産卵なんてしてないもん!
血圧正常……やったね。
アラゾンさんから『FFOプレイヤーズガイド』なる本も届いて、ニコニコ。
オンラインマニュアルの方が詳しいし、早いらしいけど、PCを立ち上げる時間も限られている長期入院患者には、紙の本の方が嬉しい。
重いし、厚いし、場所も取るけど、SSを見てるだけでも楽しいよ。
ログイン前の一時、今日は何をしようかとページを捲る。
【細工師】を鍛えるにも、【錬金術】のレベルを上げるにも、金属が必要だよね。
金属……鉱石……鉱山?
やっぱり、鉱山は敵が強そう。エリアが変わると、敵の強さも上がるよ。
あ……面白い記述発見!
あの【緑の草原】エリアにある川で、砂金が採れるとな?
確率は低いっぽいけど、担当の先生から私のVRMMOライフを守るためにも、しばらくは戦闘の興奮を控えめにしなきゃいけないから、ちょうど良い。
では、ナースコールを。
「篠原さ~ん。五一二号室、
働く妖精シトリン参上!
まずは細工師ギルドに寄って、パンニング皿を買う。
普通、パンニング皿なんて言われても、何だか解らないよね? ネットで調べたら、砂利などを取り除いて砂金を探す道具らしい。
……ちゃんと、現実世界のアラゾンでも売ってるからビックリだ。
キラキラ~っと、【緑の草原】に向かう。
いきなり音楽が変わって、我が宿敵ホーネット!
不意打ちとは卑怯だぞ!
後ろから針で刺されて、ダメージスタート……痛いよぉ。
でもね、君の弱点はちゃんと『FFOプレイヤーズガイド』1980円(税抜き)で、調査済みなのだよ。
全力で空中ダッシュをかけて、ホーネットを飛び越える。
上下逆さまになりながら、ホーネットの背中、羽根と羽根の中心にトリャッ!
スピアを突き立てた!
【assasination! 】
一撃でホーネットのポリゴンが崩れて光の粒になる。
【暗殺】のスキルの効果もあって、弱点をつく楽しさに目覚めそう。
もう、スズメバチも怖くないね。リアルお小遣いをつぎ込んだ価値があったよ……。
だけども、今日は戦闘より採取。
キラキラ~っと、川辺に向かう。
小川よりちょっと大きいくらい? 飛び越えるのは、ちょっと悩むくらいの幅。
釣りをしてる人たちに怒られないように、川辺に木々が生い茂ったあたりまで移動。
「頼んだよ、パンニング皿!」
アイテム欄を開いて、スピアから持ち替える。
ホバリング中の妖精さんは、足が地に付いていないので、水面にダッシュ! そして、パンニング皿を使ってみる。ピロン♪
<砂金1gを採取できました!>
おおっ、本当に採取できたよ! しかも初回で。
これもビギナーズラックという奴かな?
目標は10g集めること。それだけあれば、【幸運のお守り】が作れるの。
「あと9g!」
水中ダイブを繰り返す。でも、さすが説明に『確率は低い』と書かれているだけある。
30分繰り返して、二回しか採取できてない……。
負けるものかと繰り返して、三度目の成功の時に、周囲のチャットが聞こえてきた。
「あ……妖精が産卵してる」
「いやいや、PCみたいだから、何かやってるんじゃない?」
ちょっと待った、産卵って何?
「あの……ひょっとして、私のことですか?」
「聞こえちゃいましたか? すみません、シトリンさん」
「何か採れるんですか?」
装備的に、戦士と聖職者の組み合わせかな?
