第5話 完結編
旅も終盤。モモ×3チームで総勢50名の御一行。いよいよ魔界に入るべく準備を整えていた。
「いよいよ魔界に足を踏み入れます。出発は明日の朝。各々、心の準備をしておいて下さい。」
プリンセスの挨拶で晩餐はお開きとなった。
最後の晩餐となるかどうかは、明日の決戦次第だ。
プリンセスは、レオやアン。レッドやグリーンに激励の言葉を贈る。
モモタリョーエスは、ファンクラブのメンバーに
「明日は・・・来なくても良い。君達は戦闘員ではないのだから。」と言ったが
「モモ様の活躍がある所に、ファンクラブが居ないなんて有り得ません。」誰一人として、意見を譲る気はなさそうだ。
モモとロータスは、テリーに凭れて星を見上げていた。
「モモ、明日は目立たないように馬車の中に隠れて移動して。」
「何で?」
「モモの顔を知っている人が居るかも知れない。」
「そうだね分かった。でも、魔城には一緒に行くよ。」モモはロータスと離れたくないのだ。
「明日が終われば、ずっと一緒に居られる?」不安そうに聞いたモモに頭をグシャグシャと搔きながら、ロータスは笑った。
魔界に足を踏み入れた一行・・・。
7台の馬車にぞろぞろと付いて歩く人達。馬に騎乗している騎士。まるで大名行列だ。
魔族達は、珍妙な団体の対応が出来ずに遠巻きに見ているだけだった。
戦闘をする事もなく、目の前には魔城がある。
「何だか、呆気なかったわね?」プリンセスが言った。
「魔王を倒すまでは、気を抜かない方が良いかと。」モモタリョーエスが発言をすると
「きゃぁぁぁぁぁ。モモ様~!!」
ドンドンドン パフパフパフと楽器を鳴らしながら騒いだ。
そんな様子を、魔族達は陰から見つめていた。
「モモ、出ておいで。」
ロータスが馬車の中にいるモモに声を掛けた。
それが合図の様に、馬車からゾロゾロと人が出てきた。
今日ばかりは、食事班も会計係も、モモタリョーエスと一緒に行くと決めていたのだ。
外門に護衛や兵士がいる様子もなく、先頭に立つレオの手であっさりと大きな扉は開かれた。
城内に突入開始だ。レオは一旦振り向き、一同を見回した。プリンセスがこくりと頷く。大きく息を一つ付く。
レオは両手で魔城の扉を押し開いた。
人の気配がない大広間を団体で進み行く。レオが後ろ手で合図を送り、一同の歩みを止めた。
そこには、美しい人が長椅子に横たわり眠っている様だ。長く艶やかな黒髪、透明感のある白い肌、彫刻の様に整った顔。
モモタリョーエスにも劣らない美男子が、目を開けた。
「何の用だ。」バリトンボイスで声まで素敵だ。
「貴方が魔王ですか?」ロータスが口火を切った。
「そうらしいな・・・。」やる気の無さそうな声で答える。
「貴方の目的は何でしょうか?」
ロータスは今だに話し合いで解決したいらしい。
「私は、圧倒的な魔力量で魔王になっただけで、目的などは無い。やる気も無いしな。」魔王は物憂げに答えた。
「ですが最近、魔族達やビーストが人間界を襲ってきています。」レオが魔王を問い詰めようとしたが
「言っておくが、ビーストと私達は関係ない。結界が解かれたので、人間界に現れるようになったのだろう。寧ろ今までビーストを閉じ込めていたのは、私達だ。」
「それを魔王が人間界に仕掛けたのでは?」
「人間界・・・か。君達は何も知らないのだな。」
魔王は自嘲気味に笑った。
「私達が何を知らないと言うのですか?」プリンセスは、頬を赤らめながら聞いた。
その時、バタバタと何人かの魔族が駆け付けた。
「閣下、申し訳ありません。今すぐ・・・」と言い掛けた時
火柱が上がった。
反射的に、アイリーンが両手を上げていた。
しかし、火柱は一瞬にして消えていった。
「何で?」
アイリーンは戸惑いを見せたが、魔族とアイリーン達との間には、透明の壁で隔たれていた。
魔王の方を見ると、指が一本立っている。
魔族も、アイリーン達も攻撃が出来ない状態になった。
「私の名前はアルデリート、総統閣下と呼ばれている。この国の一代限りの王だ。」
「少し長くなるが、魔族の歴史を話そう。退屈だしな。」と言いながら、魔王は身体を半分起こした。
一同が注目をする中、魔王が淡々と話し始める歴史・・・。
「今から900年程前・・・。世界大戦が起こった。
それが100年戦争の始まりだ。
魔力の高い者は、それぞれの王国の都合の下で最前線に立たされていた。100年も諍いを続けている中、当初の目的を覚えている者など居なかった。勝つ事だけを目標にして。
