第5話 そんな目で見ないでぇ……
「ここでいいか……」
お姫様抱っこのまま連れて行かれたのは外だった。
想像していた通り私の寝かされていた小屋は大きくなくて、人一人が生活する最低限程度の大きさしかない。
周りを見渡せば小屋を中心に結界が張られていて、小さな畑に井戸、薪などが積まれている。
「降ろすぞ」
「ちょっ!?」
師匠は私の言葉なんて聞いてくれず、私の体を支えていた手が離された。
今離されたらお尻から落っこちるんですけど!?
すぐに来るであろう痛みに目を閉じると、感じたのは浮遊感だった。
目を開けば私の体はふわふわと宙を浮いていて、師匠から離れていくように漂っている。
「えーっと……」
「落とすわけがないだろう……さっきも言ったがお前も年頃の女なんだ。傷には気を付けろ」
「あ、はい」
大事なのか大事じゃないのか良く分からない。
言葉遣いは突き放しているようなのに、行動は私を労わってくれているみたいでどうにも調子を崩してしまう。
そんな何とも言えない気持ちのまま少し待っていると、浮いた私の体は角度を変え、ゆっくりと地面に足を着いた。
「……では始めるぞ」
「始めるぞ……じゃなくて、何を始めるんですか?」
何かして欲しいなら説明をしろ——と神父様になら靴を投げていたけど、目の前にいるのは旦……師匠様なので我慢して大人しく聞く。
すると、師匠は少し眉を寄せ、不機嫌そうに口を開いた。
「分からないのか?」
「分かるわけないじゃないですか」
「はぁ……」
なんでため息をつくのよ……。
そりゃあ師匠みたいに大人じゃないし、魔道具師としてもまだまだだけど……というか、これで分かる人はいないでしょうが!
若干イラっとして師匠を睨みつければ、師匠は右手を腰に置いて。
「今から始めるのは魔法の訓練だ。まずはどの程度魔法が使えるのか確認する……私に向かって撃ってみろ」
「……それだけですか?」
「ああ、自分のできる最高威力のものでいい……じゃなくては意味がないからな。タイミングは任せるから好きに撃ってみろ」
そう言って、師匠は笑みを浮かべたまま私を見てくる。
たぶん、絶対の自信があるんだろう。たしかに私は師匠からしてみれば子供かもしれないけど……師匠もそんなに変わらなくない?
綺麗だし、顔にしわ一つ、シミ一つないし、カッコイイし、カッコイイし……。
そういえばアルフレッドって帝国最初の皇帝の名前と同じなんだけど、もしかして帝国に所縁のある人なのかな?
だから帝国の人ってアルフレッドって名前を付けないって聞くし……付けるとしたら皇帝の血筋の人くらいしか考えられない。
この森の管理をしているくらいだから、皇位の継承権は低そうだけど。
「なぜ撃たない?」
あ、考え事に集中して忘れてた。
そうだよね、言わないといけないよね……真実って残酷。
不機嫌さが増した師匠に見られながら、私は観念して告げる。
「私、攻撃魔法を使えないです」
「なら最初に言え……」
今日一番のため息が響いた。
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