第2話 国士無双 モモ編

私の名前はモモタリョーエス・レナード。愛称はモモ。この国では、変わった名前だ。

平和な世が続いた為か、両親は浮世離れしていた。

レナード公爵の名を継ぎ、お金に困った事のない父が私に勇者になって欲しいとの思いで、付けた名前だ。


内緒にしておいて欲しいのだか、私は女だ。

訳あって男装しているのだが・・・今はそれを置いておく。


両親が付けてくれた名に文句はない。しかし、それは平和の世であればの話だ。

魔王が現れた今、洒落にならない。


冒険者が水晶の占いにより決まって行く中

私は公爵である父の推薦と、名前と顔だけで選ばれて冒険者になってしまった。

団子も持たされていないのに、お供は自分で探せという無茶振りだ。


私にあるのは、キリリと整った生まれながらの美しい顔。社交のマナーと家柄だけだ。


それでも国と父の決定には逆らえず・・・勇者になれるチャンスだと父は喜んで送り出してくれた。


形から入りたがる父は装備も1から揃えるようにと、鞄1つで家から出された。鞄の中には公爵の決済印が入っているので、金に困る事はないのだが。


父には申し訳ないが、私は勇者になどなれない。文も武も、平均値より少し上という程度だ。

平均値を遥かに上回って高いのは、美しい顔だけだ。だが、顔でモンスターを倒す事は出来ないであろう。



自嘲気味に溜め息をついて、取り敢えず魔王の城の方角へ向かって馬を走らす。

今日はアーウィン伯爵の領地にでも行く事にした。


「突然の訪問、申し訳ない。」私は伯爵に挨拶をする。


「いえ、噂は聞き及んでおります。魔王の退治を・・・。」

伯爵は言い終えず言葉を濁した。


皆知っているのだ。私の旅は茶番だという事を。


「2.3日の間、世話になりたい。買物を済ませたら旅立つ。」と言った私を快く歓迎してくれた。


この町は貿易が盛んだ。武器や防具、旅のアイテム等を揃えるのに丁度良かった。

色々な物を買い終えて歩いていると、前を行く女性がハンカチを落とした。


「お嬢さん、落としましたよ。」と、その女性を呼び止めた。

振り向いたその人は、私が手に持っているハンカチの事を見ずに、私の顔をずっと見ていた。


「あの・・・お名前は・・・。」


「あっ失礼しました。私は、モモタリョーエスと言います。旅をしている者です。」

恥ずかしい名前を、恥ずかしげもなく名乗り礼をした。


「モモ様・・・。」


「私は、リンと申します。旅の人、ご一緒させて下さい。」

リンと名乗るその女性は、ハンカチと私の手を握りしめながら言った。


結果、その女性が付いて来てしまった。

魔王を退治する危険な旅だからと言ったが無駄だった。


仕方なく伯爵の家に連れて帰る。

「旅の供をする事になった。」と説明をする。


いくら茶番の冒険者だからと言って、いきなり女性を連れて来るのは・・・どう思うだろうか?悪い噂に成らなければ良いが。


そんな事を気にした風もなく

「気を付けて行ってらっしゃいませ。御武運を。」と言って、アーウィン伯爵が見送ってくれた。



行く先々の領地の情報と紹介状を持たせてくれた。


「お世話になりました。」

私は礼を言って、伯爵家を後にした。・・・リンを連れて。


リンが一緒に居る事で、旅の退屈から解放された。


「モモ様~、村が見えて来ましたよ。」


「モモ様~、小川で水を汲んでおきましょう。」などと、リンは何かにつけて、手伝ってくれていた。



村を3つ程訪れて。子爵領地に入った頃には、お供の女性が10人程に増えていた。

善良な彼女達を騙している事に心を痛めた私は、仕方なく彼女達に、私は女だと打ち明けたが・・・。


「そんなの知ってますよ~。」


「ねぇ~。」

と言っている。彼女達に、それを気にする様子はない。



彼女達を連れたまま、子爵の家を訪れると、


「レナード様、この状況は・・・一体何事ですか?」

ビックリした様な子爵の表情。それも仕方ない。


「この子達は、旅のメンバーだ。」子爵に言い訳をしていると


「モモ様、違います。私達はモモ様の、萌え萌えファンクラブで~す。」とリンが口を挟んだ。


「子爵、申し訳ないが幌付き馬車を2台用意して貰えるか?」私は、苦笑混じりで子爵に頼んだ。大所帯に成りすぎた。



女性達を宿に送り、私は子爵の邸宅に泊めてもらった。


翌朝出発の時、子爵が困った様子で話し掛けてきた。


「レナード様・・・実は・・・。」


「早急に馬車を頼んでしまったが、無理をさせてしまっただうか?」モモは、申し訳なさそうに聞いた。


「いえ、馬車は用意出来ております。・・・その・・・家の娘も連れて行って貰えませんでしょうか?」


子爵令嬢を?