国々、そして人々は疲弊していき休戦の提案がなされて世界会議を行った。・・・結論は魔力の高い者を断罪するという事になったらしい。魔女狩りだ。
世界会議で何が話し合われたのかは分からない、しかし戦争の責任の矛先が私達の先祖に向けられた。」
「私達の御先祖様は、魔女狩りを逃れて世界中からこの地に集った人間だ。
最初に王となった魔力の高い者が、結界を作った。癒しの泉の森に・・・人間からの攻撃を防ぐ為に。
魔力の高い者達が集う村なのだ。魔力の高い子が生まれてくる。そうして国として成長していったのだ。
代々魔王になる者は、結界を結び直した。だが、私はその結界を解いた・・・。そこのチビ。」
不意に魔王に指名されたモモは、慌てる。
「わっ・・・私?」
「チビも魔族だな。」アルデリートがモモを眺めた。
アイリーン達がモモに目線を向けた。
「違います。モモは私の友人で、人間です。」ロータスがモモを庇うように立ちながら言うと
アルデリートは、指をクイッと動かしてモモを膝の上に乗せ頭を撫でた。
ロータスが手を伸ばしたが、届かない。魔王が天井を仰ぎ見て嗤った。
「ハッハッハッ・・・・・・・。その振る舞いこそが、染み付いた偏見だよ。」
「モモか・・・。モモはあの者の事が好きか?」
アルデリートが優し気な声でモモに聞いた。
「はい。初めての友達です。」と素直に答えた。
「おい、そこの者。」アルデリートがロータスを指差す。
「ロータスと申します。」
「ロータス、モモが魔族だと不都合があるのか?」
「私はありませんが・・・。」ロータスが回りを見回した。
「分かっているじゃないか。魔族というだけで、回りから偏見で見られる事を。」
そう言われて、ロータスは黙るしかなかった。
静寂の空気が流れる
「魔族でも人間でも、モモちゃんはモモちゃんよ。」空気を破ったのはダリアだった。
「私達ファンクラブのメンバーは、モモちゃんが好きです。そして魔王様、貴方もモモ様と同じ位にかっこ良いです。」リンが言うと、ドンドンパフパフと音を鳴らした。
「魔王様ではなく、閣下と呼びなさい。」モモタリョーエスは、苦笑し頷づきながら言った。
「では、そこの女。」アルデリートがアイリーンを指差す。
「このお方は、カシミール王国のプリンセス。アイリーン様です。」レオが口を挟んだ。
「では、アイリーン。そちらにモモを差し出そう、殺すが良い。それを開戦の合図としようではないか。」急にアルデリートが冷たい声を出し、皆が慌てた。
アイリーンは生まれて初めてのカーテシーをした。最大の譲歩のつもりだった。
「それは出来ません。」
「何故だ?」
「モモちゃんは、仲間ですから。」
「モモは魔族なのに?」
「はい・・・。」
「では先程、私の護衛に攻撃をしたのは何故だ?」
「・・・。」アイリーンが押し黙る。
「代わりに答えてやろう。人間は善、魔族は悪と教えられて育てられたのだろう?私の護衛がお前に何かしたか?魔族というだけで、殺しても良い存在だとでも思っているのだろう?」
「!!!・・・。」
「お前達の常識では、強引に隣国に押し入って人を殺しても良しとするのか?戦争になるであろう?」
「・・・。」
「お前達が我が国に戦争をしかけたのだ。我が民達が仕返しても問題はないな。」
アイリーンは何一つ言い返せない。拳を握って俯いた。
透明の壁を隔てた向こう側、魔王の護衛も身体を縮こまらせて震えていた。恐怖ではない。怒りだ。
「私達魔族は、800年に渡り侮蔑と偏見の目に強いたげられてきた。屈辱に思う者もいる。家族を殺された無念を代々語り継ぎながら人間を恨む者もいる。そして・・・モモの様に友達を求める者も。」
「アイリーン・・・お前は運が良かっただけだ。高い魔力を持つお前が800年前に生まれていたら、お前は魔族と呼ばれ蔑まれていだろう。私とお前の何が違うのだ?」
アイリーンは大きく深呼吸をした。
「まずは護衛の方に謝罪します。失礼を致しました。」
レオが、レッドとグリーンが、目を大きく見開いた。プリンセスが謝るなどと、想像もつかなかった。
「そして、閣下にお聞きします。何をお望みでしょうか?」アイリーンは魔王ではなく閣下と呼んだ。
「この国の・・・閣下の言い分は納得しました。私達が間違っていた様に思います。復讐がお望みですか?」
