第9話 幽霊になったことで、チート能力が拡張された
たくさんの病院で、大勢の医療従事者に憑依しながら、「幽霊ってみんな天才なのか?」を考えていたら、ふと思い出した。
自分が得られるはずだったチート能力を。
考えてみるに、この物覚えの良さは、幽霊の特徴というよりは、オレが得られるはずだったチート能力に起因しているのかもしれない。もちろん確証は得られないが、なんとなくそんな気がする。幽霊になったら天才になる、というのも妙な話だし。
生身のチート人間として転生したならば、どれだけ物覚えがよくても、それはイチ個人が得られる知識と経験に限定されるが、幽霊として憑依能力まで得た今となっては、大勢の人間から知識と経験が得られるわけだ。
幽霊になったことで、チート能力が拡張されたと言えるかもしれない。まぁその代償として、ほとんどの人間に認識されなくなってしまったわけだが……
それともう一つ疑問があって、それは『身体能力についてはどうなるのか?』ということだった。
チート人間ならぬチート霊になったオレは経験もコピペできるから、例えば、兵士の実戦経験なども得られるわけだ。戦ったこともないのに、まさに実戦そのままの貴重な経験が。
しかし幽霊のオレに体はないわけで、身体的な経験をいくら得たところで意味がない……のだが、別の人間に憑依したらどうなるのか?
例えば、屈強な兵士の戦闘経験をコピペして、ただの街娘に憑依したらどうなるのだろう? ということだった。
で、実際にやってみた。
その結果、街娘の体は思うとおりには動かなかった。
そりゃそうか。兵士と街娘では、その筋肉も骨格も、そもそもの性別だって違うのだから。
だからオレは、思い通りに動かない体に歯がゆい思いをするだけだった。手や足を怪我して生活に不便を感じる……かのような歯がゆさといったところだ。
もっとも、街娘に憑依しているとき、兵士の経験を呼び出さなければ、歯がゆい思いはしないわけだが。
ということで身体性に関しては、憑依相手の肉体に依存するらしい。体を動かすための骨格筋肉が物理的に違うのが原因だろう。
逆を言えば、物理的に制限のない知識はいくらでも使えるわけだ。まぁ厳密には、相手の脳に制限されるのかもだが、思考したり思い出したりなんかは幽霊側の脳(があるのか?)がやっているようだからな。
あとは、別に憑依しなくても憑依コピペは可能だということも分かった。オレの霊体が、人間の体に接触さえすれば憑依コピペ出来たのだ。
だから往来の激しい大通りのど真ん中をすぃ〜っと飛んで、人間達の身体を通り抜けていくだけで、知識と経験がどんどん入ってくるのだ。これにより、憑依コピペの効率は格段にアップした。
いちいち憑依&解除するのも面倒になっていたので大変に便利だ。最初のうちは嬉々として憑依していたというのに、あっという間にものぐさになるものだな。あと、これはもはや憑依コピペと呼べないかもしれないが。
さらに、憑依した人間の五感までも乗っ取れるようになった。
例えば、すでに日も暮れてた現在、オレは病院を後にして、街の酒場に繰り出しているわけだが……
その客の一人に、オレは憑依してみた。
「それじゃあ、今日もお疲れ!」
憑依した三十前後の男は、そう言ってからビールを口に運ぶ。すると……
(くうぅぅぅ……! 久しぶりにアルコールが回る感覚だ……!)
憑依相手の五感とオレの五感が共有されたことによって、酒が回る感覚をオレも味わえている!
つまり何が言いたいのかというと、幽霊の身であっても、食事を味わうことも、酒を楽しむことも出来るということなのだ!
強いて欠点を上げるなら、自分で好きな料理や酒を注文できないということなのだが、いろんな客がいるのだから、憑依相手を変えることで、様々な食事を楽しめるしな。しかも無制限に飲み食い出来て、暴飲暴食しても太らないし二日酔いにもならないし、さらにはタダだ。
飲まず食わずでも生きて──はいないが存在していられるけど、味覚がないと退屈なんてもんじゃなかったんだよ、この一ヵ月ちょいは。
アーシャに憑依していた頃は、転生する方法を探すのに必死で、五感共有に気づいていなかったからな。アーシャの中で、息を潜めるかのように存在していただけだったし。
それにあの時点で五感共有を知っていたら……夜の営みのときになぁ……
女性がどう感じているのか、ちょっと興味がなくもないのだが、でもやっぱりオレの性癖はノーマルなので、男とその……そういう行為に及ぶのは……いくら幽霊の身とはいえやっぱり避けたい。
あ、でも……今後、アレな感覚を味わいたくなったら、夫婦やカップルの男に取り憑けば、アレな感覚も味わえるということか!?
だとしたら、美女を伴侶や恋人にしている野郎がいいな!
そしたら食事を十二分に味わった後は……夜の街ならぬ夜の寝室を散策して回るか!
オレは、ミハイルの治療法を探すために王都に来たわけだが、まぁちょっと息抜きするくらい罰は当たらないだろう。
こうしてオレは、幽霊の身でありながら、人間の三大欲求のうち二つを堪能するのだった。
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