第4話 こんなことなら、さっさと成仏したほうがマシなんだが……

(こ、これからいったい……どうすれば……)


 オレは、呆然としながらプカプカと浮いていた。豪邸の周りを。


 ご懐妊したアーシャに取り憑いていても無意味と分かったので、オレは憑依をやめて幽霊に戻っていた。


 そうして豪邸の周りを漂っている。途方に暮れながら。


 今にして思えば、観光なんてしてた初日が懐かしいよ……


 っていうか改めて振り返ってみるに、もしかしたら、初日の行動がまずかったのかもしれない。


 初日──アーシャとルドルフが子作りに励んでいたあのとき、まさにあの瞬間に、オレは子宮にダイブしていなければならなかった、というわけなのだろう……


 つまりチャンスは一度きり。


 そのたった一回のチャンスを逃してしまったオレは、もはや、人間にすらなれないわけで……


(だったら! その旨しっかり手紙に明記しておけよ!? 一体どうなってんだよ女神とやらは!?)


 あんな、かるーい手紙のテキトーな説明で、初転生のオレが分かるわけないだろう!? そもそも転生経験豊富な人間なんているのかよ!?


 チャンスは一度きりだというのなら、その一行を極太の巨大フォントにして、おまけに赤文字で蛍光マーカーも引っ張っとけよ!?


 なんという不親切極まりない手紙だったんだアレは!!


 などと……


 怒りを虚空にぶちまけてみても……


 オレの状況は変わるはずもなく……


 こんなことなら、さっさと成仏したほうがマシなんだが……


(ま、まさか……このまま誰にも気づかれることなく、ひとりぼっちのまま幽霊を続けなくちゃならんのか……?)


 そんな絶望的な未来像を描いてしまい、もはや涙目どころじゃなくて、滝涙をダクダクと流して虚空に浮かんでいた、まさにそのときだった──


「きゃああああ!」


 ──鼓膜に突き刺さるような悲鳴を聞いたのは。


 オレは驚いて思わず振り返る──と。


 そこは二階のテラスがあって──


 ──そのテラスの上で、ステサリー家長女であるラリス・ステサリーが悲鳴を上げていた。

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