第2話 ある男の末路(2)
人間の身体ってのは、怪我が勝手に治ったりするもんだが、これは
だからこの世界にあって、俺はたとえ塵にまで分解されようが死なねェ。多少時間はかかるだろうが、じきに元の姿形に戻ることが出来る。
だがそれはあくまでこの世界に存在した場合、だ。
「〈不変不滅〉世界に対して存在を残す術。あくまでこの世界に対し〈不変〉であるという概念。ならば貴方をここではないどこか、へ追放すれば。そう、例えばすべての命が回帰する『魂の座』などへ直接送り込めば――どうなるでしょうね……」
そこまで言ってラナリアは、コフッと血を吐いた。
口から次から次へと溢れ出てくるのは赤だ。ババアの顔色はいつの間にか蒼白に変わっていやがる。
そらみろ言わんこっちゃねェ! 高次元存在に介入する術は、やばいレベルの魔力を使う。今俺のまわりをとり囲む神聖存在、そいつらを出現させるのに必要な代償は、魔力だけで足るはずねェだろうが!
案の定、ババアは杖を頼りにギリギリ立っているのが精いっぱい。やつの身を案じざわつく周囲に「良いのです」とかなんとか、声をかけてやがる。
「……私がこんな事できるなんて、知らなかったでしょう? 貴方が私に興味を失ってから練習したんですよ。うふふ、代償は私の命ですけど、ね」
おいおい、マジかよ。やっぱり命取られてんじゃねぇか!
「おいラナリア、その術今すぐやめろ。テメェみたいな雑魚が使ったら死んじまうぞ! いいか!? こんな馬鹿馬鹿しいことに命使うな。テメェのクソ真面目な性格は気に食わなかったが、若い時は散々可愛がってやったじゃねぇか。何にもできないクソガキだったお前に魔術を教えてやったのは俺だよなァ!?」
だが、ラナリアは答えない。
崩れ落ちそうな身体を杖で支え、ただ術の行使を続けやがる。
「ひらけひらけよ、闇よ、夜よ。揺蕩えあまねく魂のゆりかごよ。繋がり導き現れよ。哀れな獣を座へと
詠唱につられ俺に群がる神聖存在はどんどん数を増しやがる。ゆらゆらとゆれるそいつらは、俺を魔術陣の中へといざなう。その先はどこか? いうまでもなくこの世ではないどこかだ。
「まて、まてまてまて! 分かった。俺が悪かった! 謝ってやる! もう国の女どもに手を出さねぇ。ハーレムも解体でいい! お前もまた抱いてやる! だからもうそれは止めろ! お前も、死んじまうぞ!」
「――貴方はそう言って、何度同じことを繰り返しましたか? 何度罪のない女性を襲いましたか。村々からも娘を返して欲しいと嘆願が続いています。確かにあなたは英雄でした。誰もかなわない大魔術師でした。ですが、そのせいで多くの罪が黙認されてきました。でも、もう見逃すことはできない」
俺は気づいたね。もうラナリアは駄目だ。俺のことを見てやがらねぇ。視力が失われているからだ。なのに、うわごとじみた独白を続けやがる。
「私の命が尽きるんです。術を使わなくたって、もう長く無いんですよ。だから最後に貴方も連れていくことにした。やめませんよ? 貴方は私が死んだあと、また同じことを繰り返すでしょ。本当に貴方は、そういう人だから……」
「やめろ、おいラナリア、止めろって言ってるだろうが!!」
「だめ、です」
ラナリアが残り少なくなっただろう、力で杖を握った。
それにより俺の身体により強く光鎖が絡みつく。身体のほとんどは、別次元へのゲートの中に押し込められ、感覚が消失してやがる。最悪だ! もしかしたらもうそっち半分存在してねぇのかも。
「『魂の座』へ還りなさい。アリオス。不滅のあなたでも、そこでは何もできない。願わくば、始まりの場所からまた一から出直して――」
「はぁああああ!!!??? まじで死ぬのか? 俺が?? はぁああああ!!???」
「ね、アリオス、もう十分に楽しんだでしょう? そろそろ終わりにしましょう。私が、一緒に、死んであげるから……」
「クソ、クソクソクソ! ふざけるな! 俺はなぁ、永遠に生きて、永遠に喰って、永遠に女ぁ抱いて、永遠に面白おかしく暮らすために強くなったんだぞ!! それを、こんな。こんなぁぁあああ!!」
「永遠なんて……、もうどうでもいいじゃない……、ね、アリオ、ス」
「お、お前が決めてんじゃねぇぇぇぇっぇえ!! クソ聖女、老いぼれ聖女、ふざけんな、死にかけで色気だしてんじゃねぇぇえっぇええ。気色悪いわぁぁぁぁあぁぁぁぁああああああああ―――――――!!」
駄目だ。消える。俺が消える。
俺の存在がすべて、高位次元に飲み込まれる。
そしたらこの世界とのリンクを切られて、不変不滅も消失する。
そのあと訪れるのは、確実な死だ。
見るとババア聖女は虫の息だった。「アリオス、私の愛しい人……」とかとぎれとぎれに呟いてやがるが、ババアになったお前に言われても何にも嬉しくないわボケ!! しおらしくなるなら、ピチピチだった時代になっとけやクソがぁぁ!!
ああ、もうだめだ。意識が、身体が、存在が拡散する。
これが、これが死ってやつか?
ふざけんな俺はなぁ、絶対何があっても、生き残り続けてやるって決めてんだよォぉおお!!!
そう叫びたかったが、次の瞬間、俺の意識は断ち切られたのだった。
◆
――と思ったが、人間最後まで抗ってみるもんだな。
俺が落とされたのは
らしい、ってのは伝聞だからだ。この空間は世界中のありとあらゆる知識と真理も集まる場所らしく、
あらゆる世界で生まれ滅んだすべての魂はここに集まり、漂白され、またそれぞれの地に散っていく。そういう機能を持った場所。
ラナリアが言う『魂の座』
だが、ここにはマジで何にもない。魂の座ってくらいだから、魂っぽいのが漂ってるのは分かるが、基本交流は出来ないみたいだ。
知識はあるっていっても、本当にただの知識って感じで、それを何か応用することもできねぇ。そもそも俺の身体も無いしな。どうやら意識体だけにされたらしい。
だが希望は失っちゃいない。
完全に死んだと思ってたのに、流石俺だよな。〈不変不滅〉が無くても、意思の力ってやつで、自我を保っていられるんだからよ。
「くははは、良いぜ。ここで力ァつけてよ、ぜったい現世に舞い戻ってやるからな。その時は、覚悟しろよ。俺様が、世界中を支配してやるからなぁあああああ!!」
こうして、不変不滅。最強最悪、スペシャル無敵に男前な俺様の笑い声は魂の座を中心に、どこまでも響き渡ったって訳だ。ざまぁ見ろ老いぼれ聖女! 俺は結局死ななかったぞ、ざまぁぁぁあああ!!!
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