第6話


「っ!」


 ぴこぴこ、きららぁん、ぱんぱん、


 ゲーム機たちが鳴らす楽しげな音に、結菜の視線はあちこちを向いてしまう。


「………そんなに珍しいか?」

「はい。珍しいです」


 きっぱりと答えると、彼は苦笑してゲームセンター内をぐるっと1周案内してくれる。

 ぎっしりと可愛らしいぬいぐるみや美味しそうなお菓子が並んでいるクレーンゲーム、たくさんの子供たちが今か今かと自分の順番を待っているカードゲーム、中高生たちがグループで遊んでいる太鼓のゲームやカートゲーム、どれも初めて見るもので、結菜は好奇心でいっぱいになる。


「で?………どれがやりたい?」

「え………、」

「………せっかく来たんだったら、なんかやりたいだろ?」

(わたしの、やりたい、もの………)


 くるくると辺りを見回して、ぐるぐると揺れ始める視界に、結菜は焦りを覚える。けれど、次の瞬間、結菜の視線は1体の真っ白でふわふわなくまさんに吸い寄せられた。


「………あれか」


 結菜の鞄に揺れている真っ白なくまさんのキーホルダーに良く似た大きな大きなくまさんは、何かを結菜に訴えかけてきているような気がした。


 ーーーちゃりーん、


 ぼーっとしていると、彼がゲーム機にお金を投入した。

 アームが横に動いてそのあと奥に進む。下に下がっていったアームがぬいぐるみをぎゅっと掴んで、ごろんとぬいぐるみを転がす。


「これでぬいぐるみが貰えるのですか?」

「………んなわけないじゃん」


 ーーーちゃりーん、


 もう1回彼が同じことを繰り返す。

 ぬいぐるみはだんだん四角く穴が空いているスペースへと向かって転がっていく。


 ーーーちゃりーん、


 軽快な音は、ここが異空間であるかのような印象を結菜に抱かせる。


「このゲームはあの穴にぬいぐるみが落ちたら良いっていうゲーム」

「落ちるまで何度もチャレンジしても良いのですか?」

「………じゃなきゃ儲けないだろっと、」


 ころんとぬいぐるみが持ち上がって、穴の中にぬいぐるみが落ちる。


 ーーーぱぱぱぱんぱんぱんぱぱぁん!!

 ーーーおめでとう!!


 ド派手な音と共に機械音で祝福されて、ぬいぐるみが陽翔の腕に抱かれる。そして、ひと通りぬいぐるみを眺めた彼は、結菜に向けてぬいぐるみを差し出す。


「ん、」

「?」

「………要らないのか?」


 彼が言っていることの意味をようやく理解した結菜は、ぱちぱちと瞬きした。


「月城さんが欲しくて取ったのではないのですか?」

「………16にもなった男のガキがぬいぐるみが欲しいわけないだろ」


 呆れたような言葉に、結菜はそんなものかと頷く。


「そう、ですか………」

「要らないなら店員に返すけど?」

「い、いり、要ります………!!」


 彼の手から慌てて大きなくまさんのぬいぐるみを奪い取って、結菜はぎゅっとぬいぐるみを抱きしめる。


「………ありがとう、ございます」


 顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑んだ結菜は、くまさんの頭に顎を乗せたてもふもふとした感触を楽しんだ。


(これが、彼氏からの“初めてのプレゼント”………)

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