第3話 師弟ってある意味夫婦なのでは?

「何を言っているんだ……?」


 私のプロポーズに、彼は不機嫌な顔をますます不機嫌ものに変えた。


 何を言ってるんだ? って、そんなの言葉の通りなのだけど……彼には上手く伝わらなかったらしい。

 こういうことはちゃんとしないといけないのは分かっているので、私は寝かされていたベッドから足を下ろして、まだ扉にいる彼と向き合った。


「上手く伝わらなかったみたいなので改めて……一目惚れしました結婚してください」


「いや、伝わらなかった訳ではないんだが……」


「でも、何を言ってるんだって言ってたじゃないですか?」


 困り顔の彼に私は首をかしげた。

 私ももう十六歳……それなりの女性だ。元王族だけあって顔立ちも整っている。

 しかし、そんな私の顔面と可愛らしい仕草は、彼には効果がなかったらしい。


「言葉の意味が分からなかった訳じゃない……お前の行動の意味が分からなかっただけだ。出会ってそうそう結婚を申し込む女が何処にいる?」


「ここにいます!」


 神父様だって言っていた――この世は所詮弱肉強食……自分から喰らわないと、他のやつに食べられるって。

 この人がもし結婚していたとしても関係ない。そもそも帝国は一夫多妻を認めているし、そうなったとしても私は一番になる気概はあるのだ。


「……というか、この家には女っ気は無さそうだし」


 完全に一人暮らしって感じだし、大丈夫だよね?

 うん、きっと大丈夫!


 心の中で拳を握っていると、彼が私の元に歩いてきた。

 そして、近くの椅子を引き出すと洗練された動きで腰を下ろす。


(うわぁ……足組んでる。かっこいい……)


「何を考えているかは想像したくないが、今の状況を説明してやる。とりあえず黙って聞け」


 …………


 ……


「――以上だ。分かったか?」


「とりあえずは」


 まとめると、私はここから帰れない。以上!

 ――というのも、目の前に座っているアルフレッドさん(途中で聞いた)によると、この森の結界を管理しているのが彼自身らしい。

 そして、彼を核として結界が機能しているので、彼が出てしまうと結界も解けてしまうそうだ。


「それで、ここから出られる程度には鍛えてくれると……」


「約束を果たしてくれるのならな」


 無表情で告げるアルフレッドさん。

 それはそれでかっこいいのだけれど、なんでそんなことを頼むのかが分からない。


「……約束って、ここを出たら帝国の学校に通うってやつですよね? なんでそんなことを頼むんですか?」


「それはお前が知る必要のないことだ」

 

 手厳しい……。

 でも、これは私にとっても嬉しい話だ。

 この森で生きられるということは、帝国でも屈指の実力者ということ。

 そんな人に教わることが出来るなら、魔道具師としての私の実力も凄い上がるかもしれない。

 それに――


「私を弟子にしてくれるなら、それはもはやと結婚したと言えるんじゃ……!」


「…………」


「だって、弟子っていうことは師匠のお世話をするってことですよ! それってつまり、結婚したってことでしょう!?」


「…………」


「ちょっと!? そんな目で見ないでください……!」


 どんどん私を見る目が冷たくなってますけど……!?

 私が手で極寒となった眼差しを防ぐと、アルフレッドさんは大きく息を吐き出した。

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