広がる交友関係
「面識はあっても、こうしてお話するのは初めてです。初めましてと言いましょう、シトリンさん」
ギルド『雷炎の傭兵団』のリーダー、エクレールさんは、意外にも華奢な女性だ。
傭兵団なんて厳つい名前をつけていて、リーダー、サブリーダー共に女性というのは、予想外だったよ。
「まず確認しますが、シトリンさんはギルドに入る気はないんですね?」
「はい……リアルの事情で、昼間の午後にしか入れません。それに、短いプレイ時間は好きなことで使いたいので……」
「了解です。……でも、シトリンさんなら、面白いアイテムを作ってくれそうだと考えるギルドの方が少なくないことも、ご理解ください」
「でも、見ず知らずの方に作る理由って、私にはないんです」
それだけは、きっぱりと言っておきたい。
そちらには便利でも、私が時間を割いてあげる理由もないから。
平行線をたどる会話に、ザビエルさんが加わる。
「僕も事前に、ブルやルフさんから相談されて考えていたんだけど……シトリンさん、『雷炎』の協力ギルドならぬ、協力工房になってみない?」
「それって、何かメリット有るんですか?」
「まず第一に、今シトリンさんを一番悩ませてる他ギルドの勧誘や、アイテム製作の依頼をシャットアウトできる。『雷炎』を通してくださいって、言えば良いから」
うん、それは困りごと一つ、解決できるかも。
「もちろん『雷炎』とは別組織なのだから、シトリンさんは自由に工房で活動出来る。それに、『雷炎』の協力ギルドは色々有るよ。鍛冶屋から、料理、園芸、建築、衣装……それぞれ専門化してるから、足りない部分を協力ギルドの手を借りて助け合ってる。その輪の中に入っておくのも悪くないと思うけど……」
「助け合い、かぁ……」
「そう、魔物の素材が欲しいなら『雷炎』に狩って貰えば良し、食品関係なら、『美味しいフライパン』、布材なら『ファッションウィーク』と専門家が揃ってるから、知恵を借りることも出来る。……もちろん、シトリンさんもその中で手を貸したり、知恵を貸したりする場面も出てくるだろうけど……」
「多分、この先はシトリンさんは魔導器の方に進んでいくと思うから、錬金素材集めなんかで力を借りることも多くなるんじゃないかな?」
ルクレールさんの言うこともわかるし、ザビエルさんの提案も的を射ている。
でも、今の勢いに流されて決めちゃって良いのかどうか……う~む。
悩んでいたら、ルフィーアさんが悪魔の囁きを……。
「素材集めをお願いできちゃうと、楽に引き籠もれるよ?」
私には、それ以上の殺し文句はない。
みんなに大爆笑されながら、私は合意することにした。
遠巻きに見ていた人達が集まってくる。
「初めまして。『美味しいフライパン』のギルド長、ペンネです」
「こちらも、初めまして『ファッションウィーク』のギルド長、シフォンよ」
ふんわりした感じのお母さんっぽい年齢のペンネさんに、ゴスロリの暗黒少女のシフォンさん。
関連ギルドのギルド長が大集合していたみたい。びっくりだ。
「私は園芸ギルド『グリーングリーン』のコーデリア……。ちょっと、ルフィーア、その可愛いコップはどこで手に入れたの!」
「教えてあげない。良いでしょ~? 猫マーク入りのピンクのガラスコップだぞ~」
「ずるい、教えろ!」
ああ、追いかけっこが始まった。コーデリアさんはそういう人なのね。
そして、改めてザビエルさんが進み出る。
「改めまして。建築ギルド『南蛮渡来』のギルド長、ザビエルです」
「ザビエルさんもいるなら、先に言ってくれればいいのに」
「それで決心させるのも、問題有りでしょ」
「鍛冶ギルド『叩き上げ』のロックだ。よろしく」
病院じゃ絶対に見ないマッチョなお兄さんに、ちょっと驚いてしまう。
眉を顰めながら、ロックさんが質問してくる。
「剣や防具に魔法陣を刻むと魔剣や、プラス効果の防具になるってのは本当か?」
「う~ん……半分本当、です。」
「半分というのは?」
「魔法陣の効果が加わるだけなので、魔力を流さないとただの剣や防具。剣や武具そのものに魔力が無いから、持ってる人の魔力次第です」
「なるほど……じゃあ、鍛冶でないと本当の魔剣は作れないか」
「はい。運営の人の言い方だと、絶対に工夫次第で作れるんじゃないかと思います」
「苦労のし甲斐がありそうだな」
ポンポンと私の頭を軽く叩いてウインク。
うん、かっこいい人だ。
「ロックさん、ずるいわよ。一人だけ先に質問するなんて……。ねえ、シトリンさん。魔導器でミシンって作れると思う?」
「ミシン……昔は電気を使わないのもあったんですよね?」
「ええ、足踏み式のだって、今でもリアルの家で現役よ」
「多分、糸の通し方とか布の抑え方とか、仕組みがわかれば……根性次第?」
「う~ん、機械は苦手なのよ。ギルドの娘にも細工師のスキルを頑張らせてるけど……」」
「私も調べてみます。結構リアルの知識が重要なんです。このゲーム」
「それ、わかる。縫い方や、祭り方なんてそのまんまだもの……。説明書とか探してみようかしら?」
「絶対役に立つと思います、それ」
シフォンさんを押しのけるようにして、今度はペンネさん。
忙しい忙しい。
「火加減調節って、やっぱり魔法陣必要? 細かい時間まで設定するとか出来るようになるかしら?」
「細かな設定は、液晶パネルが欲しくなっちゃうんですよね……作れないけど」
「やっぱり、そこで悩むんだ。出来ると楽になるのにねえ」
「でも、人が時間を測って火加減調節するなら、こんなの作ってありますけど……」
私は収納から四枚の真鍮板を取り出してみせる。
「この板は何?」
「発熱の魔法陣を刻んであるんです。それぞれが、強火、中火、弱火にとろ火」
「アッハッハッハ……そうね、難しく考えずに人に任せる所は、任せちゃった方が簡単になるわね」
「せっかくだから、入れ子にして持ち運べるようにしようと再設計中です」
「シトリンさん、それは『雷炎』でも欲しいよ。遠征するときの野営で、火を使わずに料理を作れるのは大きい」
あらら、エクレールさんまで加わってきた。
なんだか急に交際範囲が広がったんですけど……。
私は無事に引き籠もれるのでしょうか?
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