第18話 結界の外で ①

「ふぅ……」


 結界の外に出てから少し経ち、私はいまだに森の中を歩いていた。


 帝国最恐の危険地帯と言われていて、師匠の結界の囲われているおかげで帝国は平和だと言われている森。

 この場所自体が森だから森の中を歩いているのは当たり前なんだけど、こうも同じ景色が続いているとおかしくなりそう。


 空気は澄んでいてここが危ない場所だって思えないけど、足元は悪いし、森だから薄暗い。


「まあ、まったく見えないわけじゃないけど……暗くなったら本当に危なそう」


 もしかして、この森が危ないって言われている理由の一つなのかな?


「いやいや、他の森も薄暗いのは同じだし……ないよね」


 結界の外に出てそれなりの時間歩いているけれど、まだ魔物に出会っていない。だからそう考えてしまうだけで、ここはあの怪物がいた森……危なくないわけがない。

 私は一人で首を横に振ると、師匠から聞いた方角を頼りに目的地へと急ぐ。


「……でも、本当にこの森って広いよね。師匠の家が孤児院に近くて良かった」


 師匠の家はこの森の南西に位置しているらしくて、帝国最南の街にある私が暮らしていた孤児院とはそんなに遠くない。

 勉強をしている時に見せてもらった地図から考えると、孤児院まで半日くらいかな?


 孤児院は私が結界を抜けてしまった場所からそんなに離れていないので、あの花が生えていた場所まで行くのにも同じくらいかかる計算だ。

 いちおう朝早く出たので、日が真上に向く前に花を採取して、残りの時間を使って師匠の家に帰るというのが私の計画なのである。


「ふぅ……喉渇いた」


 太陽は木の葉で隠れているけど、それでも悪路を歩いているから喉が渇いてくる。

 私は腰のポーチに手を伸ばすと、中から小さな水筒を取り出して口を付ける。


「はぁ、美味しい……でも、本当に見つかってよかった。これが無かったら厳しかったかも」


 そう言って、私は口から離した水筒を見下ろす。


 何を隠そう、これも魔道具なのだ。

 師匠作、無限に水が出てくる水筒である。


 まあ、魔石の魔力が無くなったら出てこなくなるので厳密に言えば無限ではないんだけど、この水筒に取り付けられている魔石を見る限り私が使う分には数日は軽く持つから大丈夫。


 正直、これを見つけたのは偶然だった。

 でも、この森を歩き続けるためには必要だったと今は思ってる。


「飲みすぎると魔力中毒になるかもしれないけど、私は魔力の耐性がすごいから関係なし。本当に便利すぎる」


 のどを潤してから、水筒をしまう。

 そして、再び歩き出した——その時だった。


「っ!?」


 ガサリと草木がこすれる音。

 その音に私は警戒心を最大にし、身をかがめる。


 出来るだけ体を縮こませて、木の影へ。

 そうして木に背中を預けたところで、ガサガサとなっている音は私のすぐそばまでやってきた。




 

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