番外編①

2人がどうやってゆなの親から逃げ切りったのか


▫︎◇▫︎


「ごほっ、ごほっ、」


 激しい吐血といつ生き絶えるのかわからない恐怖に苛までながら、駆け落ちして1週間、結菜は4日前から陽翔に対して自らの別荘にて必死の看病をしていた。

 たった5日前まで愛する人と家を出た幸せに揺れていたはずなのに、結菜はあっという間に絶望に叩き落とされていた。


「はるくん………、」


 本当ならば今すぐにでも救急車を呼びたかった。

 けれど………、


(………ここで救急車を呼んでしまったら病院長にわたしの居場所がバレてしまいます。それだけは絶対に避けないと………、)


 町医者に毎日通ってもらって、もう手の施しようがないと言われながらも頭を下げて、ここ4日、陽翔の体調を見てもらっていた。


(もう、限界なのでしょうか………、)


 瞳からぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。

 彼の前ではずっと微笑んでいたいのに、幸せそうな表情だけを見せてあげたいのに、彼の命が本格的に危なくなってきた瞬間、結菜は毎日涙をこぼしてしまっていた。


「ゆ………、な、」


 辛うじてだしたのであろう掠れた声に、涙を拭く時間すらも惜しい結菜は彼の手を握る力を強める。

 目の下に隈を作った結菜は、真っ白なシーツに紙色の肌をして横たわっている陽翔の顔を覗き込んだ。


 少しすかしている窓から、潮の匂いのする風がふわりと舞い込む。


 結菜の指に嵌められた婚約指輪が陽翔の掠れた指先によってするりと撫でられ、その冷たい指先にまたもや鼻の奥がツンとする。

 瞳をゴシゴシと擦った結菜は、水筒に注いだ水を陽翔に飲ませるために彼の上半身を丁寧に起こし、口元に水筒を当てる。


 ———こく、こく、


 小さな喉の鳴る音がやけに大きく響き、結菜はたったそれだけのことに安堵する。


(生きてる………、)


 陽翔の1つ1つの行動に安堵する自分がいる。

 陽翔の1つ1つの行動に恐怖する自分がいる。


 相反する感情は胸の中でモヤモヤとした葛藤を渦巻かせ、結菜の不安を助長する。


 水を飲み終えほっと息を吐いた陽翔に笑いかけた結菜は、彼の腰に額をぐりぐりと当てるようにベッドに上半身を突っ伏した。

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