完成 赤いサングラス1号

 FFOにログインすると、運営さんからの全員メールが届いていた。


 イベントなんてやるんだ。

 二週間後、【始まりの港町】がゴブリンに狙われる?

 港町の防衛イベントだね。

 一応参加するけど、妖精の斥候に活躍の場はあるのでしょうか?

 ゴブリンの弱点を調べて、【暗殺】技能を活かす準備はするべきか?

 でも、戦士さんや魔法使いさんなら、もっと楽に倒すか……。

 あ。応援キャラとして【佐伯夏姫さえき なつき】参戦予定?

 わ~い、見に行こう。


 フィールドに出ると、『ナツヒメ』さんこと当の夏姫ちゃんから留守番メッセージが入ってる。


『やっほ~。多分イベントのお知らせが運営から行ったと思うけど、そこに参加予定の【佐伯夏姫】の中の人は私じゃないからね? 運営さんが私の公式キャラを操作するので、騙されて身バレしないように(笑)

 今、イベント用のセリフの録音を終えたばかりの佐伯夏姫でした♪』


 危な!

 教えてくれなかったら、騙されてたよ……。

 ムフフ……当日の公式キャラの勇姿をSS撮影して送ってあげよう。

 変な楽しみができちゃった。


 町に入ると、いつもとは違う方向へ。

 風がワカメっぽい匂いになってきた。……こういうのを潮の香りっていうの?

 ちっちゃい頃に、一度だけ連れてって貰ったことがあるらしいけど、覚えてないな。

 船着き場から、海に沿って歩くと砂浜がある。

 風が強くて、飛んでいると吹き飛ばされそうになるので着陸する。

 バケツで海の水を採取する。

 海の水を掬う。採取のメッセージが出る。バケツが空になる。

 ゲームだからとはいえ、面白い。

 いっぱい集めたら、次は海の砂だ。

 シャベルで掘る。採取のメッセージが出る。掘った砂が無くなる。

 他がリアルなだけに、たまにこういうゲームっぽいギミックが出てくると笑っちゃう。

 スタッフの人、ごめんなさい。

 残る石灰石は、意外な所に売ってることに気づいた。

 そう、建築ギルド!

 セメントや漆喰作るのに使うから、とっても安く売ってるの。まとめ買い~。

 ついでに鍛冶屋ギルドに寄って、クロム鉱石も少し買う。

 そして、キラキラ~っと、相変わらず人のいない細工師ギルドの作業室へ。

 砂と、石灰石と、海の水をセットして……精製!


 できたぁ! 出来たよ、ソーダガラス。

 横から見ると緑色に見える、おなじみの透明なガラス。

 とりあえず、インゴット代わりに何枚かガラス板を作っておく。

 ここまでは二階で読んだ本に書いてあった通り。

 ……ここからが、勝負だ。


 クロム鉱石を精製して、クロムの塊を作る。

 精製機に砂と、石灰石、海の水……そして、クロムを少々……どのくらい入れればいいのだろう? こればかりはグー○ル先生も教えてくれない。

 いいや、塊1つ入れちゃえ!

 まだギルドの本でも読んでいないことが、出来るのでしょうか? ……精製!


 ……できちゃった。【赤い色ガラス】


 ただ、本当に赤い。非常灯のランプカバーくらい赤い。

 もう一回クロムの鉱石を買ってきて、クロムの塊を作る。

 今度はガラスの材料を倍にする。そして、クロムは塊ごと。

 そして……精製!


 そう、欲しかったのは、この色!

 薄い赤で、ガラス越しの目が見えるかどうかの濃さ。


「やったよぉ!」


 誰もいないのを良いことに叫んでしまう。

 ついでに【貴金属加工】のレベルも上がった。

 よし量産しよう!

 そう意気込んだんだけど……。


<精製に失敗しました>


 何度やっても、そう……。

 色ガラス作るには、スキルが足りないのかな?

 ただ、配合は合ってるから、最初だけ正解と教えるために作れるとか?

