第2話 あぁ、面倒なことになった
雅side
コソコソコソ
"何で、あんなダサ男が百嵐の幹部の人たちと?"
"もしかして、加入するなんてことないわよね?そんなことになったら百嵐の品格が下がるわっ。"
"あいつに弱みでも握られているんじゃないか?"
全てまる聞こえ。
ていうか、暴走族に品格なんてあってたまるかよ。まぁ、その前に入らないってことだけは声を大にして言いたいところなんたが。
俺がクラスに帰ってくるとこんな話で持ちきりだった。せっかく目立たないように行動してきたのに、意味なくなったな。ってことはこんな身なりをする必要もなくなったってこと...だよな?
「はぁ。」
いろいろ面倒くさくなって思考を放棄した俺はため息を吐いた。
「雅?わ、悪かったって!機嫌なおせよ、な?」
「...。」
「...雅さーん?」
「寝る。」
そうして俺はいつも通り机に突っ伏す。
「おい雅ー!雅ー?
,,.雅ー?みっやびー
,,.雅ー?
寝るの早ぇな!!」
やかましい呼び声を無視していると次第に声が遠のいていくのを感じた。
「あんた、百嵐の人たち脅したんでしょう?」
「お前みたいなダサ男といたら、彼らに迷惑だろうが。」
何でこうなった?
俺がいつも通り帰ろうとしたところ、いきなり女たちが立ちはだかり話しかけてきた。
「ちょっとついてきなさいよ。」
ってな。
そうして、体育館裏まで連行。
こういうことってほんとにあるんだなー。と人ごとのように思いながらとりあえずされるがまま連れてこられたわけだが。
「ちょっと聞いてんの?」.
「こわくて、声も出ない感じ〜?」
きゃははと下品に笑う女たち。
早く帰りたいんだが。そう思った次の瞬間、
バッシャーン!
「これで分かった?これ以上あの方達に近づいたらもっと痛い目見るから。」
そう言い放つとずぶ濡れの俺を置いてそそくさと退散する女達。
これは流石に抵抗すれば良かったと少しの後悔を残しつつ、とりあえず歩き出す。
...さむっ。4月はまだまだ肌寒い。サーーッと吹き抜ける風が濡れた体の体温を下げていく。
濡れたままじゃ帰れないし、教室行ってジャージに着替えるか...。
そう考えた俺は濡れた長い前髪を搔き上げて教室に向かった。
ポタ
ポタ
ポタ...
自分の歩いた道に水滴が落ちていく。
......自然乾燥するだろう。
俺は悪くない、よな?
「なんで、濡れてるの?」
そんなことを思っていたら後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには...
「...大塚レオ?なんでこんなところにいるんだ?」
話してるの初めて見た。それに、廊下を歩いてるのも見たことがない。
「俺が先に質問した。」
「...お前には関係ないだろ。」
俺はそれから振り返らずに教室に向かった。
〇〇〇side
風邪ひいたかも。でも、今日バイトあるんだよなぁ。
家まで帰ってきた私はお風呂に入った後、軽く髪を乾かすとベッドに倒れこんだ。
「はーあ。...最悪。」
気怠いなぁ...。でも、そろそろバイトに行く用意をしないと。
私はオレンジのグラデーションになっているロングストレートのウィッグと金色のカラコンそれから、メイクをしてから家を出た。
「おー、来たか。」
「今日もお客さんいない。」
「今開店したんだよ!お前、早く制服に着がえろ。」
「はーい。」
この人はここの店長さんで昼はカフェ、夜はバーを経営している悠吏(ゆうり)さん。
しかし夜は情報屋としての仕事もしていて、特殊な客が多い。
「ん?お前顔色悪いな。」
「そう?」
「ちゃんと食べてんのかよ?」
「うん。」
あ、やばい。頭ガンガンする。
「ここで食べる夕飯しか食ってないんじゃねーの?」
「...そんなこと、っ。」
「お前、ほんとに大丈夫かって...おい!」
私は悠吏さんの声を最後に倒れた。最咄嗟に手を伸ばされたのがぼんやりと見えた気がする。
――――――――
ここは...?
「っやだ!離して!」
これは幼い私?
「やだっ!ヒック、お父様っ!」
「これからはどんな事態にも冷静に対処できるようになるんだ。」
やめて...離して
お母様っ...。
やがて私の目の前は血の海と化した。
バサッ!
