第6話 モイライ星系防衛戦(2)


 12機のフェーズ4はいかにも軍隊らしい、統率された動きを見せた。


 レーダーが相手の発砲を感知した瞬間、俺たちの機体に衝撃が走る。敵の根源第六物質オードマテリアから生成マテリアライズされた重火器が、異次元の弾幕となって、俺達を襲ったのだ。


 まず落とされたのは、帰る場所でもある防衛衛星基地フォーレンだった。


 遥か後方まで届く大口径の荷電粒子砲に狙われたフォーレンが、母星である〈パルカ3〉に落ちていく。


 それを眺めている暇もなかった。母艦が狙撃されたのは次の瞬間だった。近くには玲華の〈ブラックウィドウ〉がいたはずだが、撃墜された瞬間から玲華との通信は途絶した。


 その間にもフェーズ4の魔導機猟兵が俺たちに迫る。


 訪れたのは一方的な虐殺だった。


 『――肉、肉肉、にくぅぅうう………、う、ぐ、うあ、ううう、ああああ、――、無理、これムリぃ、むりむりむりぃ! まだ隊長のおごりで焼肉食べてないゾ!! ボクまだ死にたくない! 死にたくないんだけど、これ、やばう、う――』


 悲痛な叫びを残して通信が途切れたのは、ガブリンの〈ハングリィゴブリン〉だった。


 望遠カメラで捕らえれば四肢をすべてもがれた機体が、屑鉄となって宇宙空間に漂っていた。敵機の集中攻撃にあい、なぶられたのだろう。コックピットの部分には、ブレードが何本も突き立ってられ放置されていた。


『ひぐ、ぐす、うう、やだ、やだよぉ……』


 そんなすすり泣きが聞こえていた〈フェアリー〉からの通信もすぐに途切れる。メグは玲華との通信が途絶した時点で、早々に戦意を喪失していたが、棒立ちの支援機など敵のいい的だっただろう。


 その間、俺とて部下たちが撃墜されていくのをただ眺めていたわけがない。


 わけがない、のだが……。



 〈バイバルス〉を取り囲むように、十二機の敵が回る。


 素体猟兵でもないのに、敵機は気持ちが悪いほど外見が似通っていた。地球時代の騎士を思わせる白銀の装甲。胸部装甲には〈エンデ〉の紋章が入った白銀の猟兵だ。


 フェーズ4であるのに、機体の外見上の差が少ないという事は、それぞれのパイロットの精神性が似通っているという事だ。


 エンデの兵は個性パーソナリティが希薄であるといいう噂を聞いたことがあった。戦争機械として、チューニングされているという事だろう。


「まだだ、まだ、何かないか、何かあるはずだろう!!!!?」


 機体にコマンドを撃ち込む。操縦桿を動かす。だが駄目なのだ。〈バイバルス〉は戦闘能力を失っていた。コクピットのモニタには、絶望的な被害状況が知らされる。コクピットが存在する胴体部以外にリカバリー不可能なレベルの損壊が出ている。


 ガブリン機と同じだ。武器を、四肢を、噴進器バーニアに至るまでことごとくを破壊されていた。遊ばれたのだ。一撃で止めを刺せばいいものを、なぶるようにジワジワと削られた結果だった。


 俺は敵に翻弄されながら、仲間たちがやられていくのを指をくわえて見ているしかなかった。


「――はっ」


 顔を上げれば、敵猟兵たちの構える砲身が〈バイバルス〉に向けられていた。


「あの子たちの仇も取れずに、俺も死ぬのか? そんなバカな」


 血がにじむほど拳を握りしめ、歯が砕けんばかりに敵を睨みつけても、敵は死なない。だが、それでも俺は願ってやまなかった。


 力が欲しい。こいつらを打ち倒し、部下を助ける強い力が欲しい。


 彼女らは、俺の大事な仲間たちだった。


 優しい言葉ばかりではない関係だったかもしれない。厳しい訓練や、非情な実践を共に潜り抜けた戦友だ。時には叱り、必要があれば殴った事だってある。だが厳しく鍛えたのも死んでほしくないからだった。


 それを無残に、奪われた。


「クソが、クソが、クソが、クソが、クソが、くそくそくそくそくそォ!!!!!」


 〈バイバルス〉のコックピットに光が満ちる。


 敵の荷電粒子砲の砲身が光を放つ。あれが発射されたあと、俺の消滅をもってアリオス小隊は消滅するのだ。


 玲華、メグ、ガブリン。あの子たちの存在した記憶も残らない。モイライ星系ともども宇宙の塵に変わるからだ。


「……もう、だめなのか?」


 絶望だった。もうどうにもならない。精神感応物質である根源第六物質オードマテリアも反応しない。


 光が迫る。荷電粒子が放射された。直撃だ、俺が熱線に晒され蒸発していくのを感じた。


 ――ああくそ。仇、取りたかったなぁ。


 身体と意識が消滅していく。不思議な事だが、この感覚は初めてじゃなかった。いつかどこか、遠い昔に同じような目に遭った事があるような?


 その時だ。


『――勝手に死んでんじゃねーぞボケが。やっと出てこれたのに、また〈魂の座あそこ〉に逆戻りさせる気か? ふざけてんな。もういいわ。俺様に代われや間抜けが』


 性格の悪そうな声が聞こえたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る