第8話 憑依コピペ

(おお……すげぇ。めちゃくちゃ栄えてるじゃないか、王都)


 そしてオレは王都に来ていた。


 ラリスに聞いたところによると、医療を始めとする様々な情報が集まっているのは、やはり王都だという話だったからだ。だからオレは王都に数日滞在して情報収集をしたあと、再びラリスの街に戻るつもりでいた。


 その王都は、東京並みに都市が広がっている──とはさすがに言えないが、例えば東京一区くらいの人口は住んでいるのかもしれない。数十万人規模といったところだろうか。まぁ街並みからでは正確な人口は分からないけれども。


 そんな王都の一角にオレは降り立った。そこは噴水広場になっていて、中心の噴水を囲むようにして露店が建ち並び、その向こうを人々と馬車が行き交っている。


 もちろん、誰一人としてオレに気づいた様子はない。


 ふむ……やはり、ラリスのようにオレの姿が見える人間はいないらしい。世界中探してもゼロだとは言えないが、あまり期待しないようが良さそうだ。っていうか下手に見えたら攻撃されかねないし。


 ラリスの魔法知識によると、幽霊を退治するような魔法は存在していないので、見つかっても即攻撃とはならないとは思うが。


 それと悪魔祓いみたいな行為はあるが、それは魔法ではなく単なる儀式なのだ。日本で言えば神社のお祓いみたいな感じで、本当に悪魔を祓えているのかは誰も分かっていない。


 悪魔祓いを検証するなら、幽霊となったオレ自身で受けるしかないが、万が一にでも祓われたらたまらないから、そういう職種の人間に近づくのは避けた方がいいだろうな。


 となるとこの異世界では、宗教施設には近寄らないほうが良さそうだ。


(そうしたら……まずは病院に行って、医者の頭の中でも覗いてみるか)


 オレはひとっ飛びで王都の病院に到着する。そして医師のプライバシーを覗き見──もとい憑依していくうちに、様々なことが分かってきた。


 何よりもオレの能力について。


 そもそも、アーシャとラリスの二人に憑依して気づいたのだが、憑依が終わった後も二人の知識は残っていたのだ。


 しかも、憑依中に想起した記憶だけが残るんじゃなくて、アーシャやラリスが思い出せることは、憑依解除したあともすべて思い出せた。まぁ逆を言えば、憑依相手が綺麗さっぱり忘れていることは思い出せないわけだが。


 だから今からやろうとしているのは、医師に憑依しまくって、その医療知識を根こそぎ頂こうということだった。


 しかもたった一瞬で、かつ大勢の医師から。


 つまり憑依して記憶を覗けるということは、とんでもない能力なのだ。もはやこれは脳のコピペと言ってもいい。


 だからオレは、この能力を『憑依コピペ』と呼ぶことにした。


 そして実際にやってみると、オレはさらなる凄さに気づいた。何しろ脳内をそのままコピペするということは、知識のほかに、経験やセンス、さらにはその人独自の勘などもコピペ出来てしまう、ということなのだから。


 これはもはや、才能をコピペしているに等しい。


 調子に乗ったオレは、医師だけに留まらず、看護師や回復魔道士の才能も次々とコピペしていく。するとそれら膨大な才能は、オレの中で有機的に結びつき、新たなアイディアが次々と生まれてくるようになった。しかもオレの記憶容量に上限はないらしい。


 『アイディアとは、既存知識の新たな結びつき』だと生前に学んだことがあるが、まさにそれなのだろう。既存知識が山ほど増えたから、斬新なアイディアをどんどこ生み出せるようになったに違いない。


 いずれにしても……ここでオレの中に疑問が浮かぶ。


 それは「幽霊になったとたん、なんでこんなことが出来るのだろう?」という疑問だった。


 幽霊って、みんな天才なんだろうか?

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