第22話 帰るために ②
森の中に入った私が最初にしたことは、見える範囲で一番魔物が多い場所に魔法を撃つことだった。
森が燃えてしまうから火の魔法は使えない。
代わりに、強風を起こす魔法と小さな石片を生み出す魔法を混ぜ合わせて放つ。
オオカミ型の魔物は体重が軽いため、強風を受ければ上手く身動きが取れない。
だから、大量の石をバラまけば、大なり小なり手傷を追わせられると思ったんだけど——
「うそ……!?」
結果を言ってしまえば、私の魔法は効果が無かった。
私が魔法を放ったことを皮切りに、魔物たち私に向かって駆けだした。
そんな相手を撃墜するための魔法だったけれど、魔物たちは姿勢を低くすることで強風の影響を最低限して私に向かって走ってくる。
強風で浮いた敵にぶつけるための石片だったから、これも効果なし。
私は魔物を迎え撃つべくナイフを構えた。
「やぁ!」
飛び掛かってくる魔物にナイフを一閃。
師匠に武術を習ったおかげで放つことが出来た鋭い銀閃は魔物の口元を深く切り裂いて、傷口から血の代わりに黒い
傷をつけた!
これなら勝てるかも……!
そんな感情が胸の奥から溢れそうになるけれど、私はその感情を抑え込んでナイフを構え直す。
魔物は一匹だけじゃなくてたくさんいるからだ。
すると思っていた通り、すぐに次の魔物が私に飛び掛かってきた。
「ふっ!」
姿勢をかがめて魔物を躱し、すれ違いざまに足を切りつける。
これで二匹目……それも、足を切りつけたからすぐには動けないはず。
「大丈夫……戦えてる」
魔法は不発に終わったけど、傷を負うことなく魔物に傷をつけることが出来た。
まだ安心するには早いのは分かってるけど、勝てる
その証拠に、魔物たちはまた警戒するように唸り声を上げながら私を見ていた。
すぐに飛び掛かってこないのは、私が危険だって判断したからだろう。
でもそれは、私にとっても好都合だ。
「……私だって戦いたくないもんね」
私は戦いに来てるわけじゃない。
あくまでも戦うのは最終手段。私の目標は採取した花を持ち帰って師匠をメロメロにすることなのだ。
警戒する魔物を、私も警戒しながら帰り道へと足を進めていく。
じりじり……じりじりと。
少しずつ……少しずつ……。
正直、じれったい。
でも、無事に帰るためには出来るだけ危険を冒さないようにしないといけない。
この付近がこの魔物の縄張りだったなら、私が離れることで見逃してくれるかもしれない。
そうすれば、私は無事に師匠のもとへ帰れるはず。
一歩進めば、魔物も同じだけ私との距離を縮める。
襲い掛かろうとする魔物をナイフで牽制して、また一歩進む。
繰り返して、繰り返して……また繰り返して、またまた繰り返して。
ゆっくり、ゆっくりと家へと近づく中、それは起こった。
——パキ……!
私の踏み出した足が、木の枝を踏んで音を鳴らした。
そして、それが合図になったらしい。
グルァァァっ!!!
一斉に数匹の魔物が私に向かって駆けだす。
私はそれを迎え撃つべく、ナイフを構えて魔法の準備を始めた。
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