第60話


 ネックレス、ブレスレット、イヤリング、ピアス、イアカーフや指輪。ありとあらゆるアクセサリーが並んでいる様子は圧巻だ。いつもお店の方に家に来てもらっている故に、あまり外で買い物をしない結菜にとってこの商品ごとに几帳面に並べられている姿は、なかなかに興味深いものだった。


「いらっしゃいませ」


 冷やかしはいらないとでも言うようににっこりと完璧な笑みを浮かべた店員さんが、結菜たちに話しかけてきた。商品の値札を見ながら結菜はなるほどと思う。確かに、このお店は普通の学生では全く手が出ない代物だろう。


「ピアスを探しています。予算は気にしないのでおすすめを持ってきていただけますか?」

「かしこまりました」


 結菜の微笑みを受けた店員はどこか挙動不審になりながらお店の中を物色し始める。


「………普通はあぁいう時欲しい代物数点を出して欲しいっていうものだぞ」

「そうなのですか?でも、並べてみないとどれが良いのか分かりませんよ?」

「そうだな」


 互いの間に静かな沈黙が落ちる。

 結菜はぎゅっと制服のスカートの裾を握りしめながら、ぼそぼそと口を開いた。


「………ピアス、はるくんと片耳ずつつけたいと言ったらはるくんはお願いを聞いてくれますか?」


 彼の瞳が大きく見開かれて、それでくしゃっと僅かに表情を緩めた。


「あぁ。もちろん」


 ほっと息をついたところで、店員さんが複数点の商品を持って戻ってきた。多種多様なピアスはどれも愛らしい。そういうものが結菜の好みに当たるのかわからないために、色々と持ってきてくれたのであろう商品は、どんな服装にも対応できそうなデザインが多かった。全部素敵で全部愛らしい。


「………、」


 それなのに、結菜の視線の先には1つの商品がずっとあった。

 四葉のクローバー型の小さな片耳用のピアス。葉っぱの部分には緑色の石がついていて、中央には淡いピンクの石がついていた。じっと見つめて僅かに顔を近づけると、その石の輝き方に僅かな違和感を持った。

 試しにふっと僅かに息を吹きかけてみるが、石はそのままの輝きを放っている。


「………、これ、もしかしてダイヤモンドですか?」

「!! よくお分かりになりましたね」

「勘ですけれどね」


 ダイヤモンドは息を吹きかけても曇らない。なぜそんなことが起きるかという理論は忘れてしまったが、そのことを何故か覚えていた結菜は試しただけだ。そして、石は曇らなかった。だからこの石はダイヤモンドであると判断した。

 初めてお店で自分が目をつけたピアスは、なんとダイヤモンドだった。

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