第25話 薬を作ろう!

 翌日、私は師匠の研究室にいた。


 ちなみに、師匠はまた外出している。

 なんでも、昨日結界を抜けた反応を感じて私の魔力を追いかけたら、私が魔物に襲われていたらしい。

 そういうわけで、師匠は本来の目的を達成できず、こうしてまた出かけて行ったというわけだ。


「絶対に結界から出るな」


 という言葉を残して。


「ふっふっふっ、出るわけないじゃない」


 だって薬の調合をするんだもん。

 自分が飲まされる薬を作ってるなんて知らないで、師匠はなんて呑気なんだろう。


「ふっふっふっ、はっはっはっ!」


 笑いが止まらない。

 だって仕方ないだろう。この薬を作ることが出来れば師匠は私にメロメロになるんだから。


「——っといけない、集中しないと」


 笑うのを止めると、私はテーブルに並べた材料を見下ろす。

 これで材料が間違っていたなんてことがあったら昨日の苦労は水の泡だからだ。


「よし、よし……これもよし!」


 一通り見たけど、本に書かれた通りのもので大丈夫みたい。

 それなら、後は本に書かれた手順通りに作っていくだけだ。


「まずは汲んできた水に魔力を込めてから火にかける」


 師匠の研究室には魔道具がいっぱいあるから便利だよね。

 山から見つけてきた火をかけられる魔道具に鍋を置いて、点火。とりあえずは沸騰するまで放置だ。


「沸騰してきたらこれとこれを……あっ、これは刻んで入れないといけないのか……」


 あぶないあぶない……間違えるところだった。

 あと一歩のところで入れそうになった材料を細かく刻むと、鍋に投入。

 すると、鍋の水の色がやたらと鮮やかな赤い色に変わった。


「うわぁ……怖い色……」


 真っ赤な血のような色に若干引きつつも、手順通りなので我慢。匂いは悪くないしね。

 でも、こうしてみると危ない薬を作ってる魔女みたいで嫌な感じというか……気まずいというか……。


「いや、まさに危ない薬を作っているわけだけど……なんか変な感じがしちゃうよね」


 ……この薬を開発した人は、どんな気持ちで作ってたんだろう?


 そんなことを考えて苦笑しつつも、作業をする手は止まらない。

 真っ赤になった薬液が焦げ付かないようにかき混ぜ、タイミングを見て材料を入れていく。

 すると、どんどん鍋の薬液がドロリとしてきて、かき混ぜる手に力が必要になってきた。


「あれ? これ……どうやって飲ませるの?」


 なんか、もう飲みこめないくらいドロッドロなんだけど……。

 飲み物には混ざりそうにもないし、そのまま飲めそうにもない。

 とはいえ、このまま止めるわけにもいかないので、私は作業を続けることにする。


「最後にこの花を……大丈夫だよね?」


 最後に入れるのは私が命をかけて取りにいった花。

 刻まずに花弁の部分を薬液に付けて、色が変わったら取り出すらしい。


 私は不安になりながらも本通りにする。

 すると——


「ほわぁ……」


 真っ赤だった薬液が鮮やかな紫色に変わり、私は感嘆の声を上げてしまった。


「それに、ドロドロも無くなってる……!」


 紫色の薬液はサラサラと水のように変わり、真っ赤だったときは花のような香りがしていたのに今は全く匂いがしなくなっていた。


「うーん……」


 私は出来上がった薬をすくい上げると、その効果を確認するために注視する。

 この目で視た感じでは本の通りに出来上がったみたい。


「……うん、問題なし!」


 こうして、私は目標である惚れ薬を手に入れた。



 


 

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