第24話 やっぱり好きなんだなぁ……
「師匠……」
「もう大丈夫だ」
私の呼びかけに、師匠は少しだけ笑みが混じった表情で返してくれた。
でも、その表情をすぐに険しいものに変えて、師匠は飛び掛かる魔物を見据える。それだけで、飛び掛かってきていた魔物は空中に縫い止められたように停止した。
「俺の弟子が世話になったようだな……たっぷりと礼をしてやる。釣りは要らないから持っていけ」
「へ……?」
その直後、師匠が無造作に手を横に振ると、周りにいた魔物たちが一斉に爆散して黒い靄へと変わった。
……なにをしたの?
師匠が何をしたのか、私には分からなかった。
いままで全ての魔法はこの目で視て理解できたのに、今師匠がおこなった魔法……と言っていいのか分からないけど、とにかく理解できなかった。
なんとなく理解できたのは、私に襲い掛かっていた魔物が全部師匠によって排除されたという事実で、私が助かったっていう事だけで。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
「……どうした?」
「腰が抜けました」
座り込んだ私が見上げれば、師匠は呆れ顔を浮かべていた。
いや、そりゃあ私が勝手に結界から出たんだし仕方ないかもしれないけど……。
命の危機だったんだし、もう少し優しくしてくれてもいいんじゃない?
ちょっと不満に思って上目遣いで睨みつけると、師匠は露骨にため息をついて。
「はぁ……仕方がない」
「え? ちょ!?」
ふわりとした感覚。
師匠が使った浮遊の魔法で私の体が浮き上がると、そのまま師匠の腕の中にすっぽりと納まった。
「いや、優しくしてほしいなぁ……とは思ったですけど!? っち、ちょっとこれは恥ずかしいというか……」
「静かにしろ」
「はい……」
うう、逆らえない……というか、逆らいたくないというか……。
不思議な感情に私はバタバタするのを止めてしまって、師匠を見上げるだけの置物になってしまう。
恥ずかしい……けど、少し……嬉しい。
顔が真っ赤になってるのは自覚してるし、師匠もそれを分かっていそうだけど、師匠は私を降ろす気はなさそうだしね。
だって、師匠なら私を浮かしたまま連れていくのなんて簡単なはずだし、ということは師匠だってこうしたいと思ってるってことだよね?
「ふふふ」
「どうした?」
「何でもないです♪」
「……そうか」
師匠は少し変なものを見たような顔をしたけど、関係ない。
そんな師匠もカッコいいし、今私は幸せなのだ。
幸せに浸っていると、ふと思い出す。
そういえば、師匠が私を浮かしたのは魔法だったよね?
ちゃんと理解できたし、ということは私の目がおかしくなったわけじゃなさそう。
なら、師匠が使ったのは何だったんだろう?
師匠はそれを教えてくれはしなそうだし、いずれ自分で見つけろってことなのかな?
まあ、このまま師匠と訓練を続けて、一時は師匠の言いつけ通り学校に通うことになるんだろうけど、その後はまた一緒にいられるよね?
そう思うことにして、今は——
やっぱり好きなんだなぁ……。
私は今ある幸せを満喫することにした。
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