第6話 まずは理論の勉強……そして見つける!

「まさか、俺の弟子になる人間が攻撃魔法の一つも使えないとは……」


「なんかすいません」


 目の前を歩く師匠の呟きに、私は謝ることしか出来なかった。


 でも、ちょっと理不尽じゃない?

 弟子にする提案をしたのは師匠なのに……まあ、受けたのは私だけどさぁ。

 唇を尖らせて、私は呟いた後黙ってしまった師匠の後を付いていく。


 今、私が歩いているのは師匠の小屋の地下だ。

 どうやらあの小屋は見かけだけらしく、研究のための部屋や資料、魔法の本を収めた部屋は地下に作られているらしい。


 地下のくせにやけに明るい廊下で、壁にはびっしりと魔力が張り巡らされていた。

 視た感じ、空気中の魔力を取り込んで強度を増す術式のようで、廊下の強度を増したうえで張り巡らされた魔力が発光、明るさを確保しているようだ。


「ここだ」


 廊下を進んだ一番奥、両開きの扉を師匠が開く。

 中に入ると、視界いっぱいの本棚が私を迎え入れた。


「わぁ……」


「まずは理論を叩き入れろ。最低限の知識も無い人間に教える気も起きないからな」


 そう言うと、師匠はすぐに部屋を出ようとする。


「ちょっと待ってください。私魔法の知識はからっきしですよ? 魔道具関係の知識はありますけど……」


 攻撃魔法を使えないどころじゃない。その知識すらないのだ。

 少しくらい教えてくれと師匠を見る。しかし、師匠は「ふっ」と笑みをこぼすと、肩越しに私を見て。


「お前なら大丈夫だ。やる気さえあれば心配いらない」


「そんなわけ——」


「迎えには来るから、それまでは知識を叩きこめ。扉は開かないようにしておく」


「嘘でしょ!?」


 全力で扉へ。

 しかし、私がたどり着く前に扉は閉まってしまい、開こうとしてもビクともしなかった。


「ほんとに開かない……」


 本当に一人でやらせる気らしい。


「…………まあ、これだけあるんだから魔道具の本もあるよね」


 少しの間抵抗してみたけど、扉は全く開かなかった。

 自分の気持ちを昂らせるために理由を付けて(諦めたわけともいえる)、私はひとまず本を物色することにした。


「いろいろあるけど……分かるわけないわよねぇ……」


 あきらかに上級者向けに見える本や、そもそも何も書いていない本。

 師匠の言っていた通り、私には読める。でも、使えるわけではないし、完全に理解できるわけでもないのだ。


「どうしよっかなぁ」


 こう歩いてばかりいても時間の無駄だし、まずは一冊読んでみる?

 私は適当に一冊の本を取り出すと、部屋に設けられていた椅子に腰掛けた。


 まずは真ん中を開いてみて。


「錬金術の本みたい……賢者の石? 石を金に変える? ふーん……」


 物体の性質変化——それを極めた先のものらしいけど、あまり興味が持てない…次はここかな?


「人工的の人間の製造……これ、ダメなやつだ」


 読まない方がいい感じのハズレだった……次!


「……惚れ薬?」


 錬金術で生成した薬に魔法的な付与を重ねた劇薬。

 一滴飲めば貴方のことを意識し始め、一口飲めば貴方の虜。


「これだ!」


 神父様は言っていた……世界は弱肉強食。食うか食われるかだと。そのためには手段を選んではいけないと。

 これはつまり、この惚れ薬を使って師匠を振り向かせればいいってことだよね?


 うん、そうだよ。きっとそう。


「なんかやる気出てきた……!」


 前提の知識がないからこれだけじゃ全部理解できないけど、全部読み切れば大丈夫だよきっと。

 猛烈にやる気の出てきた私は持っていた本の最初のページを開くと、黙々と文字を読み始めた。

 

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