プリンセスあなたは勇者ですが、私はヒロインにはなれません。

七西 誠

第1話 プリンセス モモ編

私の名前は、アイリーン・ホワイト・グヴァラ。

父はこの国カーシミル王国の国王。母は元聖女。可愛い弟は王太子となって、幸せな日々を過ごしていた。

完全なサラブレッドであるこの私が、こんな目に会うなんて想像した事がなかった。そう、あの日までは・・・




『世界が滅亡の危機にある』




預言者のそんな言葉が始まりで、世界会議が行われた。

北の山奥に魔王が現れ、人類は滅亡する。

・・・そんな事ある訳ないじゃない。魔王って何?そんな風に思っていたのだ・・・がっ!


魔王が現れたらしい。



お父様に呼び出された。各国から選抜して、冒険者を輩出する事が決定したのだと。

この王国では17才で成人を迎える。17才以上の男女、独身の全員が対象者だ。

賢者様から託された、なんたら水晶とかで適正を判断するらしい。


「アイリーン、お前は今17才で独身だ。王国の権威の為にも一番に水晶に触れておくれ。きっと他国の王族も同じ様にするだろう。」


お父様がそうおっしゃっているのだから、仕方がない。面倒だが神殿に向かい適性検査を受ける。

専属ナイトのレオと侍女のアンを連れて、馬車で神殿へと向かった。


私が渋々水晶に触れると・・・透明の水晶がピンクの光を放った。


『おめでとうございます。』司祭が言った。


何が?


「王女様が一番最初の適正者でございます。」


いやいや、ちょっと待て。意味がわからん。

私が適正者?それの何がおめでとうございますなの?


王女が冒険パーティーに選ばれた事に依り、国中の若者が神殿に詰め掛け適性検査を受ける。男も女も関係ない。つまり頭1つ突き抜けるチャンスなのだ。


王女とお近づきになれるかも・・・。


魔王を倒せば一代限りではあるが、公爵に並ぶ称号が贈られる。人々の欲望が底なしに渦巻く。

しかし適正者は中々現れなかった為、希望者の騎士の中からも選ばれた。

参加者全ての適性検査が終わった。これから、パーティーの振り分けをしなくてはならない。


それらの作業は司祭が任された。


2時間程経ってようやく部屋から出てきた司祭が、パーティーのメンバーを発表した。



一旦其々のチームに分かれて、ミーティングを行う。話が長引きそうなので私は侍女を呼んだ。


「アン、お茶を入れて頂戴。クッキーも付けてね。」アイリーンは、話し合いに参加する気はなさそうだ。


「俺は水晶が赤く光ったよ。」


「私は緑色でした。」


あ~退屈。早く終わらせてくれないかしら。アイリーンは、このミーティングが終われば王宮に帰れると思っていた。・・・そんな訳がない!!!


自己紹介が始まった。


リーダーに抜擢された、黒い髪に赤い瞳の手足がスラッと長く美男子ではあるが・・・

熱血馬鹿っぽい男が

黄色く長い髪を1つに束ね翠子瞳をした貴公子の様な出で立ちをしている男の方を向いて言った。


「じゃあ、俺はレッド。君はグリーン。」


酷いネーミングセンスだわ。アイリーンは、小さく首を降った。


「王女様、貴女はピンクですね。」


熱血馬鹿が私の方を向いて言った。


暫くの沈黙・・・何を言っているのか、分からなかったから。


「・・・私?私の事を言っているの?」


「そうだよ。ピンク!」最高の微笑みを見せられた。




「いや~~~!!」




妥協案で、『モモ』と呼んで貰う事に決まった。

『モモ』もどうかと思うが、ピンクよりはマシだ。


話し合いも終わったみたいだし、そろそろ帰らせて貰おう。そう思って立ち上がろうとした瞬間


「早速出掛けるか。」レッドはピクニックにでも行く様な乗りで2人に言った。


パーティーには、幌付の馬車と薬草。少しのお金と初期装備が支給されている。


「何処に?」モモは恐る恐る聞いてみた。


「モモ、話し聞いてなかったのか?魔王を倒す旅に出掛けるんだよ。」

レッドは当たり前の様に言った。


グリーン、助けて。私は藁にも縋る思いでグリーンの顔を見た。


「分かりました。」グリーンは、渋い表情ながら承諾してしまった。


「ちょっと、ちょっとだけ待ってください。準備に3日の猶予を下さい。」

私は必死に頼み込んで、出発を3日遅らせて貰った。


王宮に帰って、お父様と話し合わなければならない。

私専用の馬車、ナイトのレオと侍女のアンはもちろん護衛騎士を5人程。シェフを1人、後・・・


3日しかない。アンと侍女達に、スーツケースにお出掛け用のワンピース等を詰めて貰う。スーツケースは、7つになったが何とか馬車に積む。他に忘れ物はないかしら?

