ザ☆モール☆オブ☆ダークネス

宮塚恵一

第1話 オフだっていうのに

 須美ヶ崎ショッピングモール。多くの人々が集うこの場所で、真里衣が異変を感じ取った時にはもう遅かった。

「ふっざけんなよ、今日はオフだっていうのに」

 パタリ、また一人パタリ。モールにいる客が次々に倒れていく。真里衣は小さくため息をつき、荷物持ちとして連れて来ていたジュンホに声を掛けた。

「ジュンホ、何が起こっているかわかる?」

「待って、待ってください」


 ジュンホは真里衣に持たされていた新しい洋服や靴を入れた紙袋を床におろすと、背負っていたバックパックの中からノートPCを取りだした。


「嘘……そんな馬鹿な」


 ジュンホはPCのキーボードを叩きながら呆けたようにつぶやいた。


「いいから。何が起こっているのか端的に。ハリーアップ!」

「真祖です!」

「はあ!? ありえないでしょ!」

 真里衣は焦った様子で叫ぶジュンホに、思わず語気を荒げた。

「そりゃそうなんですけど! ホントそうなんですけど!! この反応は間違いありません!! 真祖の纏う大量の魔力が検出されているんです!」


 ジュンホは「ほら!」と真里衣にPC画面を見せた。確かにそこには真里衣も最低限読み方を知っている魔力分析スペクトルが映っている。そこにあらわれているのは、普通ではありえない魔力の波長だった。


「マジかよ、最悪。どういうこと? 機器の不具合、なわけないよね。実際に被害が出ている」


 真里衣はモール全体を見渡した。もう自分達以外に起きている人間は、少なくとも二人の周りにはいなかった。吸血鬼ハンターである真里衣と助手のジュンホは、一般人と違い、吸血鬼の魔力にアてられることはない。


「仕事用の杭打ち機パイルバンカなんて持ってきてないってのに全く」


 真里衣はジュンホに手を伸ばした。ジュンホはPCを取り出したバックパックの中から刀の柄を取り出した。刃の部分はなく、持ち手だけの奇妙なそれを真里衣はジュンホから受け取り、握る。


「抜刀、つらぬき丸」


 真里衣が小さくつぶやくと、いつの間にか真里衣の握っているのは刀の柄に、しっかりと刃があらわれた。間違いなくこのままこの国ニホンで手にしていたら銃刀法違反でしょっ引かれる代物だ。

 続いてジュンホは真里衣に耳に取り付ける小型のインカムを渡した。耳穴をふさぐことなく、骨伝導で音声を伝えるタイプだ。真里衣はそれも受け取り、すぐに耳に装着する。


 ――跳ねた。

 真里衣はモールの吹抜け部分に向けて大きく跳躍し、今いた階二階から一番近くの洋服店がある三階まで跳躍した。

 民営吸血鬼退治専門機関インソムニア。表向きは民間の民俗学調査グループとして活動している吸血鬼退治の専門家が集うインソムニアに雇われている吸血鬼ハンターの稼ぎ頭である真里衣には造作もないことだ。

 真里衣は躊躇なく着ている私服を脱ぎ、下着姿になると洋服店にある適当なスーツを引っ掴む。そのまま上下をぴっしりと着ると、インカムを使ってジュンホに呼びかけた。


「どっち!?」


 マリィの問いかけに、ジュンホは瞬時に答えた。


「須美ヶ崎シアター! マリィさんがいる階の映画館です! そこに真祖の魔力が集まってる!」

「わかった。すぐ行く」


 須美ヶ崎シアターは今いる洋服店の反対側だ。真里衣は再び吹き抜けから反対側へ飛び移る。どこもかしこも真祖の影響で倒れているのであろう買い物客が倒れていたが、猫のようなしなやかさでそれを全て避け、真里衣は須美ヶ崎シアターの入り口ロビーに向かった。


「全く! 今日はオフだって言うのに!!」


 真里衣を襲うやり場のない怒り。この苛立ちは、この先にいるらしい吸血鬼に直接ぶつけてやる。そう思い、真里衣はシアターの中に入る。


「シアター6!」


 ジュンホから続けて吸血鬼のいる場所の情報が届く。

 真里衣はその部屋の前に来て、扉の向こうに誰も倒れていないことを気配でしっかりと感知してから、目当ての部屋の扉を勢いよく蹴破った。

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ザ☆モール☆オブ☆ダークネス 宮塚恵一 @miyaduka3rd

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