第3話 幽霊素人のオレにだってすぐ分かる
オレが幽霊になってから一週間が過ぎていた。
その間、オレは来世の母親になるであろう女性──アーシャ・ステサリーに憑依し続けていたのだが、赤ん坊として転生する兆しは一向になかった。
だから内心かなり焦っていた。女神様からもらった手紙も気づけば消えていたし……無くすはずないから、あの手紙は時間が経つと消えてなくなる仕様だったのかもしれない。
いずれにしてもオレは、転生の手がかりを探し回っていた。
まずは、失礼だとは知りつつもアーシャの記憶から探ることにした。
アーシャに憑依し続けているうちに分かったこととして、憑依すると、アーシャの記憶がオレにもフィードバックされるのだ。
初めて憑依したとき、夫の名前を知っていたのはそういう理屈だった。
さらに、相手の意識を強制的にシャットダウンして、その体を完全に乗っ取ることも可能だし、相手の意識は残しても相手に気づかれず、その体内に潜んでいるだけということも出来た。そして相手意識の有無にかかわらず、記憶は完全にフィードバックされる。
ということでオレは、基本的にはアーシャの体内に身を潜め、彼女の記憶を探りつつ、アーシャが一人で行動しているときは体と意識を完全に乗っ取り、転生に関する情報を探すということをしていた。
とはいえアーシャは貴族のご婦人だったから、自由な外出なんてほとんど出来ず、だからオレも、屋敷内の書籍を漁ることくらいしか出来なかった。
そしてもちろん、イチ貴族の屋敷に、転生に関する情報なんてあるはずがない。
(一週間経ってもなんの手がかりもないなんて……いよいよまずくないか?)
オレは焦りまくりながらも、さらに考える。
転生に関する情報を得られるとしたら……魔法関係だろうか?
この異世界には、やっぱり魔法も存在していて、だから魔法学園とか魔法図書館とかもある。だがアーシャは魔法について素人で、かつ貴族のご婦人ということで、魔法関係施設に出入りすることもなかった。
アーシャには子供が二人いて、その長女は魔法学園の生徒なのだが、憑依相手を、アーシャから長女に変更するわけにもいかない。
なぜなら憑依し続けていれば、オレはいずれ赤ん坊として転生出来る可能性もゼロではないからだ。
つまり、ただの時間差でまだ転生していないだけ、という可能性が残っているわけだが──
──そんな希望的観測は、見事に打ち砕かれることになった。
* * *
オレがこの異世界にやってきてから一ヵ月ほど経つと、アーシャが体調に異変を感じ始め、医者に見てもらったところ……なんとおめでただった。
そうしてオレは、幽霊のまま。
もはや生命が宿っているというのに、オレが幽霊のままだということは……幽霊素人のオレにだってすぐ分かる。
つまりオレは転生に失敗した、ということだった。
えーっと……ってことはオレ、この先どうすりゃいいんだ?
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