「アイリーン、私個人に望みはない。解放しただけだ。結界が開かれた今、個々の自由にすれば良いと思っている。只、庇護を求めて来る民は守ってやらねばならぬ。一応は王だからな。」
ふとアルデリートの口角が上がった。口元に悪戯な笑みを浮かべ目を細める。形容する言葉もない程の美しさに、一同が息を飲んだ。
アルデリートは膝の上に乗せていた、モモをヒョイと持ち上げて隣に座らせた。モモの顎を指で持ち上げ
「モモ、私と結婚するか?」アルデリートはモモにプロポーズをした。
「魔王様と結婚?」モモが想像すら出来ないでいると
「あぁ、この国に居る限り辛い目には合わせない。他国に行く時は、我も付いて行こう。そうすれば、守ってやれるぞ。」アルデリートはモモに笑顔を向けた。
「そうすれば、戦争は起こらず我が国と他国の友好も少しは良くなるであろう?」
モモが考え込んでいると
「お断り致します、閣下。」ロータスが口を挟んだ。
「モモは私と・・・。」最後まで言えないロータスに
「モモは人間と仲が良い。王妃になってくれれば、少しは緩衝材になるかもしれんぞ?それで丸く納まるではないか。」と言いながら、モモの頭を撫でた。
「それでしたら閣下、私と結婚して下さい。」アイリーンの言葉に皆が固まった。
「私と結婚しても、同じ効果が得られます。我が国と、この国の架け橋として・・・。」
アイリーンの必死の説得にアルデリートは声を上げて笑った。
「冗談だ。モモはロータスの事を好いておるようだからな。意地悪を言ってみただけだ。」
クックッと喉を鳴らすように言った。
「ですが、先程閣下がおっしやられた事は最善策でございます。人間を妃にする事が和議と友好の一番の近道かと思いますが。」
アイリーンは真面目に考えて発言をしているようだ。
「そうか・・・。ならば我はこの女を望む。」モモタリョーエスの方へ目線をむけた。
モモを初め、ロータス、アイリーン、レオ、レッド、グリーン。一同がフリーズしている。
『女・・・女?』
「美形カップル、きたーぁぁぁ!!」
ファンクラブが太鼓やラッパを鳴らす。お手製の紙吹雪まで用意していて、モモタリョーエスに浴びせた。
「無理強いはせぬが・・・。」
アルデリートがパチンと指を鳴らすと、モモタリョーエスにスモークがかかる。出てきたモモタリョーエスは、豪華なドレスに身を包みヘアメークまでが完璧に仕上がってあいる。
「きれい~!」とモモが言うとファンクラブのメンバーは歓喜にわいた。
モモタリョーエスは初めての淑女の姿に、顔を赤らめて俯いた。
ロータスとプリンスのメンバーからは、
『女だったの?全然知らなかった。』と驚きの声を連発していると
「イケメンとられた~。」プリンセスが膝をついて頭を垂れている。アイリーンは外交ではなく、イケメンをゲットしたかったらしい。
その後モモタリョーエスは東国の公爵令嬢として、魔王(改)総統閣下アルデリートの元へ、30人ものファンクラブメンバー(改)侍女達を引き連れ、魔城(改)北王国の王宮へ嫁入りをした。
その豪華な結婚式は、東西南北の国々の歴史的会合になった。
西国代表から仏頂面をして参加をしているカシミール王国のプリンセス・アイリーン
南国代表のローデヤン国の、騎士団長ロータスとモモ。ロータスには勇者の称号が与えられた。
東国代表のリンター国の両殿下とモモタリョーエスの両親である公爵夫妻。
最初は訝し気な顔をしていた、元魔界の民もモモタリョーエスの美しさと、侍女達の賑やかな振る舞いに段々と心を溶かした様子で、心から結婚式を祝った。
アルデリート閣下とモモタリョーエス妃の統治する北王国は、積極的に他国との交換留学などをし、他国の人が移民をしてきて、かつて無いほどの栄華を極めた。
毎年北王国の建国記念祭には、かつての冒険者仲間であるロータス、モモ、アイリーン、レッド、グリーンが集まり友好を深めたが、モモがロータスの気持ちに気付いていない事に外野がヤキモキしていた。
モモタリョーエスが「モモちゃんのウエディングドレス姿を見られるのは、まだまだ先の様ね。」
アルデリートと指先を絡めながら、閣下の耳元で囁いたのだった。
= 完 =
プリンセスあなたは勇者ですが、私はヒロインにはなれません。 七西 誠 @macott
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