暇潰しに、刺繍の道具も持って行った方が良いかしら。後でアンに相談しましょう。


こうして3日の間に思い付いた荷物を、全て積み込んで待ち合わせの場所に馬車で向かった。


先に来ていた、レッドとグリーンが締らない顔をしている。貴方達、口が開いているわよ。


「馬車は支給されているけど?」レッドが言った。


「いいの、いいの。私はこの馬車で、後をついて行きますから。」モモは平然と答えた。


「でも荷物が沢山あって、其方の馬車にも少し乗せてね。」モモは笑顔でそう言った。




※※※




3人は同じブレスレットをしている。カーシミル王国のチームの証だ。だが、モモのブレスレットは宝石等の装飾を施している。お揃いのブレスレットには全然見えない。全く別物だ。いいのか?これで?


レッドが言うには、取り敢えず弱い魔物を狙っていく。お金を稼ぎながら、レベルアップし装備品を揃える。冒険者とは、そういうものらしい。



暫く道なりに進むと、ザコモンスター達が現れた。


モモは目線を少しも動かさずに言った。

「レオ、やっつけて頂戴。」


「御意。」


王女の出番はこれだけ。何てエコなモンスター退治であろう。


レッドとグリーンとレオの3人が戦闘の最中であっても

「アン、おやつの時間よ。あそこの木陰に行きましょう。」と言って優雅なティータイム。


毎回このような形で冒険は、進んで行った。


「よし!今日はこの辺にしよう。宿屋で休憩するか?」リーダーのレッドが提案する。

宿屋に着くと、夕飯と部屋が用意された。


「こんな部屋で眠るのは嫌よ。内装を変えて頂戴。」

「何?この固い物。パン?・・・これパンなの?シェフを呼びなさい。」


こんな調子で、王女は我が儘の言い放題だ。


しかし、王女の言う事は絶対だ。モモの連れて来たシェフや侍女達は、それを叶える為にいる。


夕食は晩餐会の様なメニューになり、モモが食事を取っている間に部屋の改装が成されフカフカのベッドが運び込まれた。


「もうお腹いっぱい。」モモがナプキンで口の回りを拭っていると、宿屋の子供だろうか?残った夕飯をジッと見ている。


「お腹空いているの?一緒に食べれば良かったのに。」モモは、その子に向かって言った。


「お姉さん、これ食べてもいい?」

子供がモモに恐る恐る聞いてみた。


「食べ残しよ?」殆んどを残しているモモが言うと、


「友達も連れてくる!」その子は近所の友達を誘って、皆でワイワイと食卓を囲んでいた。


レッドとグリーンも近寄って来たが、

「貴方達は、冒険者でしょ?魔王を倒せば王宮で祝賀会があるわよ。それまで我慢なさい。」と言った。


モモが初めて見る庶民の子供は、汚い格好をしているが、中々に可愛い顔で笑っていた。

それから数日間の夕食は、村人の皆を呼んで賑やかな宴となった。


「そろそろ次のステップに進むぞ。」


旅立の日に、子供達は花冠を作ってくれてモモの頭に乗せてくれた。

「お姉さん、美味しい夕食をありがとう。」そう言って笑顔で送り出してくれたのだ。


貧乏人の庶民の子供でも、懐かれると可愛いわね。王女は満足気な顔で出発した。


モンスターが出た。ちょっぴり強そうだ。でもそんな事は、気にしない。


「レオ、大丈夫ね。」専用ナイトに言う。



「御意。」



レッドとグリーンのレベルもアップしているので、苦戦もせずにモンスターを退治した。

侍女のアンも王女付きだけあって、腕に覚えがある。

少しでも王女に近づいて来るモンスターは、アンが返り討ちにしていた。


何回か戦闘を繰り返すうちに、レベルは上がりお金も貯まってきていた。


「今日の宿は少し大きな町にするぞ。其処で武器や防具も揃えよう。」レッドの提案で、大きな町を拠点にした。


「レオ達の武器と防具は、私のお小遣いからだすから、お気遣いなく。」モモはそう言ってその町に売っていた一番の装備品をレオ達に買い与えた。


レッドとグリーンは、貯めたお金の中から相談しながら装備を選んだ。何なんだよこの格差は、と思う・・・


武器屋と防具屋の店主は大変喜び、オマケも沢山付けてくれ、町一番の宿屋を紹介してくれた。


そしてまた、豪華な夕飯を用意して町の人達と宴を行った。レッドとグリーンを除け者にして。


冒険者達が町へ返ってくると、町の人達が集まって来る。レオに剣術の教えを請う者。シェフに料理を教わりたい者。レッドとグリーンは、子供達に簡単な読み書きを教えた。


モモは町人の珍しい様子を眺めて楽しんでいた。


何日かを過ごすと、またレッドが指針を口にした。

「この辺りのモンスターも、歯応えが無くなったな。」


モモは驚いた顔をして聞いた。

「まさか・・・貴方達・・・モンスターを食べてるの?」


そういう意味じゃない!!



