金曜日1 暇人は放課後を謳歌する。
放課後の教室というのは、なんて素晴らしい空間なのか。
一時間前までは人がごった返し、未だ夏の粘り腰は続き、気だるい暑さが充満していた教室が、今は自分と優しい夕焼けだけの空間に早変わりだ。
久しぶりの一人、放課後の教室。
忙しい日々が終わり、元の生活が戻ってきた。
一人で過ごす放課後は、なんて安らぐのだろう。世界最高の環境だと本気で思う。
でも、なぜだろう。先週までとは違い、心にぽっかりと穴が空いている。
寂しい。そう感じている自分を、否定出来ない。
たった数日、いつもと違う活動をしていただけなのに。
今日、昼休みに
理由を聞き、様々な反応があった。怒る人、興味ない人、同情する人、許す人。
何にしても、そこまで大きな事にはならなかった。ポスターが帰って来たのもあるだろうが、他人の秘密に対して、人はそこまで関心がないのかもしれない。
意外だったのは
結果的に、越川の立場はそんなに変わらなかった。本人が、今までは無理して上げていたテンションを少し下げたくらいだ。
なんなら交友関係広がってないか?
ちなみに、
とにかく、事件は完全に終わったのだ。
ガラガラガラ
「
「いるかー?」
「若菜さん? 越川? なんで。それに……」
今、悠くんって呼ばれたよな。
月曜日の放課後に一度だけ呼ばれた下の名前。
「なんでって、別にいいでしょ? 友達なんだから」
友達、か。
「そもそもここはお前の場所じゃねーしな」
「そうだけど、何をしに来たの?」
「何って、三人でボーっと過ごすんでしょ? 約束したよね? なんだっけ、ぼーっと同好会?」
なんだそれ。
「まさか毎日来る気じゃないよね?」
「来るぞ」
なんてこった。一人の安らぎ空間が……。
「いつもただ喋るだけなのもつまらないから……」
若菜さんがカバンからなにか箱を出す。
「これ! たまにはボードゲームとかしよ! これも約束したでしょ?」
「文化祭の後じゃなかったっけ」
「細かいこと気にすんなよ。それにほら、親睦会だよ。吉田先生に嘘で言ったやつ!」
「ほらほら悠くん。 早く席並べてよ」
また悠くん。そっちで定着させるらしい。ちょっと恥ずかしい。
「いや、まだやるって言ってないんだけど……」
若菜さんが怖い顔で睨んでくる。
「さっさとやるっ!」
ビクッとした。怖いよ。
「はい……」
ガラガラ!
「何してるのー? あたしも混ぜて絢星くーん!」
「
「平気ー!本番前日はなんと休みなの!」
「じゃあ、沙奈ちゃんもやろ! これ人数多い方が面白いから!」
「やるやるー!
う、うるさい……。こんなの安らぎの空間じゃない……。
「悠くん、説明書読んで」
「え、読まないとダメなの?」
「ダメってそりゃ誰もルール知らないし」
やったことあるふうの口ぶりだったじゃん。
「まさかやったことない?」
「もちろん」
もちろん……?
「さっき言ってた人数多い方が面白いってのは?」
「ネットに書いてあったの」
あぁ、そうですか……。
拒否権は無さそうだ。
「分かったよ。読むからちょっと待ってて……」
俺が説明書を読まされている間も絶え間なく会話は続いていった。
「悠くんまだ?」
イラッとする気持ちを抑え、文字を追った。
それにしても、悠くん呼びは、やっぱり慣れない。
自分らしくない生き方は苦しい。しんどい。そう越川は言っていた。でもそれは越川が自分で挑戦して、その結果、得た答えだ。
俺は何かしただろうか。何もしていない。答えを出せるほど挑戦していない。やってみた結果、やっぱり一人で過ごす方がいい、という結論になるかもしれない。
それでも今は、この騒がしく、そして楽しい時間を、過ごしてみるのもいいのかもしれない。答えはいつか、出るべき時に出るだろう。
「佐々木さん! それ俺の駒!」
「なんで名字で呼ぶのー! 沙奈って呼んで!」
「悠くんのターンだよ! 早く早く!」
「お、ラッキーマスだ。内容は――」
放課後の教室は素晴らしい。
それは、何人いても、変わらない。
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