第4話婚約者3

 

 執務室で溜まっていた仕事をこなしていたらすっかり外が暗くなっていました。どうやら今日は王宮に泊まるしかなさそうですね。


「ふぅ……」


 今日は濃い一日でしたわ。

 つい溜息がでてしまう程に。

 

 あの後、おじい様から手紙が届きました。

 そこには孫娘である私に対する謝罪とコーネル伯爵家に対する怒りの言葉がつらつらと書かれており、今回の件には大層立腹されているのが見て取れます。ただ、その怒りは伯爵家そのものという感じでした。もはやテオドール一人に対する怒りではありませんでした。きっと伯爵夫妻がテオドールと相手の女性との関係を認めたせいでしょう。


 おじい様の手紙と同時刻にコーネル伯爵テオドールの父親からの謝罪の手紙も届きました。


 早馬でおじい様に事の詳細を知らせたせいでしょうね。

 仕事の早い祖父のこと、すぐさま伯爵家に我が家ヴェリエ侯爵の顧問弁護士を引き連れて行ったに違いありません。そうでなければ、これほど早く謝罪文が届くはずありません。伯爵家は修羅場だったでしょう。それとも祖父の一人勝ちでしょうか?……後者が有力でしょうね。


 コーネル伯爵からの手紙にそれらしきものは書かれていませんが、テオドールの不貞を何度も謝っていることから相当絞られた事は想像に難くありません。伯爵家にとってテオドールは唯一人の子供。「嫡男として伯爵家を継ぐことを許して欲しい」と何度も書かれています。

 

 ……他家の跡継ぎ問題に突っ込むつもりは毛頭ありません。


 親族でもないので横やりを入れる事は越権行為でしょう。

 普通に考えて、コーネル伯爵家の世継ぎに関してヴェリエ侯爵家が口出しなどできません。

 おじい様は伯爵にナニを言ったのでしょう?

 文字の乱れ具合でコーネル伯爵の恐怖心が伝わってきます。

 最後の文章など特に不穏なもので……。


 【で慰謝料を支払わさせていただきます】


 震える文字で書かれていました。

 恐らく、その後に続くのは「だからコーネル伯爵家を許して欲しい」と思われます。

 まぁ、実際書いていないので何ともいえないのですけどね。けれど間違いないでしょう。


 おじい様が動くという事は下手をすると伯爵家の進退問題になりかねません。

 伯爵の気持ちは分からなくもありません。なら始めから嫡男の教育を徹底しておくべきでした。それか不貞行為に対し何らかの処罰を伯爵家でしておくか。両方ともできていないせいで祖父を敵にまわしてしまったのは自業自得でしょう。


 「許して欲しい」という文面が私には「許して助けて欲しい」に見えます。


 残念ながら今や、コーネル伯爵家は他人。伯爵家が潰れた所で私には痛くも痒くもありません。おじい様に慰謝料をむしり取られて没落しても同情する気は更々ございません。

 婚約して八年。

 私としては「婚約期間の時間を返して欲しい」と要求したい位です。

 おじい様がこれ程までに怒るのもそれが理由でしょうね。


 テオドールに言った通り、私に「否」はありません。あるとしたらおじい様と、コーネル伯爵夫妻が納得する形での婚約解消のみです。


 実際は、おじい様が納得できれば問題はないのですが……難しいでしょうね。



 


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