第2話 戦前のサラリーマン
今回は当時のサラリーマンについて説明したいと思います。
戦前や昭和初期という時代は、現在を生きる我々にとって、白黒の映像、権力によるメディアや反権力団体の弾圧といったネガティブイメージに彩られているかと思いますが、山本夏彦氏の至言の如く「テレビ以外は全部あった」といって差し支えはありません。
無論、スマホやネットはありませんが、30年前くらいの生活からテレビを抜けば案外似たような生活になると思います。
ただし、年金制度もなければ医療保障制度もない。一家に一台車がある訳ではなく、ラジオ(当時の表記ではラヂオ)も全世帯にある訳ではありませんでした。だから「在るところにはあったが、無いところも多かった」の方が正確かも知れませんね。
さて、本題のサラリーマンについて。
この『サラリーマン』という言葉、この頃には一般的な用語になっており、その行動様式も現在とあまり変わらない部分もありました。スーツにネクタイという姿形はそのままに、ポマードで整髪というのも、イメージ通りかと思います。
「ウチの旦那が会社帰りに飲み屋をハシゴして、夜のお店に通ってから深夜に帰ってくる」
これは今の言葉ではありません、あの当時の様態です。
この当時から『サラリーマン』の勤務、行動様式は確立されており、退社後の行動も同じと言った具合でした。記録写真にある、ビアホールでサラリーマンがずらりと並んで呑んでいる姿など、カラー化すればついこの間の写真と見紛う勢いです。
ただし本文の通り、工場勤務の工員と、営業等のサラリーマンは、給与や扱いがそもそも違っており、労働者保護を担う労働法が戦後ほど整備されていませんでしたし、工員の給料はサラリーマンに比べて低く設定されていました。
言い方を変えれば、サラリーマンは当時の花形職種だったのです。現在の感覚では外資系企業のエリートサラリーマン、といった具合でしょうか。
なお、サラリーマンの月給は平均で約100円。
戦前昭和における100円は、超単純計算ですが2000-3000倍すれば、現在の貨幣価値と似たようなものになります。昭和16年の「とんかつ」が30銭なので、現在の600-900円と考えれば、およそ正確かと言えます。
20万円から30万円のお金で、現在と似たような行動様式を行っていたのが、当時の『サラリーマン』という生き物です。ですので、現在のステレオタイプの『サラリーマン』像が、戦前でもほぼ通じる希有な存在としてお読み頂ければと思います。
もっとも、土地や生活事情が現在と異なり、
①多くが借家住まい
②電話は少なく、電報が中心
③電気式の冷蔵庫や洗濯機はほぼ存在せず、男一人で自炊や洗濯というのは居ても珍しい存在
④お手伝いさん、女中さんがいれば家事は任せられる
⑤上記のことから、独り身は外食が中心となる
という、違いがありますが、これら諸条件を背景として認識しておけば、戦前の解像度を上げることが出来ると思います。
以上、戦前の『サラリーマン』のちょこっと解説でした~。
参考文献:
岩瀬 彰「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)
週刊朝日編「値段の明治大正昭和風俗史 上」(朝日文庫)
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