働く妖精さん

「おーい。陽菜ひなちゃん見っけ!」


 次の日。ログインするなり、PTプライベート・トークが飛び込んできた。

 港町のログインエリアで待ち構えていたらしい、同じ顔のエルフがにこやかに手を振っている。名前は『ナツヒメ』さん。


夏姫なつきちゃん、お仕事大丈夫なの?」

「休憩中だから、すぐに戻らないと。……昨日このくらいの時間に、陽菜ちゃんが来たらしいから待ってみた」

「楽しいね、このゲーム。夏姫ちゃんはエルフの魔法使いなんだ」

「公式キャラは人間の戦士だから、こっちはちょっと変えてみたよ。今日は一緒に遊べないけど、とりあえずフレンド登録しようよ」

「おっけー。これでログインしてたらすぐわかるし……」

「いなくてもメッセージでやり取りできる」


 仕事の忙しい夏姫ちゃんは、フレンド登録が済んだらすぐにログアウトしちゃった。本当にこのためだけに来てくれたたらしい。嬉しいな。

 ニコニコしながら、ギルドに依頼分のアイテムを売って、武器屋に行く。先に弓でダメージを与える、賢い戦い方を真似したいもん。


「やめとけ……初心者に弓は財布にダメージがデカい」


 なのに、武器屋のオジサンはつれない事を言う。NPCなのに、話しかけたキャラクターの冒険ログや、キャラクターデータを見て、AIが対応を決めてるって本当かな?


「いちいち矢を回収できないだろうから、まずはこっちの方が財布に優しいぞ」

「スリング? 皮のタオルみたいだけど……?」

「拾った石をこれで投げつけるんだ。矢の代金もいらないし、石ならタダだ。必要な、そして伸ばせる技能も弓と同じだぞ?」

「では、スリングを買います」

「いい判断だ。それに妖精は小さいから、ダガーよりはこっちの方がいいぞ?」

「スピア? 槍ですか」

「槍の方が柄が長いから、間合いが取れる。刺すにも避けるにも都合が良いだろう」

「そっちも買うと、おいくら?」

「併せても短弓より安い。このくらいなら、払えるか?」

「は~い」

「使ってみて、合わないようなら買い取ってやるよ」


 思ったより安く済んじゃった。

 ダガーは奥の手と腰に挿して、手頃な石を拾っておく。

 武器を変えた実験相手は、おなじみのツノウサギだ。スリングで石を……当たった! こちらに向かってくるのをスピアで迎え撃つ。

 後ろに回って、後頭部にグサッと! 【assasination! 】 何? 一撃で倒せたの? スピア強い!

 どうやら、ツノウサギは後頭部が弱点らしい。

 そうとわかれば……気持ち良く、次々と一撃で倒してゆく。昨日の苦労は何だったの?

 調子に乗って次々と倒してたら、スキルを貰った。


<戦闘スキル【暗殺】を獲得しました。>


 うん、スリングもスピアも私好みだ。武器屋のオジサン、ありがとう。

 ジャイアントラットの方も、苦労せずに倒せるようになったのは、レベルが上がったせいだけじゃないと思う。

 残念なことに、今日は宿敵のホーネットは見当たらない。

 今日は別なことも試したいので、スピアの威力を確かめたら町に戻ろう。


 実は昨日の最後の戦闘に興奮しすぎたのか、血圧が上がってしまった……。

 こんな事が続いちゃうと、VRMMO禁止令が出されちゃうかも知れないので、戦闘以外の特技、生産職を選んでログアウト前に匠の心で気持ちを落ち着かせようと、考えてみた。

 それに、生産に材料採取はつきもの。材料採集に行くには、そこに着くまでの魔物を倒さなくっちゃね! と好循環な気がする。

 戦う妖精さんも悪くないけど、働く妖精さんを目指すよ!


 キラキラ~っと職人街に飛んできたのだけど、何を覚えましょう?

 鍛冶屋さんで武器や防具を作るのは、妖精さんというよりドワーフよね……。お薬作りは妖精さんっぽいけど、リアル入院患者のすることじゃないわ! って気もする。

 お洋服を作ったり、お料理したり……でも、ライバルが多そう。

 ……困ったときはギルドのお姉さんに聞いてみるべし。

 AIさんにキャラクターデータとスキル保持者データを照合して、良さげなものをチョイスしてもらっちゃえ。

 やってみて、つまらなかったら、別のにすれば良いのだし。


「そうですね……その条件で選択しますと、【細工師】が良いかと思います」

「……【細工師】って、何でしょう?」

「細かな金属加工を行う職工です。お守りアミュレットを作ったり、装備の飾りや細かな部品を作ります。……微妙という声もあって、同業者は少ないです。【錬金術】スキルと組み合わせると【魔導機製作】に発展するなど、将来性は高いと思いますよ?」


 たしかに微妙っぽい……でも、妖精さんの作ったお守りって、何か御利益ありそう。

 それに、錬金術とか、魔導機とか楽しそうだし……。お試しお試し。

 再び、キラキラ~っと職人街に舞い戻って、細工師ギルドへ。入会して、精密工具セットを買って……また二階で本を読む。

 【初級彫金】、【初級お守り製作】、【初級紋章学】、【初級鍍金めっき】、【初級合金】、【初級鉱石】、【初級金属精製】とひと通りの初級入門書を読んでスキル獲得。

 私以外は誰もいないから、本の返却待ちもなかったよ。

 続いて錬金術学校に行って、お勉強をする。

 錬金術セットと、教科書を買って教室へ。

 【初級錬金術】、【初級魔法陣】、【初級魔法語】を学びました。それで卒業。

 先生曰く「もっと経験を積んだら、中級を教えてあげる」そうなので、頑張ろう。

 卒業に伴って【鑑定】、【採取】、【採掘】、【伐採】、【博物誌】などのスキルが生えた。スコップ、ツルハシ、斧、白紙の本を買えば使えるそうなので買う。

 白紙の本を買ったら、今までにあったモンスターのデータが自動的に追加される。……ポケ○ン図鑑? 植物や鉱物も追加されるから、ちょっと違うか。

 これで材料採取から生産まで、ギルドの工房を借りて一人で出来るはず。

 そのタイミングで、現実世界からのメッセージ。


『佐伯さん、食事の時間ですよ』


 わ~! もうそんな時間だ。

 今日はここまで、中央広場でログアウトします。

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