第59話


 バスを降りると目の前には大きなショッピングモールが広がっていた。大きくて広い施設は、なんだか鉄骨剥き出しの箱みたいでなんだか無骨だ。けれど、それがどこか楽しげな雰囲気に見えて、結菜はわくわくしてしまう。

 後ろで先ほどまで自分が乗っていたバスが通り過ぎていくのにも気づかないくらいに興奮気味になりながらショッピングモールを見た結菜は、しばらくして満足したのかほうっと吐息を漏らした。


「行くか?」


 結菜が見飽きるまで待っていてくれたらしい陽翔の言葉にほんの少しだけ頬を赤く染めて頷いた結菜は、彼と手を繋いだままお店に中に入っていく。

 自動ドアが横にスライドして店に中に誘われた結菜は、入った瞬間に身を包んだ涼しい風に目を細めた。


(快適ですね)


 普段ならば寒いと感じるであろう室温も、特別な空間と初めてのことに包まれたことによる興奮によって体温が上がっている結菜にとっては、心地がいい。何より、彼の隣に立っているという事実が結菜に元気を与えてくれる。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 どこにいくかなんていう馬鹿げた問いはしない。多分彼は結菜の望むであろう場所に連れて行ってくれる。結菜はショッピングモールでお買い物なんかしたことないし、お店の中を自由気ままに歩いたこともない。だから、知っているのは本の中の知識だけだ。よって、店によって抱えている店舗が異なっているショッピングモールというのは対応し切れる代物ではないし、行きたい場所なんてわからない。


 だから、今回は、否、今回も彼の独壇場。

 それが正しいとわかっているし、実感している。でも、ほんのちょびっとでも寂しいと思ってしまう結菜は相当にわがままなのかもしれない。

 陽翔は迷いのない歩みでショッピングモールの中を歩く向かう先はだんだんとブランドものが多くなってきて、中には結菜が知っているお店もある。


「ここ」


 彼が指差したお店はそこそこ格式が高そうなお店だった。いつも結菜が身につけるものよりはランクが下で、けれど、遠目でも可愛らしいものを扱っているのがわかる。


「では、お買い物しましょうか」

「あぁ」


 彼に連れられて迷いのない仕草で結菜と陽翔はお店の中に入った。

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