 念のために、クロムの塊1に石灰石などを最初の1.5倍にしてみる。


<赤色ガラス1が出来ました>


 あぁ……やっぱりそうか。

 色ガラスの調合はここまで。この先はもっとレベルが上ってからだな……。

 別の町の炭鉱でコバルトとか採れたら、また試そう。


☆★☆


 一度ログアウトして、翌日。

 私は再び細工師ギルドの工房にこもってます。


 取り出しましたる真鍮のインゴッド。

 これを素材加工して、厚さ1.5ミリの平板にして……と。

 看護師さんに借りて、写真を撮った眼鏡フレーム。その画像を重ねて……。

 あ……こういうの知ってる。イラストレーターってソフトのアレだ。

 ハンドルを引っ張ったりして曲線を描くやつ。

 見たことあるけど、使ったことなんてあるわけ無い。

 ……この先も使うんだろうな、これ。

 半泣きになりながら数日、何でVRMMOで遊んでるのに、描画ソフトの練習?

 ほぼ10日かかって、やっと形ができた。保存して、型抜き。

 眼鏡のツルと、メガネ本体のフレームの原型ができたよ……。

 色ガラスをメガネに合わせて型抜きして……あれ? これどうやってレンズ止めるの?

 接着剤なんて……無いよね。

 現実だと、樹脂の糸で吊ったり、レンズに溝を掘ってはめ込む……のかな?

 難しそう……もう一歩なのに!


 何かヒントはないかと、ギルドで売ってる品物を見せてもらう。

 ああ、綺麗だなぁ……宝石の付いたブローチとか。私もこういうの作れるようになりたい。

 えと……宝石は……ふむふむ。金属の爪で挟んでるのか。

 こっちの数珠みたいなブレスレットはどうやって、繋いでるの?

 あ! 少しだけ伸縮する糸を見つけた!

 ギルドの受付のお姉さんに、これが何か訊いてみる。


「これは【シルクスパイダーの糸】ですね。素材として、ウチでも取り扱ってます」


 買います買います!

 ついでに鼻パッドの樹脂のかわりになりそうなものを訊いてみると【乾燥スライム】がちょうど良いとか。

 スライムなら狩れそうだけど、気力が無くなりかけてるので購入。

 水に濡れるとスライムに戻るそうなので、形を決めたらコーティングする塗布薬もセットです。

 二階に駆け上がって、眼鏡の下の部分3分の2くらいを切り取る。

 ガラスのグラフィックデータに、糸を回す溝を描き加えて、加工。眼鏡にピンを打って、糸を縛って、眼鏡の玉となったガラスを糸を押し下げる様にして嵌めて……行ける!

 一度全部バラして、角が立たないようにヤスリがけして錫メッキ。

 直径1ミリのネジでフレームと眼鏡部分をくっつけて、糸を絡めて縛る。

 色ガラスも、このままでは難なので、磨き粉で磨く! ツルツルすべすべピカピカに。

 フレームの糸を押すようにしてガラスを嵌めて……反対側も……形になったよ。

 耳に当たる所を乾燥スライムで巻いて磨く。鼻パッドも形にして、滑り止めにザラザラにして……コーティング剤を塗る……。


 できたぁ! 出来たよ、私の赤いサングラス1号!


 工作なんて、病室ではさせてもらえないから、折り紙くらいしかしたことがなかったのに……。

 そんな私でも根性で、サングラスを作ったよ!

 顔の丸みに沿って無くて、上から見ると角ばってるけど、サングラスだもん。

 ゲームだから、ちゃんと装備したら落ちないもん。


 …………あ、感極まって泣いてる場合じゃない。


 残りの部品も加工しちゃおう。

 夏姫ちゃんにプレゼントしたら、ビックリするかな?

 陽菜乃手作りサングラスだぞ!

 3つ失敗して、合計5つ出来ました。

 ……あれ? 技能レベルとか上がらないのかな?

 ギルドのお姉さんに訊いてみよう。


「制作したものは、一つをギルドに納品することで鑑定され、製作者のオリジナル品として登録されるとともに、鑑定結果に応じた経験値が与えられます」


 危ない……できるだけ作っておいてよかった。

 一つ、お姉さんに提出して、名前を正式に【赤いサングラス1号】とする。

 いずれ他の色ガラスを作れるようになったら、顔に合わせた丸みとかに挑戦しよう。


「鑑定が終了しました。こちらは銀貨二万枚で買い取ります」


 え。うそ! 銀貨二万枚は高すぎない? 鎧とか凄いの買えちゃうよ?

 一気に冒険者口座に入金が来る。

 そして、経験値も……。

 【機械製図】が一気に上がって、【設計士】にランクアップ。【細工師】も【職人】クラスに上がった。


 ……ひょっとして、私凄いもの作った?

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