朱の獣 〜トラウマを抱えた男装少女は至極平凡な学生生活を望みます〜

@MeiLing__

第1話 楪 雅という男がいるんだが

「あー、ねむ。」



「雅(みやび)また寝るのか?」



それを無視して机に伏せた。



よく飽きもせず俺に話しかけてくるもんだな。



「今日こそ俺たちのところに連れてこうと思ったのに〜。」



そんなの一生ごめんだ。



そんなことを思いつつ俺は眠りについた。



―――この高校に入学して1ヶ月。




それで分かったことは、"百嵐"(びゃくらん)という族がいるということ。と、



面倒なことに俺の隣の席の本庄 奏(ほんじょう かなで)はそこの幹部らしいこと。


そいつが何故か無駄に絡んでくる。



族と関わって面倒なことが起きないわけがないし、


絶対、関わりたくない。




蒼大(そうた)side


「なぁ、雅ここに連れてきたいんだけど〜。」



奏が聞いたことのない名前の奴をここに連れて来たいと言い出した。



「はぁ?誰だそれ。」



智尋が言った。



俺も同じこと言おうとしたよ。



「俺の隣の席のなんか気になるやつ。」



なんか気になるやつってアバウトな...。


「どんなやつ?」



「んー、寝てばっかりって以外どう説明すればいいか分かんねぇけど〜。ここに連れてきたらもっとわかると思ってよ!」



俺が聞いたら、そう答えた奏。



そんな情報が曖昧なやつをここに連れてくるっていうのはどうなんだよ...。



でも、奏の勘は結構当たる。



意外と面白いやつなのかもと少し興味を持ってしまう自分がいた。



「そいつ連れてこい。」



突然そう口にしたのは我らが総長、瑠樹(るき)。



「いいの!?やった!じゃあ、早速明日の昼にでも連れてくる!」



奏はすごく喜んでいる様子。



俺も早く会ってみたいかも。



とか、思ってたけど...。




「あれ?今日も連れてこなかったの?」



「連れて来なかったんじゃなくて、連れて来れなかったの!」



「あー、はいはい。また寝ちゃったってことね。」



「だって、起こすとめっちゃ怖ぇんだもん。」



だもんって、女子かお前は。


まぁ、奏はこの性格だから許されるんだけどな。



「いっそのこと、放課後は?」



「あー、なんかいつもすぐ帰ってくからどうだろうなぁ。」



バイトとかやってるのかな?



「つーか、雅ってやつ苗字はなんて言うんだ?」



智尋がスマホから目を離して奏の方を向いた。



「楪だよ、楪 雅!一文字ずつでなんかかっけーよな。」



確かに、名前だけ聞くとただ者ではない感があるかも。ますますどんなやつか気になる。



いっその事会いに行くか...。



そんな調子で、まだ"楪 雅"とかいう人物には会えていない。




雅side


"あぁ、前髪鬱陶しいな。"



そんなことを思いながら、今日も俺は自分の席で眠りについた。



俺は前髪を目が隠れるところまで伸ばしている上に、眼鏡までしているから、周りからはダサいやつって印象しかないと思う。



それで、俺に興味が向かないようにしたつもりなんだが...。




「「きゃーっ!」」



なんか、騒がしいな。



昼休みにいつものように寝ていた日のことだった。



俺は机に伏せていた顔をドアの方に向ける。



「は?」



俺の安眠を妨げたものの正体は最悪な奴らだった。



「こいつか?」



「このダサ男が楪 雅!?」



ダサ男で悪かったな。つーか、なんでここにいる?



「蒼大の言う通り皆で来て正解だったな。騒がしかったせいで雅が起きてる!」



しかし、これだけは分かる。



全ての元凶は本庄 奏ということだ。



「楪 雅くんだっけ?ちょっと俺たちに着いて来てもらっていい?」



こいつ、百嵐副総長の秋宮 蒼大だったか?



「俺は寝る。」



「来てくれないなら俺たちずっと付き纏っちゃうかも。」



とてつもなく、面倒だ。



「...今回だけなら。」



ここでこれ以上目立つのも勘弁してほしいからな。



「よっしゃ!雅、連行作戦大成功っ!」



そこのガッツポーズしてるやつ、マジで恨む。



なんで、よりにもよって本庄が俺の隣の席だったんだ。



いや、それよりも何でこんな地味なやつ興味持ったんだよ。



「雅、昼飯は?」



「無い。」



「え!もしかしていつも食べてないのか?」



「まぁ、寝てるし。」



現在、残念なことに俺はものすごく設備の整った空き教室という名の溜まり場へ来てしまっている。



「わ、悪かったよ!だから、怒るなよ?」



「雅くん、そんなに怒ると恐いの?」



「そうなんだよ。その時の殺気と言ったら半端なかったぜ!」



...無意識だった。



「奏をビビらせちゃうほどの殺気ねー。それは気になる。」



え、まじやめてくれ。



「俺帰ります。」



幹部たちは先輩がほとんどなので一応敬語を使う。



「え!来たばっかじゃん!」



「じゃあ、早く要件済ませて。」



「...それは、特に...あるわけではゴニョゴニョ。」



最後の方聞き取れなかったんだけど?



「まぁ、いいじゃん。もう少しここにいてあげてよ。」



...居心地悪すぎるんだよ。


なんか、ジロジロ見られてるし。特にそこにいる鳴海 智尋(なるみ ちひろ)とかに。



ちなみに、ダサ男って言ったやつこいつね。俺、意外と根に持他タイプだから。



まぁ、意図的にやってる格好だし自業自得だけど。




智尋side


「眠いんですけど...。」



ダサ男...じゃなかった、楪だったか?



とにかくこいつの何処が気に入って連れてきたいなんて言ったのか分からねぇ。



ひ弱そうだし、殺気出したって言ったけどうちの姉貴だって怒ったらマジ恐ぇからな?



それと同じようなもんなんじゃねぇの?



「ねみぃなら寝れば?」



俺がそう話しかけると楪はこちらを向いた。



こいつ、前髪と眼鏡で表情が全く見えねぇ。



「こんなところで寝れるわけないじゃないですか。」



「こいつは寝てるぞ?」



俺が指をさしたのはレオの方だ。

こいつもよく寝るんだよな。



「そういう意味じゃないでしょ。智尋。」



「あ?じゃあどういう意味だよ。」



「ここは居心地が悪いってことだよ。ね?雅くん。

あー、絶対今


"そう言うなら返せよ"


とか思ったでしょ。」



それを分かって言ってる蒼大は中々タチが悪い。



「...なぁ、雅〜。これ食べる?」



奏は無口になった楪を宥めるように食べ物を差し出す。



「別にいらない。」



こいつ極度の少食とか?



「食べねぇからそんなひ弱な体してんだろ。」



「そうですか。」



俺が思ってることを素直に口にしたら、他人事のように返された。



こんなところに連れてこられても、怖気付かないところを見ると確かにそこらのやつよりは肝が座ってるのかもしれねぇが...。



「本当に俺帰りますね。もう授業始まるんで。」



もうこんな時間か。瑠樹は何も話さねぇで見てるだけだったな。



結論、奏がそんなに気にする理由が俺には全くわからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る