第12話 意外と早く来たチャンス
チャンスは意外と早くやってきた。
私が最後の材料について知った日から一週間後、同じように出掛けて行った師匠が言ったのだ。
「……一週間後、数日家を空ける。その間は教えてやれないがサボるなよ」
チャンスである。それはもう、最高の。
この一週間の間に私の魔法の技術はメキメキと伸びているし、もともと素質があったのか武術の方も上手くなってきている。
まあ、師匠と比べたら全然なんだけど。
「チャンスは一度ッきり……これを逃したらもうチャンスは無いかも」
定期的に師匠は出掛けていくけど、一日だけだと素材の採取だけで終わってしまう。
すでに暇を見つけては作成方法を何度も読んで頭に叩き込んでいるので、薬の作成は一日あれば大丈夫だと思うけど……。
「できたら三日は欲しいかなぁ……」
なにしろ、何もかもが初めての試みだ。
失敗もあるだろうし、思うように作業が進まない可能性もある。なので、予備の日としてあともう一日欲しい。
「師匠が数日って言ってたから一日ってことは無いと思うけど……どうだろう? 採取して、作ってるときに帰ってきちゃうかな?」
そうしたら最悪だ。
添い寝とかは許してくれる優しい師匠だけど、普段は凄い警戒心が強い。
書き物をしている師匠の背後に息を殺して近づいてみたことがあったけれど、すぐに気が付いて「ふざける余裕があるなら訓練を増やすか?」って訓練メニューを二倍にされてしまったのは悪い思い出だ。
「そのおかげで実力も凄い伸びたけどね」
あの鬼のような訓練を思い出して苦笑してしまう。
「あとは結界に出てからだよね? 今の私の実力で大丈夫かな……?」
師匠の弟子になってから、私は今まで結界の外に出たことがない。
訓練や勉強で外に気を向ける余裕なんて無かったし、魔物に追われた経験がトラウマになっていて外に出たいなんて思わなかったからだ。
「あの魔物と出会ったら勝てるかな……?」
師匠に習った動きで拳を突き出してみる。
魔力を使って強化した拳は空気を切り裂くような音を立てた。けれど、あの魔物を倒せるイメージがどうしても浮かんでこない。
「魔法は
魔法は
つまり、今の私ではあの魔物は倒せないという事だ。
そして、何十匹もの大群に群がられて食べられてしまう私の姿だった。
そんな光景を、私は頭を振ってかき消す。
「ううん、弱気になっちゃダメだよね。まだ一週間あるんだもん……まだまだ実力が伸びてるって実感もあるし、訓練もどんどん厳しくなってきてるし、きっと大丈夫」
構えを取って、拳を突き出す。
構えを取って、足を蹴り出す。
「よし、がんばろう!」
私は色々と考えるのを止めて、今は訓練に集中することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます