番外編①
「………“しりとり”しよっか」
「うん」
水を飲んだからかだいぶ掠れがマシになった静かで落ち着いた大好きな声に、結菜は彼に頭を撫でられながら小さく頷いた。
「しりとり」
陽翔の優しくて、満ち足りた声。
「りす」
結菜の今にも泣き崩れてしまいそうな弱々しい声。
「好き」
「………きつね」
『わたしもです』と返そうとして、けれど今がしりとりの最中であることを思い出した結菜は、彼の頭を撫でてくれているお手々に頬を擦り寄せる。
「ねこ」
「こぶた」
「たぬき」
「クーラー」
「………LOVE」
「っ、」
僅かに息をつめた陽翔のベッドに完全に登った結菜は、上かけの上からごろんと彼の真横にねっ転がり、彼の身体に負担を与えないようにぎゅうっと抱きついた。
「———愛しています、はるくん」
(たとえあなたの寿命が全く残されていないのだとしても、わたしは生涯あなただけを愛します)
暖かい人肌に僅かながらも安心感を分けてもらった結菜は、ふわりと幸せそうに微笑みながらすりすりと陽翔に擦り寄る。
「ゆな………、」
近づいてくる陽翔の美しい氷色の瞳に見入りながらも、結菜はゆっくりと瞼を落とす。
彼のくちびるが額や瞼にちゅっちゅ、と優しい音をこぼしながら落とされていく。
まるで甘美なお砂糖菓子になってしまったかのような錯覚を抱きながら、結菜はくすぐったさに僅かに身を捩った。
「………すまない」
小さな彼の呟きに諦めたように首を横に振った結菜は、彼のくちびるに自らのそれを寄せるために近づく。
(たとえ僅かな間でも構いません。はるくんのお隣に居られるのならば、………わたしは全てを捨てられる)
くちびるを淡く引っ付けて、永遠にも感じられる時間を経験した結菜は、陽翔の頬を白磁のように白く滑らかな指で包み込む。
「わたしは、———あなたのいない天国よりも、あなたのいる地獄を選びます」
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