現代都市綺譚-恐怖短編集-
神崎あきら
廃屋の怪
第1話
蝉の声が切り替わる夏休みの終わり、もう20年ほど前になりますがこの時期になると思い出す出来事があります。
ぼくは当時中学2年生でした。8月も最後の週に差し掛かり、夏休みを無為に過ごしたぼくは何か思い出を作ろうと強迫観念に近い気持ちに追い立てられていました。
来年は高校受験があるから遊んでばかりはいられません。そういう焦りもあったように思います。
近所に住む同級生の悪友三人で幽霊が出ると噂になっている廃屋に肝試しに行くことにしました。
その廃屋は見た目こそ普通の一軒家です。二階建てで狭い庭とガレージがあり、ブロック塀で囲まれていました。
団地の外れにあるその廃屋にはかつて親子三人が暮らしていたと聞いています。母親がノイローゼになり、子供を殺してしまったため家は空き家となり次の住人も決まらずに廃屋になったそうです。
取り壊されることもなく、何年もそこにある家は子供たちの格好の怪談話のネタになりました。
子供の影が窓を走り抜けたとか、子を殺した母親の後悔の啜り泣きが聞こえるとか、まことしやかに囁かれていました。
肝試しで廃屋に行く、なんて今の子供たちはやらないかもしれません。
しかし、ぼくたちはそこに行けば勇者にでもなれるという気分でその廃屋へ行くことを決めたのです。
夜に行くのは本気で怖い、そのくらいその廃屋は迫力がありました。ぼくと
頭上には真夏の青空が広がり、大きな入道雲が出ていました。
約束通り集まったぼくたちは自転車で廃屋へ向かいました。みんな冒険気分で盛り上がっていました。隣の空き地に自転車を停めて件の廃屋の前にやってきました。
庭は荒れ果て雑草が伸び放題、埃まみれのガラス窓の向こうには煤けたレースカーテンがかかっています。
「本当に行くのか」
噂のせいでぼくは尻込みしていました。
「夏休みの武勇伝を作ろうっていっただろ」
気の強いやんちゃな弘志は全く怖がっていないようでした。
ぼくたちはまず庭に足を踏み入れました。煉瓦を組んで作った申し訳程度の花壇に、打ち捨てられた錆びた倉庫、物干し台もそのまま立っていました。
廃屋といっても、天井が落ちてきそうな崩壊寸前の家ではなく、ほんの数年前まで人が棲んでいた家です。
煤けている以外はごく普通の民家です。それが逆に不気味に感じました。
「裏の勝手口が開いてるらしいよ」
健太は三つ年上のお兄ちゃんがいて、いわゆる情報通でした。年長の子供が先んじてこの家に不法侵入をした話を知っていたのでしょう。
ぼくたちは健太の言う通り、家の裏手に回りました。そこにはアルミ製のドアがありました。
健太がドアノブに手をかけます。ぼくは開きませんように、と密かに祈りました。しかし、ドアはあっさり開きました。
「開いちゃったよ」
健太は気まずい顔で振り向きます。まさか本当に開くとは思っていなかったのかもしれません。ドアが開いてしまったなら、ここで引き返すなんてことができません。
ぼくたちは勝手口から廃屋に入ることにしました。
「靴脱がなくていいのかな」
「もう人が住んでないんだからいいよ」
気兼ねするぼくを尻目に、弘志は土足のまま家に上がりました。ぼくと健太も靴をぬがないことにしました。
勝手口から入った部屋は台所でした。
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