第2話 のじゃロリとは何なのだ?
//SE 風の音と葉の揺れる音
■正面、中距離
「はあ、結局目隠しを全部取りおったなお前。なに? 犬耳の『のじゃロリ』を網膜に焼き付けたいから? だから何を言っているのか分からぬ
……ろくなことを言っていないことだけは分かるぞ、なんとなく」
「それからな、妾は狼だからな! 誇り高き狼の形をとった山の神なのじゃ! 犬みたいに撫でくりまわ……くぅ〜ん!」
「あ! やめろ! 我が祠を見るでない! そうだ、祠だ。 祠に見えない? ふん、これでも昔は立派だったのじゃ。いまや誰にも見向きされず、朽ちるのみ……。それでも妾の祠なのじゃ! しょぼいとか……言うなぁ……」(涙声)
「な、泣いてなどおらぬ。山の神が泣くはずないだろうが。頭をポンポンするでない! 妾はお前の
なでなでも禁止じゃ! 耳が寝てる? 撫でられ待ち? そ、そんなこと無いぞ!」
「キューン。……こんな姿は妾の本当の姿ではないのだ。もっと気高く強く美しいのだ」(落ち込んだ声)
「『シュッとしてたんすね』、とはなんだ? シュッと? かっこいいということか? うむ。ま、まあ、人の言葉で言えばシュッとなのかもしれぬ。シュッとした姿しか見られたくないのだ。
可愛い? 山の神が可愛い必要などないだろう。シュッとした神しかどうせお前らは敬わぬくせに」(いじけた声)
「お前はなんでにやにやと笑っておるのだ? なに? 妾が可愛くて? わ、妾が可愛いと、お前は、嬉しいのか? 人の子は、これで喜ぶのか……?」(自信なさげに、少し嬉しそうに)
「お前、目隠しはもうしてくれないのか? 妾は、そのぅ、この姿を見られ慣れていないのだ。力の弱った姿など見られたくなかったのだ。恥ずかしいというか……ちょっと見すぎじゃ」(照れた声)
「何してるって、耳と頭を隠しておるのじゃ! お前は妾をすぐにナデナデしようとするからな!」
「う、そんなにがっかりせんでも良かろう。まあ、お前が喜ぶなら、見せてやらぬでもない。可愛いとは褒め言葉なのだな? 最上の褒め言葉だと今言うたな? な、ならよい。特別じゃ」
//SE 草を踏んで近づく足音。隣に腰を下ろす少女
「妾ばかり見ていないで、お前は自分の体に不満は無いのか? 妾が失敗するなどあり得ぬが、そのう、手と足が逆についておったとしたら、やはり気になるか……?」(自信なさげに)
「ひとの失敗を笑うなあ! 直してやらぬぞ! そうじゃ、失敗じゃ! どうせ妾は力のない神じゃ。人ひとり蘇生させることも出来ぬ」
「そう、蘇生じゃ。生き返らせたのじゃ。お前は崖の下でバラバラになっておったのだぞ。おおかた、山の獣に食い荒らされでもしたのだろうよ。よみがえらせて、名前まで付けてやったのだから、お前は妾のものだと言ったのじゃ」
「いやあ、手足がのう。そうかえ? このままでも悪くないと思うぞ。なかなか洒落ておるじゃないか。うん? これでは歩けないし、手で筆を持つことも出来ない? 直すのは面倒くさいのう」
「ち、ちがうわ! 妾が不器用なのではない! お前がバラバラになりすぎていたのだ! なに? 抱きしめることも出来ない!? だっ、誰がお前に抱きしめられたいなど言うたか!」
「仕方ない、面倒だが直してやる! 別に抱きしめられたいわけではないからな。それ、うんとこしょ!」
■下の方に移動
「うんとこしょは呪文じゃ。いちいち煩いやつめ。どっこいしょもあるぞ。だから、『のじゃロリ』というのは何なのだ? 『のじゃロリ的にも、うんとこしょどっこいしょはリアル老人すぎる』だと? ええい、愚弄されていることだけは分かるぞ」(プンプンと怒った声)
■正面近距離
「ふぅ、どうだ直っただろう。フン、妾の力を持ってすれば造作もないこと。感謝するがよい。うん? 少し思い出してきたと? 蘇生の術をうけたものは、記憶を失うはずだがのう」
「どうして助けたかって、そりゃあ妾も、いつもなら放っておいたさ。でもお前は以前に祠に来た時に、祠を詣でてくれたじゃないか」
「……まあ覚えていないだろうな。お前は間抜けな死にぞこないじゃ」(さみしげに)
「なに? 覚えている? 『あーあれかー』、などという軽い言い方は気に食わぬが、覚えているのか? 祠を詣でたことを? まことか!」
//SE 衣擦れの音、少女が抱きつく
■吐息が聞こえるほど近く
「妾はずっと待ち焦がれておった。この寂しい祠でひとり、ずっと待っておった。詣でてくれる人の子が再び現れることを」(涙声、嬉しそうに)
「人の子たちの持つ記憶というものは、なんて濃いものなのじゃ。他の者どもも、記憶のなかに少しでも妾のことを、残しておいたらいいものを。みんなみんな忘れていった。妾は一人だ。……お前以外はみんな祠など忘れているのだ……」
「え、自分の名前まで思い出したと? そうか……では、妾の名付けの効力も無くなってしまったな。お前は自由の身というわけか。よいよい、人の子に去られるのには慣れておる」(さみしげに)
「手足も直してしまったし、もうお前は山からおりてしまうのだろうな。記憶を取り戻した者を、手元には置いておけぬよ」
「……最後に、妾の付けた名前でまだ呼んでも構わないか? 別れるまで、妾のものだと思ってよいか? 妾の残り少ない力をもって、お前を治したのだから」
「そうじゃ、もう力は無いのじゃ。妾ももう長くない。祠と一緒に、忘れ去られて朽ちるのみ。もうほとんど力は残っておらぬ。見た目通り、幼子のようなものだ」(落ち込んだ声)
「いいのじゃ、妾は山の神。人の信仰が無くなれば消えるのが
「最後にお前と話せて、本当に良かったぞ」(静かに、全てを諦めた声色)
「え? 去らない? なぜじゃ? 人の子は人の世界に
「戻る気がしない? ふうん。おかしな人の子じゃの! じゃあ、妾の元に居るのだな! 下僕として! わふわふ! いや、犬ではない。狼じゃと言うておろうが! わふ! 嬉しいわけではないぞ!」
「尻尾? 知らぬ知らぬ! 尻尾が揺れるのは気分と関係ない! ま、まあ、下僕が出来たからそれは、嬉しくないことは……無いかもしれぬの!」
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