツートップ。ロックさん、ザビエルさん、ペンネさん、コーデリアさん、シフォンさんって……どこのギルド長会議?


「だって、シトリンちゃんの鑑定スキルの高さは、みんな知ってるもの。新しい素材が見つかりそうじゃない」


 と、はしゃいでるペンネさんが、全員の気持ちを代弁してる。

 そっか……私が採取して渡せば、未知の素材も入手可能なんだ……。

 ロックさんのハンマー。エクレールさんとシフォンさんの華麗なサーベル捌きの前に敵はない。特に問題がなく【実りの森】に到着した。

 おおっ……素材表示が目に痛いほどだよ。

 まず、私以外のメンバーが気になるものを採取していく。

 残ったものはおそらく鑑定値が高いものなので、私は読み上げる。


「えっと、名前からして高そう【色トリュフ】」

「それは幻の食材、どこ?」


 採取して、ペンネさんに渡す。

 この時点でペンネさんの素材ファイルにも、登録されたみたい。目を輝かせて、次々見つける。


「何で、そんなに有るのが幻の食材なんだか……」

「今まで誰も鑑定できてなかったから、採取されずにいたんでしょ。私はこういうのを期待してたの」


 森だけあって食材が多いけど、コーデリアさんの欲しい苗木や種も結構ある。

 でも、私の欲しいのは……出てこない。

 運営さんめ、どんな形で隠してるんだか……。


「シトリンさんが探してるのは何だっけ?」

「石油っぽい油と、ゴムとプラスチックっぽいもの。どこかにあってくれないと困っちゃう」

「石油とプラスティックは想像もつかないけど、ゴムは樹液じゃないか? 現実もゴムの木から採取するだろ?」

「え? ゴムの木って有るの?」

「「「「「常識!」」」」」


 いいですよぉ……どうせ常識知らずの引き籠もりですよぉ……。

 そっとネットウインドウを開いて検索してみる。……グ○グル先生は優しいな。

 私はてっきり石油から作ると思ってたよ……。


 エリアボスが出たけど。このメンバーじゃ足止めにもならず。

 第二エリアは、何だか観葉植物っぽいのが多い。


「植生的にゴムの木が期待できそうね……」

「シフォンさんの服も、ゴムが有ると違ってくるか」

「そうよ、男子には関係ないけど、パフスリーブとか作りやすくなるの」

「あぁ南国フルーツ……シトリンさん、早く温室をプリーズ」


 コーデリアさんは、フルーツを取るより育てたいよね。

 もう少し待っていて欲しい。

 ……って、あったゴムの木!


「リアルだと、どうやって採るんだっけ?」

「木の皮剥いて、中から流れてくる樹液をカップに受けるんだって」

「……何で、ゴムの木知らなかった人が知ってるの?」

「グーグ○先生が教えてくれた。……でも、このゴムの実って何だろう?」


 採取して、説明文を読む。


[ゴムの実]実の中の汁がゴムの原料になる。


「おおっ、この実の中の汁がゴムの樹液と同じみたい」

「やったな、本当にあった」

「ちょっと試してみるね」


 えいっ! どこでも工房展開!

 精製機を使えば良いのかな? ひとつ、ふたつ……三つ入れてオーケーになった。

 精製したら、デロ~ンとした大きなゴムのシートが出来たよ!

 実のカスも一応回収しておこう。


「やっぱり便利だなぁ、その『どこでも工房』。その場で全部試せるし、作れる」

「はーい、猫のコップも作って欲しい!」

「作って貰いたかったら、ちゃんと働きなさい! シトリンさんの為に、ゴムの実をいっぱい集めるんだ!」


 もう持ってるルフィーアさんの号令で、走り回って集めるコーデリアさん。

 そのくらいちゃんと作るよ。

 ガチャンと作ったグラスに、冷たいレモン水を入れて、コーデリアさんが戻ってくるのを待っていよう。

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