第3話 魔女っ娘 モモ編

私の名前は、モモ。今のところそれだけ。


私は魔族、魔女の家系に生まれた。なのに・・・断然に魔力が低い。人間の子供レベルだ。

両親は私の魔力の事で言い争いになり、結局どちらからも捨てられた。


魔力には属性があり、私は火の属性を持つ。

指先からマッチを擦った時よりも、一回り程小さな火が出る。今の所、何の役にも立たった事がない。



魔族は実力主義だ。今の魔王も魔力が圧倒的に高い。人間の様に、家柄など全く関係ないのだ。

私は、魔族達の暮らすこの村では肩身が狭かった。

親の居ないモモは、お屋敷の下働きをしながら少しづつお金を貯めていた。毎日虐められたが、目標がある。



だから今日、私は旅に出る。人間の住む国へ。


魔族に、この国に未練はない。小さい頃から虐められたから。この日の為に体は鍛えた。私は、武器を取る。



武器は魔女らしく、大きめのステッキにしてみた。

森を抜ければ・・・私は、ステッキを背負ってこっそりと人間界へ足を踏み入れた。


森を抜ける途中で、狼に出会った。動物なのか、ビーストなのか、分らない。

狼はモモに擦り寄って来た。モモは初めての味方が出来た。

「お前の名前は・・・そうね、テリーよ。」モモがそう言うとテリーはモモを背中に乗せて、森を一気に駆けて行った。


「うわぁぁぁ。」


空が青い。空気が澄んでいて、お日様がポカポカと気持ちが良い。

「思いきって来て良かった。」私は、独り言を呟いた。


人間には友達がいるらしい。

「ともだち・・・」言葉にしてみる。魔族では考えられない、素敵な関係。


私は、友達を求めて旅を続けた。随分と西へ歩いただろうか?その時一人の男の人と出会った。

その人は、魔物相手に苦戦を強いられていた。


私は、ステッキを一薙ぎする。風を切る音と共に魔物は砕け散った。


その人は、はぁはぁと息を切らしながら言った。

「助けてくれて有難う。僕はロータス。お嬢さん、君の名前を伺っても?」


「モモです。お友達になって下さい。」

私は、ロータスさんに手を差し出した。魔族という事を隠したままで。



ロータスさんは、冒険者として旅をしているらしい。人間とは変な事をするものだと興味を持った。


暫く話をして、一緒に旅をする事になった。

ロータスさんは、危険な旅でも良いか?と言っていたが、大丈夫だと答えた。


ピューと口笛を吹いてテリーを呼んだ。「相棒のテリーよ。」モモが紹介をした。

大きな狼に吃驚を隠せないロータスであったが、モモに懐いていたので良しとした。


フワフワとしたココアブラウンの髪と、同じ色の瞳を持つ。優しい顔で笑いかけてくれる。

初めて出来た友達に、浮かれた気分でステッキを振る。


「随分と可愛いデザインの槍だね。」とロータスさんが言った。


槍?ステッキの事を人間界では槍と言うのか・・・。

まだまだ知らない事が沢山ある。ロータスさんは、色々な事を教えてくれた。


初めて人間界の町へ行った。そこには初めて見るものがあって、ドキドキする。

流石にテリーは街の外で、お留守番だ。

「テリー、お土産買ってくるから良い子にしてるのよ。」テリーは少し拗ねた様子で、身体を丸めて寝ていた。


「ロータスさん、これは何?ねぇねぇこれは?」

私はロータスさんを質問責めにしてしまった。


「ロータスと呼んでくれ。モモ」

ロータスさん・・・ロータスは少し照れらがらそう言ってくれた。


2人で食堂に入った。見慣れないメニューに困惑したが、ロータスが注文をしてくれた。


「どう?美味しい?」


「とっても美味しいれふ。」口一杯に頬張っていた。


「誰も取らないから、ゆっくり食べなさい。」ロータスが微笑みながら言ってくれた。


食事を取りながら、色々な話をした。両親がいない事。ずっと孤独で淋しかった事など。

ロータスは頷いたりしながら、黙って聞いてくれた。


「あっ・・・私、この国のお金を持っていない。」と、ロータスに打ち明けたが、


「大丈夫だよ。」と言ってくれた。


ロータスは、ある程度の予想をしていた。シルバーで癖毛の短い髪に深い赤色の眼。一見黒に見えるが、よ~く見ると赤みがかっているのが分かる。


この国では、見たことのない色だったから。外国から来た難民なのだろうと、思っていた。


国から水晶で、勝手に冒険者に決められてしまったロータスは、ぶらぶらと旅をしているだけだった。戦闘経験も殆どない、人より強い訳でもない。どうして私が、適正者として選ばれたのだ。


漠然と続ける旅に辟易していた。

つまらない旅であったが、モモと一緒に旅をする様になってからは、毎日がとても楽しい。


食堂を出て、モモが忘れ物に気がつく。

「私のステッキを置いてきちゃった。」シュンと顔を曇らせたモモに、


「私が、取りに行くから、心配をしないで。」

と言って食堂にとりに戻ったのだか、店内では大騒ぎをしていた。


誰もステッキを、持ち上げられない。


「モモ、大変だ!」ロータスが慌てた口調で、モモを呼んだ。


「槍・・・ステッキが大変な事になっている。」


「へっ?ステッキが?」私はヒョイと持ち上げて、クルリと回してみた。


「何処も変な所はないよ?」と言った。


食堂にいたお客さんや給仕の人達が、驚いてこっちを見ている。何があったのだろう?

