第7話 ローグリード王国港町シルクス

 グランシア大陸に着くまでサハギン達は船の先頭を泳いでくれた。

 この船、かなり速いはずなんだけどサハギン達はずっと距離を維持しているのがすごい。

 港町が近くなってきたところでサハギン達とお別れした。


「ありがとねー!」

「ギッ! ギッ!」


 なんて言ってるのかわからないけど、どういたしましてとかそんな感じかな?

 サハギン達が沖へと泳いでいくのを見届けてから、船を港に近づけた。

 港町が見えてくるにつれて、私はその光景に目を奪われる。


 港には大小様々な船が停泊していて、いかにもな男達が積み荷を降ろして運んでいた。 

 船の形もこちらに負けず劣らず奇抜な見た目をしたものが多い。

 船体に水車のようなものを取り付けていたり、船首の先から伸びている鎖が海に続いている。

 海面に巨大な黒い影が見えるから、もしかしてあれに船を動かしてもらっているのかな?


 他には船体がほぼ鋼鉄で作られているような船や煙突がついている船と、つい見とれてしまう。

 ほぼ球体の船やテントのような三角形の建物が建っている船、どれ一つとして同じものはほとんどない。

 どうもこの世界は私が思っているより技術水準は低くない。

 風力だけで動く帆船だけじゃなく、何らかのエネルギーを利用して動いている船は珍しくなさそうだ。


(これが異世界……!) 


 ここで私は改めて違う世界に来たんだなと実感する。

 同時に胸が高鳴って、テンションが上がってきた。

 行くぞ行くぞ、早く上陸したい。

 何があるのか見てみたい。歩きたい。触れたい。


 私の船が停泊してもあまり目立たないとわかった以上、遠慮することはない。

 実は少し心配していただけに、反動でワクワクが止まらなかった。


 空いているところに船をつけてから降りると、男の一人がこちらに気づく。

 筋骨隆々といった体格の男が眉間に皺を寄せて寄ってくる。


「おう、どこのモンだ? 国指定の海賊の入港は断ってるんだが……そうは見えないな」

「世界を旅しているセアです」


 男は私をジロジロと観察した。

 服装について突っ込まれるかな?


「女の子一人でそいつはすげぇ。しかもその若さで船を持っているとは、只者じゃねぇな」

「まぁ譲ってもらっただけなんで……」

「ローグリード王国第二の海のエントランスと言われたこのシルクスに目をつけるとはな。見どころがあるぜ……おっと、うるせぇチーフが呼んでらぁ。じゃあな」


 遠くで別の人が大声で何かを叫んでいた。男が慌てて持ち場に戻っていく。

 確かに仕事もあるだろうし、私なんかに構ってるほど暇じゃないんだろうな。

 この服装もさほど珍しくないみたいだ。


 港を歩く人達を見ると、私のジーパンに近いものを着用している人も珍しくない。

 港らしく各国から人が集まっているみたいで、それこそ服装なんて様々だ。

 私はしばらく港を歩いて散策することにした。


 人がごった返すのはこっちの世界と同じみたいで、ぶつからないように歩くのも大変だ。

 頭に籠を乗せて歩く人とか初めてみた。

 籠どころか蕎麦の出前みたいな桶を高く積んだまま肩に乗せて歩く人なんてもはや曲芸だ。

 この人の波を器用にかわして移動している。どんな仕事なんだろう?


 船を見てみると、停泊しているのは商船だけじゃない。

 豪華そうな鎧を身に着けた屈強なおじさんが自分の船を数人に自慢している。

 あれはいわゆる旅の剣士というやつかな?

 さっきの男が言っていた意味がわかった気がした。


 旅の剣士でもあんな風に自分の船を持つ人もいるわけだ。

 そして他の旅人は乗せてもらえることがある。

 元の世界でも船長の権限は絶対だと聞いているし、そりゃ偉そうにもなるか。


 このまま見てるだけでも面白いんだけど、観光をするならお金が必要になる。

 さすがに猫神様はお金まではくれなかったから、こればっかりは自分で稼ぐしかない。

 すごいスキルと船まで貰っておいて、お金を稼げないなんて情けないことだ。


 当面は航海中に釣った魚を売って生計を立てようと思う。

 というわけで船に戻ってから魚が入ったアイテムポーチを持ち歩くことにした。

 これはアイテムボックスの小型バージョンみたいなものだ。


 食糧庫の調味料や食材も売れるんじゃ?

 と考えたけど、この世界にないものが多いから無暗に売るのは危ない。

 変に目をつけられても厄介だからね。


 この世界の仕組みをある程度、知っておく必要がある。

 何も知らない以上、他人に聞いて回るしかない。

 そんなことも知らないのかとバカにされるかなと思ったけど、通りすがりの人にすごく親切に教えてもらえた。


 まず商売をするなら商業ギルドに登録する必要があるらしい。

 商業ギルドは商売人を一括管理するお役所みたいなもので、無許可での販売は罰せられる。

 商業ギルドに登録せずにものを売りたいなら、直接各ギルドに行けばいいと教えてくれた。


 例えば魚を売りたいなら漁業ギルドだ。

 ここでは海産物を一括管理している。

 漁師は釣ってきた魚を漁業ギルドに売って、魚店や飲食店はここから仕入れるという流れだ。

 もちろん漁師が直接売るのは禁止されている。

 ただし漁師が商業ギルドで認可を受けていれば、販売と兼任できるらしい。 


 なかなか厳しいな、勝手に販売してもバレないんじゃ?

 そう思ったけど甘かった。

 つい先日、商業ギルドから認可を受けていない闇商人の組織が各ギルドを通さずに無許可で品物を売って捕まったと親切に脅してくれた。

 じゃあいらなくなったものを店に売るにも商業ギルドの許可が必要なのかな?

 と聞いてみたところ、そういう場合も各ギルドに行かなきゃダメみたい。


「あれこれ聞いてくるけどさ。法の目をかいくぐっても無駄だよ。上がノーと言った時点で終わりなんだからな。君はまだ若いんだから真面目にやりな」

「あ、はい」


 いわゆるグレーゾーンを狙ったところで、衛兵が踏み込んできたら終わり。

 仮に違法じゃなかったとしても、身に覚えがない濡れ衣を着せられて捕まることもあるという。

 ここは元の世界ほど人権が尊重されてないみたいだから、気をつけなきゃね。


 親切な人に手厳しいお言葉をいただいたところで、お礼を言って別れた。

 私が目指すべきは漁業ギルドだ。

 商業ギルドでの認可は割とハードルが高いらしく、今すぐ売りたい私が行くべきじゃない。

 この大量の魚をひとまず売って少しでも資金を増やそう。

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