第11話 乙女よ永遠であれ
「アリオス隊長。大丈夫ですか? つ、続けてもいいですか?」
「お、玲華やる気まんまんだね。すごいなぁ~。たいちょにこんな趣味があったのも驚きだけど。でも結構面白いよねこれ」
「ボクも楽しいぞ、アリオス。一般的には逮捕案件だケド。でも楽しいからおっけー」
『裸エプロン』というものが、世の中には存在する。
服の着用方法の一形態であるが、いたって奇異な着用方法だ。その特異性を語るうえで触れなければならないのは、本来汚れを衣服の代わりに受けるべきエプロンを、女性が裸で着用すると言う非合理性だろう。
熱かったり汚かったかったり、落ちにくい汚れなどから身を守る為のエプロン。それをあえて裸の上に着る。当然の事だが、覆われた箇所以外は一切カバーできない。実用性は皆無だというのに、あえてそれを行うよくわからなさ。もちろん別の意味がある。
その利点、目指すところはどこか? すなわちギャップだ。チラリズムだ。性的興奮を想起せしめるためのツールだ。家庭的な女性の象徴としてのエプロン+むき出しの女体。それが男心をどうしようもなくくすぐる。
――俺はいったい何を考えているのだろう。頭がおかしくなったのか? だが仕方ない。そういうものが目の前にあるのだ。考えられずにいられない。
「隊長さん」「たいちょ」「アリオス~」
三人の声がそろう。
「「「この格好どう思う?」」」
玲華、メグ、ガブリンの三人娘が裸エプロンで座っていた。
「なんなんだ、この状況は……」
俺は混乱していた。記憶を掘り起こせば、確かモイライ星系で戦いがあって、彼女らは死んで、暴君が現れて、敵を全滅させて――。そのあとに何かあったはずだ。だが思い出せない。何があったのだろう。ここはどこだ。いやもっと気にする事がある。それは。
「お前たちなんで……、生きてるんだ」
「え、アリオスたいちょが助けてくれたんでしょ? 私たちも気が付いたらパルカ3に連れ戻されてて、たいちょが言ったんじゃん。『俺様が勝ったのだ。今から宴を行うぞ。酒を持ってこい!!』って」
「アリオス酔ってタ。ボクも分かんなかったけど、とりあえず脱げって言われてこれを着てる。知らなかった。アリオスって、ス・ケ・ベなんダネ♪」
「えっと、あの。その。それでさっきまで隊長さんはお酒を飲んでいて、それから急に倒れて、心配して起こしてたんです、けど……」
あたりを見回す。――なるほど、見覚えがある。
ここは小隊名義で借りているアパートメントの一角だ。何かあったときに使えるよう確保している
部屋の中央にどでかいベッドがしつらえてあり、ど真ん中に俺が寝ている。その周囲に半裸の彼女らを侍らし……。う、酒臭い。なんだこの散乱している酒瓶は……!? この頭痛といい……。まさか、俺が飲んだのか?
「よ、よくわからないですけど、大丈夫そう、です? ええと、じゃあ、続けますね!!」
まだ状況が理解できない俺に、やけに気合が入った玲華が迫ってくる。玲華・ブラウ・橘。いつも切れと言っているのにちっとも切らない前髪の奥から、伏し目がちだったはずの眼がいやにギラギラとして俺を見据える。こいつ、一体何を続けるつもりだ?
「ええと、――ちゅ」
「んな!?」
信じられない事が起こっていた。玲華が俺の身体に口づけをした。裸エプロンの玲華がだ! 信じられん。そして今気づいたが、俺も裸だ。
「えい、えい」
ぺろぺろ。
「そ、そんな!?」
「ふう、どうれすか、隊長。ぺろぺろ、気持ち、いいれすか?」
「おまえ、お前、なぜそんな事を……ッ」
きょとんとした表情で、俺の腹から顔を上げる玲華。持ち上げる上体に追従してフリルの付いたエプロンに包まれた、いやに大きな胸がタプタプと揺れた。普段は猫背な事もありわかりずらいのだが、玲華はかなり胸が大きい娘だ。
宇宙時代に入ってから今日、人類は慢性的な食糧難に陥っているが、そんな環境下だというのに、この玲華という少女は自身の胸をたわわに育たせている。その秘訣を以前メグが質問しているのを横で聞いていた。玲華は恥ずかしそうに言った。
『あ、甘いものを食べてストレスをためない……かな? あとよく、寝る……こと?』
ボクも寝てるしストレスないけど、全然育たないぞ!! とガブリンが切れていたのはご愛敬だ。
そんな娘が裸エプロンで! 目を潤ませて! 一心不乱に! 俺の胸板をなめるのだ。――なんで??
