戦いすんで日が暮れて
ゴブリンキングが率いる部隊は強い。
強力なバフ&デバフがあっても、プレイヤーたちは次々に排除されてゆく。
「一般プレーヤーは下がって! 精鋭隊で対処します」
鎧も武器も凄そうな、各プレイヤーギルドの精鋭たちがゴブリンキングの軍と向かい合います。
あ……Blue Windさんもいる。
魔道士とゴブリンウィザードの魔法の打ち合いから始まって、前衛のホブゴブリンの群れに剣士たちが切り込んでいく。
「何だ、あいつの剣……」
「あれ、『雷炎傭兵団』のBlue Windだろう? あいつ魔剣持ちだっけ?」
「てか、雷の剣なんて初めて見るぜ?」
あぁ……何かまた私、変なもの作っちゃったみたい。
だけど、初歩の魔法陣を刻んだだけなんだから、誰にでも出来るよね?
……そっか、魔法陣を刻める細工師って、私だけなんだっけ。
便利なんだから、もっと増えてよ!
遠目に見ると、雷光を振り散らしつつ戦うBlue Windさんが、凄く目立つ。
プラス効果の恩恵は大きいみたいで、真っ先にホブゴブリンを屠って、キングに迫る。
弓隊が、残りのゴブリンウィザードを仕留めて、魔道士たちは剣士にエンチャントし始めた。ホブゴブリンたちが次々と倒され、いよいよキングだけになる。
でも、やっぱりキングは強い。剣士たちの攻撃もなかなか通じない。
そんな中、Blue Windさんの追加ダメージの雷撃が、地味にダメージを与えている。
「おっ。『雷炎傭兵団』の副長が出てきた」
「爆炎娘が終わらせに来たか……」
真紅のローブを着た女性魔道士が、長い詠唱に入る。
それを邪魔できないくらいに、キングのダメージも深いみたい。
詠唱が終わって、さっと剣士たちが火線を空ける。
「【
うわっ! 凄っ! 炎凄っ! とんでもない火柱が、ゴブリンキングを包んだ。
その火が消えた時、そこにはもはや何も残っていなかった……。
<ワールドインフォメーション!
ルフィーア他がゴブリン集落の王、ゴブリンキングを撃破!
【始まりの港町】はプレイヤーの皆様によって救われました。
イベント【ゴブリンの襲撃】は終了となります。
全プレイヤーは中央広場の教会前に集まってください>
大歓声と拍手。
私も手近にいた人たちと、ハイタッチで勝利を祝う。
最後しか手伝えなかったけど、何か嬉しい。
みんなが櫓から【ゴブリン退治の鐘】を外してる。中央広場に持って行くの?
うんうん、お祝いにちょうどいいよね。
中央広場は、教会の扉の幅で石畳を長く立ち入り制限して、花道になってる。
みんなでワイワイ喜んでいると、昼間のはずが黄昏時になって篝火が焚かれた。
雰囲気作りの演出だよね?
遠くから蹄の音が聞こえてくる。
音楽も静かに勝利を称えるものに変わった。
わぁ、白馬に乗って
ゆっくりと教会の扉の前へと石段を上り、みんなを振り返る。
「ありがとうプレイヤーの皆さん。皆さんの頑張りで【始まりの港町】は救われました」
お~っ! と、勝鬨が上がる。
私は、チマチマと自撮りSSを撮りまくる。
「このイベントは四つのサーバーに分かれて行われていましたが、このプロキオンサーバーが、最も早くイベントをクリアしたんです。……決め手は、どのサーバーでも完成することの出来なかった【ゴブリン退治の鐘】の完成ですね」
思わぬことを口走る夏姫ちゃんキャラに、みんなざわざわし始めた。
私も聞いてないんだけど、まさか夏姫ちゃん本人?
「まずは、この戦いを指揮してくれた三つのプレイヤーズギルド『雷炎の傭兵団』、『神聖騎士団』、『オデッセイ』それぞれのギルドのギルド長は、私の前に」
わざわざ大回りして花道を通り、拍手喝采の中……三人のギルド長が、夏姫ちゃんの前に跪いた。
カッコつけまくりの行動に、ヤンヤの大喝采。
「それぞれのギルドには『町を守りし指揮者たち』の称号を与え、次期アップデートより導入予定のギルド旗の使用を、一足先に許可いたします。バグ等があったら、教えて下さいねと、運営さんが言ってます」
わ~……本当に夏姫ちゃんだ、これ。
空中から無地の旗を取り出して、それぞれのギルドに与える。
それから、一番多く敵を倒した人。一番多く味方癒やした人など、個人賞を発表し、特典を与えてゆく。
細かく見てるんだなぁ、運営の人。
「そして、最後に……」
夏姫ちゃん、こっち見た。あの悪戯っぽい笑い方は覚えがあるなぁ……。
そろそろと逃げる準備をしていたら。
「なんと唯一、【細工師】スキルを想定値まで上げていたシトリンさん。あなたのおかげで【ゴブリン退治の鐘】は完成することが出来ました。……というより、あわやサブイベント不成立の危機を救ってくれたということで、ワールドデザイナーの泉原さんが特別表彰したいと仰ってます」
ドッと、笑いが起きる。
それから大拍手。逃げられないように、スポットライトまで当てられてるし……。
夏姫ちゃんめ……、謀ったな。
押し出されるようにして、夏姫ちゃんの前に。
ええい、跪いてやりますとも。
「シトリン……あなたの日々の努力のお陰で、【ゴブリン退治の鐘】を完成することが出来ました。『唯一の細工師』の称号を送るとともに、ワールドデザイナーより『ポータブル作業ユニット』を贈ります」
どよめきと拍手。恥ずかしいよぉ……。
「それから……」
「え~……ワールドデザイナーの泉原です。シトリンさん、本当に感謝です。そのサングラス、Blue Windさんが使った『雷』効果の剣。……あなたが見せてくれた【細工師】の可能性の大きさで、これからこのゲームは変わっていくと思います。……プレイヤーの皆さん、この世界は用意されたものを遊ぶだけではなく、創意工夫で様々なものを作り、開拓してゆく世界です。ワールドデザイナーとして、これからの皆さんの楽しみ方に期待します」
「……だ、そうです」
乱入してきたワールドデザイナーさんにも大拍手。
みんなで作った【ゴブリン退治の鐘】は、そのまま教会の鐘となるそうです。
教会の石段に腰掛けた夏姫ちゃんは、みんなの質問に答えながら話してる。
なんか疲れちゃった私は、そのままログアウトとしました。
いろいろ有りすぎたよ、今日は。
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