第4話 あれ? 意外と優しい?

「これほど元気があるなら、もう始めてもよさそうだな……」


「へ?」


 アルフレッドさん……いや、もう旦那さ――師匠か。

 師匠の雰囲気が一転し、鋭い眼差しが私に突き刺さった。


「ち、ちょっとまってください……私はまだ病み上がり……」


「人のことを旦那扱い出来るなら大丈夫だろう?」


「ちょぉ――!?」


 頬の横を何が通り過ぎた。

 ギリギリと後ろに視線を移す。すると、氷の結晶がキラキラと舞っていて。


「この家は結界が張られているから簡単には傷つかない。だから安心しろ」


「そういう問題じゃ――てぇぇぇっ!?」


「ほら、早く防がないと痛い思いをするぞ?」


「痛いじゃ済まないでしょ!!!」


 次々と私へ殺到する氷の破片。

 師匠は防げなんて言うけれど、師匠の創り出してある氷の術式は視えても、私にそれを防ぐ技術がない。

 つまり、私は自分の体でもって師匠の攻撃を躱すしかないのだ。


「よっ! ほっ! はっ!」


「なぜ防がないんだ? お前には視えているだろう?」


「視えていてもほっ! 防げるわけじゃはっ! ないんですよひっ!」


「ふむ……」


 師匠は顎に手を置いて何かを考え始める。


 いや、考えてる時くらい大人しくしてほしいんですけど……。

 私に殺到する魔法は一向に減らないし、それどころか数が増えてきている気がする。


「もう無理ですってぇ! 止めてぇ! 傷物にされるぅ!!!」


「誤解を招く言い方をするな」


「事実ですよね!?」


「お前……まだ余裕があるな?」


 余裕なんてあるわけない。

 かろうじて躱せている理由は、孤児院でよく動き回っていたことと、私の目にある。

 というのも、私の目は神父様が言っていた通り特別らしくて、魔法を構築する術式が見えるのだ。

 まあ、魔法が文字の集合体に見える訳ではなくて、見るとその魔法を構築している術式が頭に浮かんでくるのだけれど。


「余裕なんて無いですよ!? やだぁ、初めてはもっと雰囲気がある場所でぇ……!」


「よっぽど余裕があるみたいだな……」


「ごめんなさい今の無しで!」


「もう遅い」


 下半身……主にお尻に魔力反応!

 でも、氷の攻撃を躱すので精一杯で逃げる余裕はない。

 幸い、風を起こす魔法のようなので、大きな怪我はしないだろう。

 覚悟を決める。

 お尻は赤く腫れるかもしれないけど、それ以上にはならな――


「きゃぁぁぁっ?」


 飛んだ。それはキレイに。

 逃げ惑っていたことでクシャクシャになっていたシーツと一緒に。


 私の身長二個分ほどの小屋の中で、私は宙を飛んでいた。


「ぶつかっ――!!」


 天井に向かって一直線に飛ぶ私の体は、天井スレスレで一度止まった。

 空中で浮遊感を味わって。

 しかし、体は重力には逆らえず、飛んだ方向の逆へと落ちていった。


「きゃぁぁぁぁ!」


 勢いよく床へ落ちる。

 体制も悪く、頭から床へ落ちる体の向きを整えることが出来なくて。


 ――落ちる!!


 ぎゅっと目を閉じれば、瞼の裏に孤児院が浮かんでくる。

 全く手のかからない弟と妹たちに、手がかかる神父様。


 うん、神父様は反省してください……。

 って、そんなことを考えている場合じゃなくて!? ――って、あれ? 痛くない?


 いつまでも訪れない痛みに、私は恐る恐る目を開ける。

 すると、目の前に師匠の顔が――


「気を抜いてるからこうなる」


「―――――っ!?」

 

 私はお姫様抱っこされていた。

 近くに来るとよく見える長いまつ毛に、私を見下ろす煌めく瞳。


「ちょ!? ひぇ!? ひぁゃあっ!!!」


「お前も年頃の女なのだからな。傷を負わせるわけがないだろう?」


「あ、ありがとうございましゅ……って、下ろしてぇ〜!」


 じたばたしても下ろしては貰えず、私はそのまま連れていかれてしまった。

 

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