第6話

「いや、ここどこ…」


翌日、店長からもらったメモ用紙でさっそく詩織さん宅に向かったのだが…



カンカンカン!


「ちょっとそっち持ってー!」


「それこっち運んで!」


ガガガガガガ!!



…完全に工事現場だった。渡された住所これであってんの?ビルの建設現場になってんだけどここ。


念の為、スマホで検索するも間違いは…ない。


店長が嘘ついたとか…でもあの状況で嘘をつくとは思えない。なんなら俺ん家に来た詩織さんも店長から聞き出してるだろうし。


となると、詩織さん自身が嘘をついたか…。


でもなんの為に?理由が…思いつかない。



ブツブツ建設現場の前で考えていたせいだろう。


「あんちゃん、どうしたんだ?ここで働きたいのか?」


「あぁ、いや違うんです!スミマセン失礼します!」


話しかけられてしまった。そりゃ目の前で突っ立ってたら何かあるんじゃないかとって思うよな!


「本当何もないんで!失礼しました〜!」


建設現場をそそくさ後にした。



しかし、予想外だった。会った時のことを色々考えていたのに会うことすら叶わないとは。


会えないとすらなるとマジでどうしたらいい?店長は知ってるのかな?これなんて店長に報告しようか?


…って直接店長に電話で聞いてみるのが早くね?我ながら混乱しすぎて気づくのが遅すぎる。


店長…店長っと。店長のアカウントを見つける。


うわぁ…今更ながら店長のアイコン超キモいな。だって大の男(マッチョ)が2人でハート作ってる自撮りとか誰得よ。なんかプロフ見るのですら寒気が止まらないもん。


…気を取り直して電話を掛ける。


『はぁ〜い♡しもしも〜♡あっ下ネタじゃないわよ!もぉ〜さぁーきゅんったらぁ♡』


「あれ?電話掛け間違えたみたいですすみませ…」


『ウソウソ!軽いジョークじゃないの!さぁーきゅんったら冗談通じないんだから〜!」


「いや分かってますよ」


分かってるうえでこっちは言ったんだ!店長に電話すると毎回こういうくだりから始まるからぶっちゃけだるいんよ。


しかも今日はやけに機嫌がよろしいようで何かあったのか。


「店長何かいいことでもあったんすか?」


『あっ〜分かっちゃう?あたしって分かりやすいのかしら?あのね、昨日来たマッチョさんと食事に行くことになったのよぉ!もぉすっかり意気投合しちゃってね!…』


その後もうんちゃらかんちゃら。…聞いたのは俺だけど聞かなきゃよかった。


…まあでも今の時代LGBTQという多様性の時代らしいから好きにして欲しいと思う。


っていや店長の話は今は良くて!


「店長!それより詩織先輩の自宅あってますか!」


『ん〜?履歴書に書いてあったものを渡したわよ?何かあったの?』


「それが…記載の住所通りに行ったんですけどビルの建設現場になってました」


『えぇ!?そんなことあるぅ?!…念の為に聞くけどさーきゅんが間違えてるって線は…』


「そう思ってスマホの地図アプリでも検索かけてみたんですけどやっぱり合ってて…」


『…そうなの…。…んんぅ〜とりあえずこの件はあたしも人を使って調べてみるからさーきゅんも…』


「…」


『さーきゅん?』


それは店長と電話しながら大通りを歩いていた時だった。


別に何かあったわけでもない。でもふとそこに目がいったんだ。


大通りの脇道。薄暗い影に1人の薄汚れた人が座っていた。まあホームレスかなんかの人なんだろう。そう思って通り過ぎようとしたのに。



ボーイッシュに切り揃えられた髪の毛。裾や袖は汚れているが1週間ほど前にも見たあの服装。あどけなさが残る顔つき。




詩織さんだった。




「詩織さんっっ!!」


「……………………さー、ちゃん?」






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