グリーンが説明をした。

「私達のパーティーのレベルは、格段に上がっています。多分、手応えが無かったという意味でしょう。」


「レッドは、相変わらずの熱血馬鹿なのね。」

モモが溜め息混じりで言うと、グリーンは苦笑した。


「明日の朝、出発だ。もう少し歯応えのあるモンスターがいる場所まで移動するぞ。」



出発の朝、町の人が総出で見送りに来てくれた。



レオやシェフ、レッドやグリーンを囲んで名残惜しそうに話をしている。



モモの所には、町長が来た。

「王女に御礼を申し上げます。町に活気が溢れました。有難う御座います。」町長は深々と頭を下げる。


御礼を言われる様な事、あったかしら?

モモは疑問に思いながらも、取り敢えず微笑んで見せた。



モモが通ってきた村や町は、モモの我が儘のお陰で大変賑わいを見せ、潤っていたのであるが・・・

そんな事、モモは知らない。


「次に行く大聖堂の近くのモンスターは、かなり強敵だ。気合いを入れて行くぞ!」

レッドが意気込んで見せた。




※※※



冒険も終盤に入り、かなり強いモンスターが襲ってきた。


モモは少し後方で椅子に座り、様子を見ていた。

レッドにグリーン、そしてレオも苦戦を強いられていた。何とも情けない姿だ。


「レオ、負ける事は許しません。」モモは戦闘中のレオに声をかけた。



「御意。」



期待に応えるかの如く、急にレオの動きがよくなってモンスターを倒す事が出来た。


「貴方達、まだまだね。ちゃんと訓練してるの?」椅子に座ったままのモモから、お説教が始まった。


レッドとグリーンは、お前が言うな!!的な態度だ。


その日から、大聖堂を拠点とした冒険が始まった。

大聖堂とは、便利なものである。少し位の怪我であれば、ポーションを使って治療してくれるのである。

ここで一気にレベル上げをする。なんたって効率が良い。そして、夕飯も良い。

大聖堂と王宮は密接な関係にあり、王女の所属するパーティーに恩を売りたいが為、かなりの厚待遇で迎えられたのだ。


レッドは大聖堂の待遇に大満足で、これ以上冒険を進めなくても良いのではないか?ここの暮らしは悪くない。そう思ったが

その考えを見透かしたグリーンはレッドに声を掛けた。

「他のパーティが魔王を倒せば、王女は王宮に帰り私達は解散。いつまでも、此処に置いて貰えませんよ。」


当たり前の事だ。何を呑気な事を考えていたのだろう。レッドの熱血馬鹿の血が再び騒ぎだす。


グリーンは笑いながら、扱いやすい単純な男で良かったと思った。


次の日、レベルを上げに森の方へ行ったのだが・・・何故かモンスターレベルが以上に高い。


強い・・・此処まで強いとは!

モンスターが強くて苦戦を強いられた。


ようやく倒すことが出来たが、ギリギリであった。


モモは椅子に座って読んでいた本を、膝の上に伏せ溜め息をついた。


その態度にカチンときたレッドが愚痴る様に言った。

「モモ、ちょっとは手伝えよ。」


「何を言っているの?レオが戦っているじゃない。」


「レッド、私達の力不足だ。モモのせいではないよ。」

グリーンは現状を冷静に把握して言った。


グリーンも同じ事を思っていたのだが、言うのを躊躇っていたのだ。よく考えてみろ。モモとレオが入れ替わったとして、戦況が変わるか?

うん、変わる。寧ろ悪くなるだろう。それならば、このままレオに頑張って貰った方が良い。


大聖堂の北にある森を抜ければ、いよいよ魔城だが・・・どうやらレベルが足りてなさそうだ。

「此処は一旦退く方が良いのでは?」グリーンが提案する。


レッドが嫌な顔をした。熱血馬鹿なレッドに退くという選択肢はない。でも言葉に出来なかった。


「嫌よ。」モモが口を開いた。


レッドとグリーン。二人同時にモモの方を見た。


何故見てるの?と思いながらも続けた。

「王宮に帰るのが遅くなるじゃない。私は、早く帰りたいわ。」


打開策でも何でもなかった。只の我が儘だ。


「モモ、命が懸かっているんだよ。」

グリーンが、言い聞かすように言う。


その時、モンスターが大群で襲ってきた。


レッドとグリーンが、臨戦態勢に入るが一歩遅い。

レオとアンも王女を庇う様に戦っていたのだが、モンスターの吐いた火の粉が飛び散った。



・・・チリチリと焦げる様な臭い。嫌な予感しかない。皆が一斉に振り返った。




モモのワンピースの裾が焼け焦げていた。モモは震えながら立ち上がり、腕を伸ばした。




「お気に入りの刺繍が入ったワンピースだったのに。何してくれるのよぉぉぉ!!!」


伸ばした掌から、モンスターに向けて光が発せられ

辺り一面に火柱が立ち上がり大群のモンスターを一掃した。


馬鹿みたいにレベルが上がった。




「嫌になっちゃうわ。アン、着替えを出して頂戴。」


モモは何事もなかったの様に、着替えをしに馬車に戻った。




「魔王・・・倒せるかも知れない。」グリーンが小さく呟いた。

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