「はぁはぁはぁ...。」
「大丈夫か?」
「悠、吏さん?」
起きたらそこは悠吏さんの店の奥にある部屋だった。
「ほら、カラコン外せ。」
「うん。」
悠吏さんはこれがカラコンだって知ってる。ウィッグのことも。
でも、ウィッグの下がショートだってことは知らない。
だって、......して学校行ってるなんて言ってないし。
悠吏side
灰色の瞳が露わになった。
本当に綺麗な色だ。
だがこいつはこれを隠したがる。
「お前、熱あるんだからまだ寝てろよ?ったく無理すんなっつってんのに。...ウィッグも取るか?」
「いい。」
俺はベッドの端に腰掛けた。
魘されていたようだが大丈夫なのかと顔を覗き込もうとした時。
いきなり背中に重さがかかった。
...抱きつかれた、らしい。
「...どうした?」
「何処にも行かないで。」
こんな弱ってる声聞いたことねぇ。
いや、待て...それよりもこの状況やばいだろ。
こんな甘えるとこ見たことねぇぞ。
律が見たらキレんだろうな。
俺としては優越感に浸れるから見られてもいいけど。
「悪いけど、ちょっと離せ。」
「嫌だ。」
ほんとこいつの破壊力...。
俺が高校生男児じゃなくて良かったな。
「お前、寝ないとヤバいんだよ。ここにいてやるから、な?」
「う、ん。」
緩んだ腕から抜け出して、雅の方を向くと彼女は凄く辛そうだった。
「ほら、ちゃんと布団中入れ。」
だが、次の瞬間とんでもないことを言われる。
「悠吏さん。...一緒に、寝たい。」
ちょ、そんな潤んだ目でそういうこと言うな!
「悠吏さん...。」
「あー、分かった分かった!」
俺は雅の布団の中に入ると彼女を抱きしめた。
「これでいいか?」
「...ん。」
それから彼女は俺の服を控えめに掴んですぐ眠りについた。
「あー、眠気吹っ飛んだ。」
時刻は深夜2時。
――――――――
バタンッ!
「悠吏〜、いんの...ってはぁ?」
「...うるせぇなぁ。」
「っお前、〇〇〇に何してやがる!!!」
「だから、うるせぇ。」
「俺の〇〇〇に手ェ出したのか!!」
「チッ。なんで今日に限って朝っぱらからうちに来てんだ。」
「今はそんなんどうでもいいんだよ!今すぐそこから出ろ!」
このうるさいのが、キレるだろうなって言っていた律だ。
「言われなくても出てやるよ。つーか、こいつ熱出してんだから静かにしとけ。」
「...悠、吏さん?」
彼女が目を覚ました。
「律のせいで起きちまったじゃねぇか。」
「は?熱出てるって?そんなやつをお前は...。」
馬鹿かこいつ...。
「はぁ。
お前が思ってるようなことは何もしてねぇから。〇〇〇、なんか食べた方が良いから作ってくるな。律いるからなんかあったらこいつに言え。」
「ん。」
彼女は少し布団から顔を出して眠そうな顔で返事をした。
こんの可愛い生き物...。
律が来なかったらもう少し俺の腕の中だったっていうのに。
こんな甘えてくんの初めてだぞ。
律side
近くを通りかかったから朝食を悠吏のところで食べようと思って来てみれば、悠吏が彼女を抱きしめて寝ててマジで焦った。
どうやら熱が出てるらしいな。さすがにそんなやつに手は出さないか。
でも何で一緒に寝てんだよ!!!
「〇〇〇、体調は大丈夫か?」
俺は内心とは裏腹に落ち着いた口調で雅に話しかけた。
「ん。」
「...なぁ、何で悠吏と寝てたんだ?」
でも、やっぱり気になるだろーが。
「んー、...私が頼んだから?」
...なんだと!?まさか。
〇〇〇は悠吏が好きなのか?
ショックで死ぬかも...。
「律、手貸して?」
「...ん?ほら。」
放心状態の俺は雅の声によって現実に引き戻された。
彼女は俺が右手を出すとその手を握った。
「どうした?」
「何でもない。」
そう言って少し微笑んだ〇〇〇。
っう、心臓止まるかだと思った...。これは一体全体どういう事ですか雅さん。
俺のこと〇〇ス気なんですかね?
彼女はそれから数分後に再び眠りについてしまった。
「寝ちまったか。」
悠吏がおかゆを持って部屋に戻ってきた。
「ん?あぁ。」
握られている手が熱い。まだ熱は下がりそうにないな。
「ふっ、...お前めっちゃ狼狽えてるな。」
そう言って鼻で笑う悠吏に今回ばかりは何も言えない。
「うっせー!...〇〇〇は、熱出すと甘えんのか。」
「そうかもな?これまで体調崩してんの見たことねぇからなんとも言えないが。
あぁ後、
魘されてたぞ。」
「魘されてた?
そうか...。
前はこんな一面見せてくれたことなかっただろ、少しは俺らのこと頼ってくれてるならいいんだが。」
あの日以来、彼女が毎日のように夢に魘されてたいたのを思い出す。
今は体が弱ってるから久しぶりに悪夢を見たのかもしれないな。
「それはどうだか?まぁ、こいつにもまだ隠し事の一つや二つはあるだろーよ。
それで?
藤堂財閥の次期社長さんが今日は何しに来たんだ?」
隠し事ってなんだよ。
いや、待てよ。そういえば、俺は何しに...
「そうだ!俺は朝メシ食いに来たんだよ!」
「はぁ?そんな事かよ。そんなもののために俺はそのベッドから出る羽目になったのか。」
「ここでバイトしてるからって〇〇〇はお前のものじゃねぇからな!きっと俺の野生の勘が働いたから今日はここに来たんだな。」
「はぁ、そうかよ。
...とりあえず作ってやるからその手離してこっち来い。」
「...。」
俺は離したくない欲求を抑えて雅の手を布団の中へしまった。
「雅、早く元気になれよ?」
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