騒がしいお客さんを尻目に、テリーへのお土産をロータスへおねだりした。



「モモ、今日は野営をするから薪を拾ってきて。」ロータスはそう言って、テントを張り始めた。


「お前も一緒に来る?」モモは狼に尋ねた。

狼は『ワウォン!!』と小さく言ってモモを背中に乗せて走り出した。



私はロータスに言われた通り、林の中へと入って薪を拾って集めた。ついでにと思い、野ウサギや野鳥も捕えた。そうだ、木の実も拾ってきていけば、喜んでくれるかもしれない。

薪も拾ってきたし、動物や木の実も採ってきた。準備はOK。「テリー、行くよ。」モモはロータスの所まで、テリーに乗って戻って行った。



私はロータスに喜んで欲しかった。初めて出来た友達に、誉めて欲しかったのだ。


テントに帰ると、ロータスも丁度準備を終えていた。


私は、集めた薪に魔法で火を付けた。


「へぇ~、便利な魔法だな。」ロータスが笑って私を見た。


「べ、べ、便利?!」私は、生まれて初めて魔法を誉められた。嬉しくて・・・気が付くと涙が頬に流れていた。


「どうしたんだい?何か気に触る様な事を言ってしまったかい?」


「ちっ、違います。嬉しくて・・・私誉められたの初めてです。」

嬉しくて涙が流れるなんて、知らなかった。

辛い時、苦しい時、惨めな時、悔しい時、淋しい時、私は何度も1人で涙を流したが、こんな幸せな涙もあるのだ。


ロータスは、何も言わずに寄り添ってくれていた。


反対隣から、テリーが顔を舐める。私の涙が渇くまで。


隣に座って背中をポンポンと叩かれているのが、心地よくて・・・ロータスの肩に凭れて、いつの間にか私は眠りについていた。


次の日から、私は積極的にモンスターを退治した。

「行くよ!テリー。」狼に声を掛ける。ビーストだろうが、同胞だろうが関係ない。


ロータスに向かって来る者は、私が排除する。

レベルが随分と上がったと、ロータスも喜んでくれている様子である。


もう長い間、ロータスと一緒に旅をした気がする。



ずっと疑問だった。何故私が適正者に選ばれたのか?きっと、モモと出逢うためだ。

草原の上でテリーとじゃれ合っているモモに、ロータスは不意にこんなことを言った。


「背中を預けられる誰かと一緒なら、モンスター退治の旅も楽しいな。」


「背中を?ってどういう意味?」と私が聞くと


「信頼出来るって事だよ。嘘がない、自然体で居られる飾らない関係とでも言うのか・・・。」

ロータスが少し照れながら説明をしてくれた。


私は、このままずっとロータスと一緒に居たい。

でも・・・嘘は付いてはいないけど隠している事がある。


それは、私が魔族と言う事を・・・。私は、ロータスに全てを打ち明けようと決心した。


「ロータス!あの・・・。あのね、私・・・魔族なの!!」

ロータスは目を丸くして驚いて居る様だったが、直ぐに納得した顔を見せた。


成る程、それで狼が懐いているのか。多分テリーは、神獣だ。まだ子供の様だが。


「でも・・・これからもずっとロータスと友達で居たいよ。ダメかな?」

勇気を振り絞ったからか、大きな声が出ていた。


一瞬ロータスが渋い顔をした。


「怒ったの?ごめんなさい・・・。」と私が下を向いて謝ると


ロータスが、私の頭をポフポフと叩きながら。

「モモはモモだろう?魔族とか、そんな事は関係無いよ。」と言って笑ってくれた。


魔族と言う言葉より、友達と言う言葉に反応してしまったロータスが「友達ねぇ・・・。」と呟いた。

淡く芽生えた恋心を、軽く粉砕された気分だ。


何だか、テリーが笑った気がした。



ロータスの複雑な心の内を理解するのは、もう少し掛かりそうなモモに

「さぁ、モンスターを倒しに行くぞ。」と言った。


モモはステッキを振り回し、テリーは『ワォン!!』と言った。



ふと気付くと、私は来た道を戻っていた。




「この道って・・・魔城に続く道だ。」




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