第17話 結界の外へ

「うみゅ……」


 翌朝、私は研究室で目を覚ました。


「うう……眠いぃぃ……」


 結局、最後まで作業を終えた時には夜も深い時間になってしまっていた。

 さすがに二本も作るのは無理があったみたい。それに、ナイフよりも短剣の方が作るのが難しかった。


 どうにか作り終えた時には疲れ切っていて、魔力がすっからかんになった影響か、頭は痛いし眩暈はするしで大変だった。

 正直、まだ寝ていたいとは思うけれど、師匠が出掛けて二日目……余裕はないので私は眠い目をこすりながら体を起こす。


「ううん……お水浴びよ……」


 作業を終えた後、疲れ切ってすぐに眠ってしまったから髪がパサついて気持ち悪い。

 私は研究室を出ると、水を汲むために井戸へと向かう。


 外へ出ると、一直線に井戸の元へ。

 そうして井戸の中を覗き込めば、ものすごくボッサボサになった髪が水面に映っていた。


「クスッ……凄い寝ぐせ」


 あまりにもボサボサだから、思わず笑ってしまった。


 脇に置かれている縄のついた桶を降ろして水をすくうと、重くなった桶を必死に持ち上げる。

 ……そういえば、なんでこの井戸には魔道具を使っていないんだろう?

 桶の大きさはそこまで大きくはないけど、いっぱいに水が入れば凄い重い。それなら、それを補助する魔道具を作れば楽になると思うんだけど……師匠ならできると思うし。


 少し余計な事を考えながらも、私はどうにか水を持ち上げることが出来た。

 そうしたら、周囲を確認……師匠は…………いないよね?


 キョロキョロを辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、私は桶を持ち上げて頭から水をかぶる。


「ふぅ……気持ちいい!」


 こうして水をかぶるなんて久しぶりだ。


 孤児院の時には弟たちと水浴びすることも多かったからよくこうしていた。

 ここにきて師匠に止めろって怒られたから我慢してたけど、こうした方が気分がスッキリするし、師匠はいないから大丈夫。


 それから私は何回か井戸から水を汲んで、頭からかぶるのを繰り返した。

 そうして寝起きで働いていなかった頭をスッキリさせると、今日の目的のために準備を始める。

 そして——


「眠気も覚めたし、ナイフも持った。こっちも大丈夫だし……よし!」


 ナイフと短剣は昨日のうちに見つけておいたベルトに取り付けて、抜きやすいように腰に。

 服も動きやすいものに変えたし、靴もどうにか私のサイズにあったものを見つけ出した。

 どれもこれも師匠が作った物みたいだし、頑丈だと思う。


 私は装備の確認を一通り終えると、結界へと向けて歩き出す。

 広がっているのは鬱蒼とした森。私を食べようとした魔物が棲んでいる危険地帯。


「すぅ……はぁ……」


 結界の目の前で足を止め、呼吸を整える。


 できるだけの準備はしたし、やれることはやった。

 だから大丈夫……結界の外に出て、あの花を摘んでくるだけ。


 覚悟を決めて、一歩目を踏み出す。

 私の目だけが捉えられる結界の境目を足が越える。

 何とも言えない感触を足先から感じ、やがて体全体に感じると、私は体は結界の外に出た。


「よし! いこう!」

 

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