第2話

 窓から入る光に照らされた床にはまるで白い絨毯のようにうっすら埃が積もっていました。先達の残した足跡が乱雑に残っており、自分たち以外にもここへ侵入した人間がいることに密かに安心しました。


 古びたテーブルの脇に椅子が転がっており、戸棚には申し訳程度に皿やコップがお置かれたままになっていました。人の住んでいた気配がまだ残っている、そう感じてぞっとしたのを覚えています。

「この中に何かあったりして」

 弘志が冗談めかして冷蔵庫を空けました。電気も通っておらず、さすがに空っぽで安心しました。


 たたたたた…


「わあっ」

 足元を何かが走り抜けました。ぼくたちは興奮して喚き散らしましたが、よく見るとネズミが駆け抜けただけでした。大声をあげたことで緊張が解れ、ぼくたちは廃屋の各部屋を見てまわることにしました。


 古いタイプの木造住宅で、しばらく人が住んでいないため床板はミシミシと軋みを上げています。外は晴天でしたが、カーテンを閉め切った廃屋の中は薄暗く陰鬱な空気が漂っていました。


 台所から居間、風呂場、トイレとふざけあいながら覗いていき、最後に玄関近くの和室にやってきました。靴のまま畳を踏むのは気が引けましたが、湿気のためか畳は半ば腐ってぶよぶよしており、そのまま足を踏み入れました。


「なんだこれ、仏壇か」

 健太が和室の壁に近付いていきます。

「仏壇には見えないぞ」

 普通の家なら仏壇があるスペースには奇妙な祭壇がありました。酷く違和感を感じたのは、それが神棚に似ていたからなのかもしれません。

 仏壇を置く場所に神棚がある。この違和感はひどく不気味に感じました。


 祭壇の異様さにぼくは早くこの家を出たいと思いました。でも、弘志はもっと話のネタになるものを見つけたい、と意気込んでいます。

「まだ二階に行ってないぞ」

「そうだ、せっかく来たんだから全部の部屋を見て帰ろう」

 健太も探索を続けることに乗り気でした。自分だけ帰るわけにはいかず、ぼくは仕方無くついていくことにしました。


 二階への階段は外光が直接当たらないために暗く、弘志が持ってきた懐中電灯を照らしながら階段を上りました。

 昔の家です。二階部分が一階の半分ほどの面積で、二部屋だけという造りでした。

 階段を上って正面の部屋へ入りました。部屋は空っぽでガラス戸の外には狭いベランダが見えました。


「うわっ、気持ち悪っ」

 弘志が叫んだので振り返ると、部屋の隅にネズミの死骸がありました。

「幽霊、出なかったな」

「最後のひと部屋を覗いたら帰ろう」

 健太も弘志も何もない廃屋探索に飽きてきたようでした。残りは階段右の部屋だけです。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る