第3話



 結菜がわざと大きめな声を出した告白に、周囲の野次馬はざわざわと浮き足立っている。

 少年陽翔は、ぎゅっと分かりやすく眉を寄せた。


「………嵌めたな?」


 ぼそっと呟かれた声は、結菜だけに届く。

 結菜はにっこりと笑って、ただただきつく鞄を握りしめていた。


(遊び人でも、わたしとは付き合いたくなんてないですよね………)


 だからこそ、結菜は卑怯な手を使った。


「ーーー良いよ。………ただし、1週間後にはお別れね」


 眉を下げて悲しそうに笑った陽翔は、銀のイアーカフ2つが輝く耳を撫でてから、ふっと笑った。


「!?」

「いや、なんで驚いてるの?そもそもキミがこの状況を用意したんでしょ?」

「そう、ですが………。ーーーあ、ありがとう、ございます」


 無言でぽんぽんと結菜の頭を優しく撫でた陽翔は、深い青色のヘッドホンを再び身につけて、颯爽と校舎に入っていく。

 そんな後ろ姿を見つめながら、頭に呆然と手を置いていた結菜は野次馬に問いただされる前に、彼に続いて校舎の中に入った。


 だからこそ、結菜は知らない。


「マジ!?何が起こったの!?」

「どんな美少女・美女に告白されても絶対に靡かないあの月城陽翔さまが告白を受けるだなんて、前代未聞過ぎない!?」

「冷酷王子に彼氏があああぁぁぁ!!」

「誰か!情報!!情報料の課金はいくらでもするわ!!」

「うあぁ、私も双葉さんみたいに前世の美女ならな~」

「いやっ、普通に双葉さんレベってやば過ぎでしょ」

「女優?モデル?」

「ああああぁぁぁぁ!!我らが“天使さま”がああああぁぁぁぁ!!」

「誰にも絶対に贔屓しない“天使さま”がああああぁぁぁ!!」

「イケメンマジ許すまじいいいぃぃぃ!!」

「リア充爆破しろおおおぉぉぉ!!」

「うわっ、男子の僻みやばっ!」

「マジ男子祝えなさ過ぎだしぃ」

「にしても、お似合いだよね、あの2人」

「そうよね~。どうぞ末永くお幸せにって感じ」

「んで、あたしらの彼氏を絶対に取るなと」

「マジそれな~」

「ね~」

「でも、マジであの2人美少年に美少女でお似合いカップル!!」

「我が校ツートップがくっつくとか、マジ最高!!」

「「「ね~!!」」」


 結菜が去った後、校舎前でたむろしている学生たちがこんな会話をしていたことを。

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