「め、メグ。これはどういう事だ!? なぜ玲華はこんな事をしている!?」
「えー、たいちょが言ったんじゃん。『お前らは今日から俺の女だァ。命を救ってやったのだから当然のことだ! これからは一生かけて俺様に奉仕をするのだァ!』って。あれ? 覚えてない? めっちゃ酔ってたもんね」
「なん、だと……?」
「アリオス、足のマッサージはボクがやるぞ。ほらほら、どう~?」
「が、ガブリン!? お前まで……ッ?」
ガブリンが、褐色の肌の、まだ幼さの残る身体で俺の足にすがり付く。そしてそのまま擦り付けてくるのだ! ああ、ガブリンは玲華に比べて絶望的に薄い。なのに懸命に押し付けてくる。その一生懸命さが、なぜだ。こう、無性に『クル』ものがある。
まずい。屹立している。
「め、メグ! 今すぐ二人を止めさせろ! こんな事を、君たちにさせるわけには――ンぐ」
唇がふさがれていた。メグ・シェイ・レイの少し大人びた顔。長めのまつ毛が揺れている。紅潮した頬から漂う女の匂いが鼻孔をくすぐる。その衝撃に、頭の奥がじんとしびれたように感じる。
メグ、なぜ、こんな? 思考がぐるぐると空転する中、唇が何度も合わさり、舌が入り、なめ回され、少し唾液を吸われ、――そして、ちゅぽんと離された。
「――ぷは。えへへ。たいちょにキスしちゃった」
彼女は恥ずかしそうに笑った。
だめだ。軽いノリながら、普段は隊の常識枠であったはずのメグまで様子がおかしい。なんというか、こう、発情している! 何かがオカシイ。
「はむはむ、ぺろぺろ。えへへ。隊長さん。どうですか? 私、うまくできてますかぁ?」
玲華の柔らかさと重みに頭がおかしくなり。
「アリオス、どうだ? こうか? えいえい。お、こっちも元気だナ」
ガブリンのたどたどしい手つきに反応する。
「ん、ん、んん~。もっとぉ、もっとちゅーしたい。止まんないよぉ」
何度も何度もキスをせがむメグに視界が暗転する。
その最中に俺は悟る。
間違いない。この状況は、どう考えても異常な状況は、暴君の仕業だ。
アイツが玲華たちに何かしたのだ。
死んだと思っていた彼女らが生きていてくれたのは純粋にうれしい。だがこれまで彼女らとはそういう関係ではなかった。隊長として一定の尊敬は得ていたとは思う。だが、艶っぽい関係では断じてなく、俺自身も務めてそうはならないようにしていた!
「「「ねぇ、何考えてるの? あ・り・お・す♡ こっちおいでよ」」」
「や、ヤメロ、止めてくれ……、なぜかわからんが俺は今、無性に悲しい……」
「「「え、なんで? 嫌だった? 私たちもう、アリオスのものなに」」」
「ヤメロ、やめてくれ……」
「「「ア・リ・オ・ス♡」」」
「や、めろぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおォ!!!!!!!!」
泣いていた。俺は泣いていた。どうしようもなく悲しくて、涙が止まらなかった。
――なぜだ?
「俺の見た事のない表情で媚びを売る三人に、脳が破壊されたからだ」
――理解できんな。お前を愛してくれているじゃないか。
「違う、これは違う」
――何が違うんだ?
「違うだろっ!? 俺は彼女らをそんな目で見た事は無い!」
――本当にそうか?
「く、いや。ぬ、た、多分……」
――こいつらはお前の女なんだろう?
「違う! そういう関係ではないッ」
――だがこいつらはお前に好意を持っていたぞ。
「そ、それは俺が彼女らの雇い主だからだ。孤児として身寄りがなかった彼女らをいままで育ててきたからだ!」
――そう思ってるのはお前だけじゃないか?
「……仮にそうだったとしても。そうであったとしても! こんなやり方で好かれても俺はうれしくない! ――クソ、なんだこれは! いたずらにしても度が過ぎているぞ!? いい加減にしろッ、もう種は割れてるんだ。出て来いよ、暴君ッ!」
◆
「くは、かははははは!! テメェ面白れぇな。おもしれェ!! クソ雑魚チェリーかよバーカ!! あー笑った笑った。いいぜェ。これくらいにしておいてやる」
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