番外編①
末恐ろしい事実を知ったところで、結菜は唯斗の後ろに見知った顔があるのを発見し、すっと仮面を身につけた。
「………ご機嫌よう、
「こんにちは、結菜さん。安心してって言っても無駄だろうけど、まあひとまず落ち着いて。僕は陽翔くんの主治医で、彼の診察に来ただけだから」
彼がハンドルを握っている荷車に大量の医療器具があるのを発見した結菜は、唯斗と陽翔が頷くのを見て、僅かに肩の力を抜いた。
「………よろしくお願いいたします」
陽翔の横から少しずれ、長身でいつも優しい表情を浮かべている小児科医兼内科医の
テキパキと節のはっきりとした大きな手を動かす彼は、まるで1つの美しい芸術品を作り出すかのように医療行為を進めていく。
(さすがはあの病院長すらも実力を認め、信頼を寄せているお医者さまです)
心電図と点滴をつけられた陽翔は僅かに不服そうにしながらも、なされるがまま身体の力を抜いて大人しく治療を受けていた。
ほっと結菜の心に余裕が現れ、一滴の安心が荒れ狂っていた心を凪いでくれた。
本当はずっとずっと不安だった。
よぼよぼで立つことさえも難しい町医者はボケていてまともな診察をしてはくれなかった。そもそも、世界中でも珍しい症例である陽翔の病気は優秀な医者でも見つけるのは困難を極めることになるだろう。
「はい、終了。ちょうど今朝アメリカから新薬が届いたから、使ってみてね。効能は結構な数の検証を行なっているから、素晴らしいほどのお墨付き。でも一応、経過観察は取っておいてね。結菜さん、やり方わかるよね?」
「問題ありません」
陽翔のひんやりとした手を握りしめた結菜は、深々と頭を下げる。
「本当に、ありがとうございました」
頭上から苦笑する声が聞こえて、同時に頭を上げるように促される。
「僕は医者として当然のことをしたまでだよ。医者は人の命を助けるために存在する生き物なのだから。それに、1度見た患者は最期まで責任を持つっていうのは常識だしな」
にっこりと笑って小鳥遊は言うが、結菜は知っている。
そこまで真摯になって患者と向き合う医者はあまり多くないということを。
「じゃあ、僕は車で待っておくから、兄妹で少しお話しするといいよ。またね、結菜さん、陽翔くん」
「ありがとうございました」
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