第15話 武器を作ろう ②
研究室に戻った私はさっそく武器づくりを開始した。
「ナイフの方は軽量化と風の付与……硬質化は余裕があったらかな」
魔道具作りに必須の技能である付与は、魔法でありながら魔法とは違う性質を持つ。
一言に付与と言っても二種類あって、魔法を物質に付与する場合と、魔物の性質——魔物の死骸から性質を抜き取り、魔石に定着させる付与がある。魔道具作りよく使うのは後者だ。
そして、魔道具作りにも二種類あって、あらかじめ魔力回路を組み込んだ物を作る場合と、外部から魔力回路を物理的に彫ったり、魔力回路を魔法的に彫り上げる場合がある。
今回行うのは……これも後者。
「うん、師匠が作ったものだからしっかりしてる」
私は師匠の作ったナイフの魔力を視て頷いた。
人が作った物には、作った人の魔力が宿る。
それは、とても微弱なものだけど、その微弱な魔力が魔石から流れていく魔力を阻害してしまう。
また、どれだけの魔力が宿るかは作り手しだいで、技術のある人ほど物体に宿る魔力はしっかりとしたものになる。
魔力がしっかりしていればいるほど魔力回路もしっかりと強固なものになって、魔石に宿った力を十全に発揮してくれるのだ。
「よし! はじめよう!」
ナイフを手に持ったまま目を閉じて、集中する。
自分の中の魔力に意識を集中させ、自在に操れるように意識していく。
そして、私は目を開いて魔力をナイフに送り始めた。
一言に送るといっても、ただ単純に送っているわけじゃない。
ナイフに掘られた魔石をはめるための穴。そこからナイフ全体に魔力が通っていけるように、ナイフに宿った師匠の魔力に私の魔力で穴をあけていく。
イメージとしては、師匠の魔力という地面を私の魔力で掘っていく感じ。
宿っていく魔力が微弱なため、掘るのには苦労しない。
けれど、魔力回路どうしが近かったり、交差してしまうと魔導不順が起きて能力が落ちてしまったり、最悪発動しなくなってしまう。
回路どうしが繋がってしまった場合は最悪だ。そこで魔力が溜まって滞ってしまい、最悪のケースは物自体が破損するかもしれない。
彫り上げる魔力回路は出来るだけ真っ直ぐに、それでいて不順を起こさないように細心の注意を払って。
「……ほんとうにこの目には助けられてるよね」
魔法の術式の視える私の目は、魔力回路を彫っている様子も視えている。
他の人ではこうはいかないらしい。
魔力というものは基本的に目には見えない。例外として大量かつ高密度の魔力は見えるらしいけど、そんなものは人生で見る人の方が少ない。
魔力回路を彫るという事は、明かりも無しに地面にトンネルを掘るということなのだ。
だから、魔道具作りを仕事としている人の大半は魔力回路を組み込んだものを作るし、後から彫る場合は表面に物理的に彫る。
ただ、これにも欠点があって、物の耐久力が落ちてしまう。
だから先に組み込んだ物を作るのだ。
なのに、私の目はそれを視えてしまう。
自分の目で彫り進めていく自身の魔力を目で追って、その都度調整していく。
私だけが持つ魔道具師としてのアドバンテージであり、私自身の才能の結晶。
たった一つの目標のために、私はその才能のすべてを一本のナイフに込めていく。
そして——
「できた……」
集中しきったせいで顎から汗を垂らして。
私はナイフに魔力回路を刻み込んだ。
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