第二章 王都の引き籠もり妖精
初めての遠出
さよなら、【始まりの港町】……。
なんて言ってみるけど、別に感慨はない。
『緑の草原』と『鉱山』と、『細工師ギルド』にしか思い出がないと気づいた。
先日のイベントは、少ししか参加できなかったけど、楽しかったし、誇らしかった。
でも、お陰様で顔と名前が知れてしまって、ちょっと面倒いことになったの。
ギルドの勧誘や、アイテム製作の依頼。
そんなの見ず知らずの人に言われても、困ってしまう。
【細工師】スキルの有用性が知れ渡ったので、私の憩いの場所だった細工師ギルドの作業場も、今は人が一杯で困っちゃうほど。
何とも暮らしずらくなったので、王都にでも行こうかなぁと考えていた。
ちょうど良いタイミングでザビエルさんや、Blue Windさんに王都行きを誘われたので、便乗することにした。
加えて、あの真紅のローブの女性魔術師ルフィーアさんも一緒。
斥候、神官、戦士、魔道士でパーティみたいに見えるし。
リアルも含めて、こんな遠出は初めてなので、ちょっと浮かれてます。
道がずっと続いていて、空がこんなに青くて、雲が絵に描いたよう(ポリゴンでしょというツッコミはなし)。
お陽様ポカポカで気持ちがいい……今は散歩もできないからなぁ。
「そういえば、シトリンさんが貰った『ポータブル作業ユニット』って、どんなアイテムだったの?」
「ああ、俺もそれ気になってた。初めて聞く名前だし」
ザビエルさんの疑問に、Blue Windさんも乗ってくる。
内緒にするようなものでなし。
セーフエリアじゃないけど、今のメンバーなら守ってもらえるよね?
「では、お見せしましょう。♪チャラチャラッチャチャ~ン どこでも作業場!」
お馴染みの青タヌキロボのマネをして、アイテムを展開する。
道の脇の原っぱに、細工師工房が出来上がりました。
しかもそのまま露天でお店が出来るように、カウンターまで付いてる。
「せっかくだから休憩しましょうか」
カウンターの前に椅子を並べれば、ドリンクスタンドにもなる。
収納から大きめなガラスの筒のような魔導器を取り出し、カモノハシのレリーフ付きの可愛いガラスコップと一緒に並べた。
レモンの輪切りを三枚ほど魔導器に入れて、魔力を流す。
魔法陣が光り、みるみるお水で満たされてゆく。
コップに注いで、はいどうぞ。
「冷たっ! この野原の真ん中で冷たいレモン水が飲めるのか……」
「水と氷の魔法陣を仕込んであるから、砂漠でも飲めますよ。湯沸かしポットも作ったから、雪山でお茶も飲めるかも」
「細工師恐るべしだな……これ、欲しいぞ真剣に」
「私はこのグラスが欲しい……ずっとこのゲームは、可愛いが足りないと思ってたから」
「ルフさんは可愛いの好きだもんな」
真剣な顔で頷く、ルフィーアさん。ちょっと意外。
でも、何かわかる。
可愛いが欲しければ、自分で作りなさいという運営からの挑戦?
「ここがちゃんと工房として使えるって証明に、そのグラスを作ってルフィーアさんにプレゼントしちゃいます」
「え? 欲しいけど、私もまだ見知らぬ人の一人だよ?」
「カモノハシレリーフと猫レリーフ、どっちが好きですか?」
「猫!」
即答されちゃったので、夏姫ちゃんにあげるために描いた猫仕様の図面をセット。せっかくだから色ガラスの実験で作った淡い赤のガラスをセットして、加工用の魔法陣準備。
加工! むふふ……ピンクっぽく見える可愛い猫模様グラスの出来上がり。
「凄い……可愛い……嬉しい……ありがとう……」
「運営さんも凄いものを出してきたなぁ」
「これで安心して引き籠もれます」
本気で言ったのに、笑いにされたよ?
リアルで二時間ほど歩くと、王都に着いた。
港町の何倍有るんだろう……そびえ立つ王城の塔と後ろに広がる湖が素敵。
王都につくまでの間、ずっとルフィーアさんの頬が緩みっぱなしで、Blue Windさんにからかわれてた。
そんなに喜んでもらえると、プレゼントのし甲斐があるよね?
新しい街に入って最初にすることは……そう、セーフエリアでセーブすること。
そうしておけば、不慮の事態があっても、王都にポップアップできるから。
さて……と。
王都に連れてきてもらえた理由である、用事を先に済ませないと、ね。
ルフィーアさんが先に立って、案内してくれる。
居住区に入ってすぐの一等地。まだギルドハウスが導入されていないから、代わりにセーフハウスを買って、本拠地にしているそうです。
炎と稲妻を意匠化した刺繍を施された、ギルド旗が翻る家。
ルフィーアさんとBlue Windさんが所属する『雷炎傭兵団』のベースハウス。
ここで、ギルド長のエクレールさんと逢う約束なのです。
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