どっちも男性で、戦士が『Blue Wind 』さんで、聖職者が『ザビエル』さん。
「ごく偶に、砂金が採れるんです」
「砂金! それ、初めて聞いた」
「プレイヤーズガイドの本に書いてあったし、砂金採りのアイテムもちゃんと売ってたんで、ものは試しでやってみたら……本当に取れたので採取中です」
「虫っぽいのが、水面にチョンチョンしてるものだから、産卵してるのかと思ってしまった(^_^;)」
「そんな風に産卵する虫がいるの?」
「トンボとか、そんな感じ」
「産卵なんてしてないもん! うら若き乙女なのに……」
「アハハ、ごめんなさい。動きがそっくりだったから」
「それはともかく、砂金採取の道具って何ですか?」
「【パンニング皿】と言って、細工師ギルドで売ってますよ~」
「【パンニング皿】! こんな所で出てくるのか!」
突然、『Blue Wind 』さんが頭を抱えて叫ぶものだから、私はキョトンだ。
大笑いしながら『ザビエル』さんが教えてくれた。
「ほら、あのスタート祝いのチケット貰ったじゃない。こいつ、アレでダブルチャンス引き当てたんだけど……その時の問題が『パンニング皿で採取できるものは?』だったらしくて、外して以来ずっとぼやいてたんだ」
「ダブルチャンス……ですか?」
「クイズ形式で、当てるともう一段上のレアアイテムに交換できるらしいよ」
「く~っ! シトリンさんと逢ってから、チケット使うんだった……」
「焦って使うからだって……。でも、鉱物採掘ならシトリンさんも、鉱山に行った方が早いのでは?」
「まだ強くないから、鉱山の方まで行けそうになくて……」
「それなら東門の所で、鉱山付近でレベル上げする人が採掘希望者を連れて行ってくれますよ。良く募集してるから、帰りも問題ないはず」
「本当ですか? ありがとうございます。砂金が集まったら行ってみよう」
「まだ頑張るんだ! 応援してますね~」」
「は~い、そちらも滅気ずに頑張ってください」
再び川面に戻って、産卵……じゃないよ。砂金採取を繰り返す。
一日の規定ログイン時間の四時間。ほとんどを砂金採取に費やして、なんとか10gを貯めることができたのは、砂金採取初めて三日目のことでした。
……私は、頑張った。
さっそく、キラキラ~っと細工師ギルドに行って工房を借りる。
砂金を溶かして、金の塊を作って……。アミュレットの元型をショップで買ってくる。
いずれ自分で作りたいけど、それは先の目標だ。失敗が怖くて、ついでに銀の塊も買ってくる。
元型から鋳型を作って……まずは買ってきた銀を溶かして……流し込む。
冷えて、鋳型を外したら……うん、ちゃんと形ができてるよ。
続いて、同じことを繰り返して、今度は金を溶かす。……できた。
それを作業台に持って行って、磨く! 小さいから虫眼鏡使って磨く!
薄くはみ出したバリを削り取って、表面もピカピカに磨く!
<普通の出来の幸運のアミュレット(銀)が1個できました>
続いて、(金)の方も、無事完成。
わ~い。金はこの町で売っていないせいか、難易度お高めらしくて【金属精製】と、【お守り作成】のスキルレベルがひとつづつアップ。
砂金集めを頑張った甲斐があったね。
これでいつ、夏姫ちゃんがログインしてきても大丈夫。私がログインできない夜に、ちょこちょこ遊んでるみたいだけど……。
銀のお守りは依頼対象品なので、受理して提出。儲かった。
他の依頼は……合金で作るものが多いね。知識は本で読んだからあるけど……鉱山に行かなきゃダメか。
そう思いながら、本日はログアウト。
翌日、教えてもらった東門に行ってみる。
「鉱山行き希望者、あと3名!」
「鉱山行きたい人、いる~」
などの声が飛び交ってる。「お願いします」と叫んでパーティー登録。
何気にこれが初のパーティープレイだったり……ドキドキ。
でも、先導の戦士さんは途中に出る敵は美味しくないらしくて、器用に避けながら街道を突っ走る。戦闘をしないまま鉱山まで来られちゃった。
ついでに、鉱山の入り口は三つあって「鉄中心に採れる穴」と、「銀が採れる穴」「何だかわからない穴」となってるとか。採掘中は敵に襲われないけど、穴から出ると襲われるから注意して、とか。注意事項を教えてくれた。
細工師の私は、銀狙いかな?
わ……さすがに人がいっぱいいる。
素材がポップすると『?』マークが出るから、そこをツルハシで叩くと鉱石が確定するみたいね。
「ちっ! 銅かよ……次だ次」
「また亜鉛かよ……ツイてねえなあ」
なんて言いながら、そこは放置して次に行っちゃうよ? みんな銀狙い?
そこで私は、ふと思う。
(銅……亜鉛……五円玉? ……
真鍮って合金だよね?
みんなが採らないなら、私が採るよ! どんどん採った方が、新しい物がポップするから喜ばれるはず。
私は元気にツルハシを使った。
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