「ダリアと申します。」令嬢はカーテシーをした。


「子爵、お勧め出来ません。旅は危険ですから。」モモは子爵を気遣って言ったが


「娘は四女ですから、好きな様にさせてやりたいのです。」

そう言って馬車を2台と娘を付けてくれた。


取り敢えずチーム分けをする。馬車1号は、班長リン。馬車2号は班長ダリア。

私は、1人乗馬での移動だ。

この人数での移動は容易ではない。旅はスローテンポに進んだ。

野営をする時も、薪ではない。キャンプファイヤーだ。


食事も彼女らが作ってくれる。食後には


「モモ様も一緒に踊りましょうよ。」


輪の中に連れ込まれた。社交ダンスしか知らない私は、見様見真似で踊ってみたが、中々に楽しい。



始めに思っていたよりも、毎日が楽しく旅をゆっくりと進めていた私だが、重大な問題に気が付いた。

私は、魔王を倒す旅をしていたのである。


それは、目の前にモンスターが現れて気が付いた事だった。


「きゃぁぁぁー!!」リンが悲鳴を上げる。

その声に共鳴するかの様に、あちらこちらで叫びにも似た声がこだまする。


リンは落ちていた棒を拾って、ブンブンと振り回した。やがてモンスターに当たり始める。その様子を見ていたダリア達も応戦する。


モンスターは、複数の女性に囲まれてタコ殴りの状態になっていた。


メンバー一同歓喜に湧いた。やれば出来る。

気を良くしたメンバー達は、得意分野を活かし始めた。


運動神経の良い者は、戦闘班

計算を得意とする会計係は、モンスターが落としていったコインを拾って管理していた。

外にも医療班、メイド班、食事班、エステ班などを勝手に作って喜んでいた。


特に戦闘班の活躍には眼を見張るものがあった。

戦闘員は棒を振り回し、次々にモンスターを倒していき戦いにも馴れていった。


私も負けずと剣を振るう。彼女達のお陰でレベルも順調に上がっているので、私の剣の腕も凄ましく上がっていた。


後方で控えているチアガール班からの黄色い声援を受けながら、次々とモンスターを倒す。


異国の地にある、男装して歌って踊る舞台があるらしいが、私も似たようなものだろうか?私は、音痴だが・・・。


小さな村があったので、立ち寄る事にした。メンバーの軽装備を整える為だ。


私は男として育ってきたので慣れているが、彼女達に重たい防具は着けられない。各自で選んで貰うことにした。戦闘班には使える武器があれば、購入するようにと言い残し彼女らに買物を任せた。


馬車に荷物が積み込まれていた。調理道具や清掃道具。剣やレイピア、ナックル。魔法の呪符等もあった。


商人が手を揉みながら近づいて来る。

「旦那様、この度は有難う御座います。」大量の買物に、主人は機嫌が良い様子だ。


「代金は・・・。」と私が言うと


手を振りながら「もう頂いております。沢山購入頂いてありがとうございます。粗品で御座いますが・・・皆さんで召し上がって下さい。」と言ってお菓子を差し出した。

高級な菓子ではないが、心遣いが嬉しい。

メンバー達も大変喜んで、手を振りながら別れを告げた。


それはそうと、支払いが済んでいるとは・・・?私は、会計係を呼んで話を聞いた。


「刺繍班の収益もございますし、予算はきちんと組んでいます。御心配為さらずに。」

とても優秀な会計係であったが、私は、困ったら言うようにと告げた。


私の知らない間に、チアガール班や刺繍班等が増えている・・・。


私達は取り敢えず、最後の町を目指していた。

どんどん集まってくるメンバーは、20人を越えた様だ。町で馬車を1つ追加せねばなるまい。

それぞれの役を務める。まるで、移動する会社の様な団体と成長していった。


戦闘班はモンスターを囲んでは、退治する。数が物を言う戦法だ。

菷やお鍋の蓋を持つ者もいた。竹の菷で叩かれるのは、地味に痛そうだ。

モンスターをタコ殴りにする事で、ストレスの発散にも繋がっている。


レベルアップしているのは、戦闘班だけではない。チアガール班も、太鼓やラッパを鳴らしている。

無駄遣いするなと言いたい所だが、会計係りは思った以上の働きを見せてくれているので、口を挟むのは止めた。


移動会社は随分と大所帯になっていて、収益もでているらしい。


知らず知らずの内に、私達のレベルはかなり上がっていた。戦闘班がモンスターを退治しまくったお陰で。


最後の町へ着いた。私は、宿屋を貸し切りにして謝恩会を開く事にした。感謝の印しに、何時もより贅沢な料理を振る舞いたかったからである。


夜になり、宴が始まった。


「この町の西側の森を抜ければ魔王城がある。今まで私を支えてくれたメンバーには、感謝しかない。これからも宜しく頼む。今夜は楽しんでくれ。」


モモが宴の挨拶をする・・・。


「キャー、モモ様ー!」

冒険メンバー・・・もとい、萌え萌えファンクラブのメンバーは黄色い声をあげた。

手作りの横断幕を振りながら。


横断幕には、モモ様の隣に大きなハートマークが描いてあった。

他者から見れば、ハーレム状態であろう。

実は全員が女性で編成されたチームであるの・・・だが。


父が私を男として育てた理由、それは男の子が欲しかったから。それだけだ。


今の私を見て喜んで下さるだろうか?



私は女でありながら、国で一番のモテ男だ。隣に並び立つ者がいない程に・・・。



西の森を抜ければ魔王城がある。


そこが最終目的地だ。






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